「中谷潤人の評価が一段上がった」井上尚弥を最も苦しめた12ラウンド──頂上決戦が残した真実

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井上と中谷の頂上決戦は、ハイレベルな技術戦となった(C)産経新聞社

 5月2日、ボクシングの世界スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥(大橋)が、4団体のベルトを懸けて、世界3階級制覇王者の中谷潤人(M.T)と対戦。3-0の判定勝ちを収めた。この試合を識者はどう見たのか。ロンドン五輪ボクシング・フライ級日本代表であり、井上が「第二の師匠」として慕う、須佐勝明氏が頂上決戦を読み解く。

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 一言で言うと、中谷潤人という選手の評価が、また一段と上がる試合でした。率直な感想として、それがまず頭に浮かびました。

 序盤は井上尚弥選手が圧倒的なスピードとフェイント、そして距離感で完全に支配していました。中谷選手の体重を後ろ寄りにさせるような絶妙なプレッシャーをかけ続けて、前でのボクシングをさせない。これは明らかに作戦として機能していたと思います。

 ところが中盤、7ラウンド、8ラウンドあたりから流れが変わってきました。中谷選手が前に出始めて、主導権を取ってもいいぐらいのラウンドが何度もあった。今まで井上選手の試合で、後半にこれほど苦しむ場面はなかった。それだけ中谷選手の底力というものを見せつけられた試合だったと思います。

 お互い、打ち終わりのカウンターを徹底的に警戒していました。井上選手が右ボディを打ったところに、中谷選手が左フックを合わせにくるシーンが何度かあった。ああいう一瞬の隙に仕留めにくる怖さが中谷選手にはある。だからお互いが慎重になって、パンチの応酬の時間が少ない技術戦になっていきました。判定まで両者がある程度余力を残していたのも、そういった駆け引きの産物だったと思います。

 3-0の判定という結果については、妥当だと思います。序盤から中盤にかけて井上選手がしっかりポイントを積み上げていた。後半は確かに中谷選手に押される場面もありましたが、井上選手はそこで無理をしないで12ラウンドを戦い切った。相手のパンチをしっかりリスペクトしながら、ポイントを積み上げていく。そういう勝ち方だったと思います。

 中谷選手は、今まで井上選手と戦った選手の中で、最も苦しめた男かもしれません。10ラウンドのバッティングによる眉間カットも乗り越えて、最後まで気持ちを折らずに戦い続けた。あの静かな佇まいで、侍みたいな独特の怖さがありましたよね。ああいう選手はなかなかいません。

 今後については、スーパーバンタムで経験をさらに積んでいってほしい。井上戦も僅差の試合でしたから、本人も大きな自信をつけたはずです。時期尚早という声もありましたが、私はそう思わなかった。この経験がまた中谷選手を一段上に引き上げていくと思いますね。

 井上選手については、去年から5試合を駆け抜けてきた。今日の東京ドームを終えて、まずはしっかり休んでもらいたい。その上で、階級を上げるのか、この階級を守っていくのか、またさらに進化した姿を見せてくれると思います。

 そして日本ボクシング界全体で見ると、この試合は一つ大きな意味を持つ節目になりましたよね。東京ドームが満員になる。若い選手たちにとって、こういう舞台があるんだというロールモデルができた。今、若い世代も育ってきているし、ボクシングの新しいファン層も生まれてきている。これだけ盛り上がる土台が整ってきた。これから若い選手たちがどんどんアピールして、もっとボクシング界を盛り上げてほしいと思います。

【解説】須佐勝明(すさ・かつあき)

1984年、福島県生まれ。会津工業高校から東洋大学へ。2012年、自衛隊体育学校所属時にロンドン五輪に出場。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太東洋大学の1学年後輩にあたる。株式会社AYUA代表取締役。日本ボクシング連盟理事。日本オリンピック委員会ハイパフォーマンスディレクター。SUSAGYM会長。アジアコーチ委員会委員長。共同通信社ボクシング評論担当。会津若松市観光大使。ほか。