マルジェラ はなぜ上海を選んだか。変化する中国消費とファッションの最前線

記事のポイント上海ファッションウィークには海外バイヤーやエディターが戻り、国際的な注目が再び高まりつつある。メゾン・マルジェラはパリ以外で初めて上海でショーを開催し、中国市場での存在感強化を打ち出した。中国消費の慎重化が進むなか、国内ブランドの台頭と市場再編がラグジュアリー勢の戦略を変えはじめている。
上海ファッションウィークは3月25日から4月1日まで開催され、近年のシーズンよりも多くの国際的な参加者を集めた。海外のバイヤーやエディターがイベントに復帰し、スケジュールや各ブランドの取り組み方にも変化がみられた。メゾン・マルジェラがパリ外初のショーを上海で開催
欧米ブランドもこの機会を積極的に活用している。現地に拠点を持たなければ市場参入がますます難しくなるなか、中国市場での存在感を高める好機として捉えている。今回のイベント最大の見どころは、メゾン・マルジェラ(Maison Margiela)のショーだった。パリ以外で開催されるのは今回が初めてで、4月1日に上海で実施された。会場となったのは上海郊外の工業用接岸場所。クリエイティブディレクターのグレン・マーティンス氏のもと、初めて高度な職人技を駆使したオートクチュールとレディ・トゥ・ウエア(サイズやデザインがあらかじめ決まっているアパレル製品)を融合させた構成が披露された。パリから輸送された70以上のルックには、蜜蝋や磁器などの素材を取り入れた作品も含まれていた。また、アルチザナル・コレクションの約20%は、ショー終了後にブランド公式サイトで購入可能となった。これに合わせて、上海、北京、成都、深圳ではアーカイブ展も同時開催。さらに、WeChatのミニプログラムを通じて、現地の観客に動画、インタビュー、舞台裏コンテンツが配信され、デジタル上でも体験を拡張した。この開催は、メゾン・マルジェラが親会社であるOTBグループ(OTB Group)内で存在感を高め続けるなかで実現したものでもある。2025年の売上高は前年比8.4%増となり、ブランドの成長基調が鮮明になっている。ブランド側の声明によれば、今回の上海開催は、中国市場におけるマルジェラのプレゼンス強化をめざす、より大きな戦略の一環だ。ランウェイショーと展示会を組み合わせることで、ブランドの世界観をより幅広い現地のオーディエンスに届け、将来的な成長基盤を築く狙いがある。慎重化する中国消費と揺らぐ欧米ラグジュアリーの優位性
投資運用会社バーンスタイン(Bernstein)のデータによれば、中国の消費者は、いまなお世界のラグジュアリー需要の約23%を占めており、市場は業界全体の回復に欠かせない存在であり続けている。一方で、需要を取り込むことは、特に欧米ブランドにとって難しさを増している。長引く不動産不況が家計資産を圧迫し、とりわけ若年層では貯蓄志向が強まっており、消費行動は一段と慎重になっているからだ。バーンスタインのラグジュアリーアナリスト、ルカ・ソルカ氏はこう分析する。「消費者は、高額商品を購入できる場合はより魅力的なブランドへ『トレードアップ』し、そうでない場合は、より手頃な価格帯のブリッジブランドやプレミアムブランドへ『トレードダウン』している」こうした環境は、国内ブランドにとって追い風にもなっている。模倣から成長へ、中国ブランドが広げる海外展開
ラグジュアリーブランドの中国進出を支援するコンサルタント兼キュレーター、ジェマ・A・ウィリアムズ氏は、現在の市場を「ソフトなレプリケーティング(模倣)」が広がる局面だと表現する。「ブランドは、デザイン言語の面ではなじみのある雰囲気を提供しつつ、より手頃な価格と入手しやすさで提供している。消費者にとっては、トレンドに乗りながら出費を抑え、それでもデザインの信頼性のあるものを買っている感覚を得られるため、非常に魅力的な選択肢になっている」ウィリアムズ氏は、近年海外展開を加速させている中国ブランドとして、アイシクル(Icicle)、アーバンリボ(Urban Revivo)、ソングモント(Songmont)を挙げた。「12カ月で、中国ブランドがグローバル規模で存在感を強めていく様子を、はっきり目にしている」と同氏は述べた。「積極的に事業を拡大し、海外に店舗をオープンしたり、知名度を高めたりしているブランドが増えている。しかし、ペースは数年前の予想よりもはるかに遅いペースで進んでいる」。一方、スポーツウエアブランドのアンタ(Anta)やリーニン(Li-Ning)などの中国ブランドも、小売、パートナーシップ、マーケティング施策を通じて知名度を高めていると、ウィリアムズ氏は述べた。スーザン・ファンが実践する英中2市場戦略
中国人デザイナーのスーザン・ファン氏は、イギリスと中国の2つの市場に注力して自身の名前を冠したブランドを築いてきた。ロンドン・ファッションウィークで定期的にコレクションを発表する一方、上海ファッションウィークにも参加し、国内の顧客や小売パートナーとのつながりを維持している。2市場戦略は、ファッションブランドにとってのより広い業界の現実を反映している。中国は依然として重要な成長市場だが、需要にムラがあるため、ブランドはグローバルなプレゼンスと現地でのエンゲージメントのバランスを取る必要があるのだ。最近のコラボレーションについて、ファン氏はこう語る。「ナイキ(Nike)との取り組みは、中国法人のブランドパートナーシップチーム経由ではじまった。ケースティファイ(Casetify)も同様に中国チームからの話だったが、結果的にはグローバル規模のコラボレーションになった。一方、シューズブランドのメリッサ(Melissa)は最初からグローバルチームからの依頼だった」。「マーケティングに使える予算はあまりない。だから、コラボレーションは実験的な試みに役立つだけでなく、事業を支え、認知度を高めることにもつながる」。とファン氏は続けた。近年のコラボレーションパートナーには、iPhoneケースでのAppleのほか、ナイキやアンドアザーストーリーズ(&Other Stories)があり、グローバルな流通を可能にした。ブライダル進出とSKU削減で進む収益構造の再設計
最近では、ファン氏はブライダル分野にも事業を広げている。きっかけは4年前、顧客たちが同氏の色彩豊かで装飾性の高いショーピースを、ウエディングドレスとして購入しはじめたことだった。「まったく予想していなかった。でも、自分たちの作るものが、そうした特別な場にもふさわしいのだと気づかされた」。フェン・チェン・ワン(Feng Chen Wang)、サミュエル・グイ・ヤン(Samuel Gui Yang)、グオ・ペイ(Guo Pei)、ラン・ユー(Lan Yu)などほかの中国人デザイナーも、ランウェイピースよりも販売しやすいブライダル、アクセサリー、レディトゥウエアなどのカテゴリーに注力している。また、ファン氏はコレクション規模の見直しも進めた。「以前は1コレクションにつき約200点を制作していたが、すべてがショーに登場するわけではなかった」と語る。「いまはもっとコントロールし、品質を高め、本当に機能するものに集中している」。今シーズンはSKU数を100点に絞り込み、慎重な市場環境のなかで品揃えを精査するほかの中国ブランドと足並みをそろえている。上海ファッションウィークでのショーを複数シーズンにわたって行っているにもかかわらず、ブランドの業績は市場によってムラがある。ファン氏によると、ブランドは現在、需要がより予測しにくくなった中国よりも韓国と日本でより強い成長を見せている。アジアでは、ブランドは上海のレーベルフッド(Labelhood)をはじめ、北京と香港のクラフト志向のリテーラーであるカクテル(Cocktail)など、限られた卸売パートナーと連携して展開している。
