Mrs. GREEN APPLE

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MUFGスタジアム

 4月18・19日にMUFGスタジアム(国立競技場)で行われたMrs. GREEN APPLEのライブで複数のトラブルが発生して議論を呼んでいる。【ラリー遠田/お笑い評論家】

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【写真】かつて問題となったMVのワンシーン YouTube上ではジャケ写の静止画像動画に差し替えられた

 1つは、会場内に設置された「LIMINAL SUITE(スイートルーム)」内で、一部の招待客が公演そっちのけで騒いでいて、周囲の客に迷惑をかけていたというものだ。MUFGスタジアムの運営会社であるジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメントは、この問題について管理体制の不備を認めて謝罪した。

Mrs. GREEN APPLE

 もう1つは、度重なる花火の演出が隣の神宮球場で行われているプロ野球の試合進行を妨げていたことだ。そこではヤクルト対巨人の試合が開催されていたのだが、2日間で計4回の花火タイムのたびに試合は中断することになった。

 Mrs. GREEN APPLEのライブにまつわるトラブルはこれが初めてではない。2025年7月に横浜の山下ふ頭で行われた野外ライブでも、会場周辺の広範囲にわたって騒音被害を訴える人が続出して、所属事務所とイベント会社が謝罪文を発表したことがあった。

 いまや国民的人気アーティストとなった彼らのライブで、このような問題が続発しているのはなぜなのか。

 その背景にあるのは、Mrs. GREEN APPLEがもはや単なる人気バンドではなく、メディアを横断して多くの人を巻き込む巨大コンテンツに成長していることだ。2026年にはNHK連続テレビ小説「風、薫る」の主題歌を担当し、レギュラー出演する本格志向のバラエティ番組「テレビ×ミセス」(TBS系)も始まった。もはや彼らは音楽ファンだけに支持されているという状態を超えて、幅広い層に認知される存在になっている。

 一部のVIP客が会場のスイートルームで食事やシャンパンを楽しみながら大声で騒ぐ様子が反感を買ったのは、チケットを取れなかった熱心なファンもたくさんいるようなライブで、周囲にいる観客に迷惑をかけた上に、それ以外のファンにも悪い印象を与えたからだ。人気が大きくなるほど、熱量がなく配慮に欠けたライトな層まで引き寄せてしまうことになる。今回の一件ではそれが露呈していた。

老若男女に届く開放性

 花火問題も同じ構図の延長線上にある。花火の演出はこの手のライブで定番のものではあるが、隣接する球場にいる選手や観客にとっては試合の流れを妨げる迷惑行為と見なされてしまう。

 2日間とも試合中に中断が発生しており、演出のタイミングが競技の流れと無関係に組まれていたことが不満を招いた。問題は、花火を打ち上げたこと自体ではなく、巨大イベント同士が隣り合う都市空間で、誰の時間を優先するのかという調整が十分にできていなかったことにある。人気のあるアーティストであるほど、この手の問題が起きたときに「人気を笠に着た傲慢さ」がにじみ出ていると捉えられてしまい、余計に印象は悪くなる。

 では、なぜミセスのライブでこうした問題が続発しやすいのか。ここには、彼ら自身の性質というより、現在のミセスが背負わされている役割の大きさがある。彼らはポップで華やかで、老若男女に届く開放性を持っている。そのため、コアな音楽ファンだけでなく、SNSで盛り上がりたい層、企業案件と親和的な層、イベントを「体験」として消費したい層までもが集まりやすい。

 ファンの母数が爆発的に増えると、共同体としての規律は薄まり、マナーのばらつきも大きくなる。しかも会場が大きくなれば、運営は音楽公演であると同時に都市イベントの管理者にもならざるを得ない。今回の一件は、ミセスが悪いという単純な話ではなく、ミセスというブランドがすでに「音楽」の領域だけでは完結しない規模に達していることの副作用だと見るべきだろう。

 Mrs. GREEN APPLEという存在の本質は、単に才能あるヒットメーカーであるだけでなく、現代日本の「無難に広く好かれるスター」の理想形に近いところにある。だからこそ企業もテレビも公共性の高い舞台も、安心して彼らを担ぎやすい。

 しかし、その安全で明るいイメージが極大化すると、そこにファンだけではなくライトな層も大量に流入してくることになる。そこからさまざまな問題が発生することになる。

 今回の騒動が話題になったのは、ミセスがただのバンドではなく「公共財」に近い扱いを受けているからだ。今後の焦点は、彼らがその規模に見合うだけのライブ運営能力を持てるかどうかである。今回の問題続出は、人気の陰で起きた偶発的事故ではなく、人気のレベルが次の段階に進んだときに避けて通れない試練だったのではないか。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部