今の若者が“鬼畜と悪ノリの時代”をうらやましがるのはなぜ?「電気グルーヴのANN」放送作家と「BUBKA」元編集者が語る、90年代サブカルの狂騒と終焉
〈「あの頃、9月の終わりは寒かった」ドラクエや日本シリーズに行列ができて、コインシャワーがあった時代…渦中で生き抜いた当事者2人が“90年代サブカルの熱狂”を今語り直す理由〉から続く
90年代サブカルの墓標ともいえる『オールナイトロング』(双葉社)と、時代を狂喜させた“鬼畜系”サブカル雑誌の現場を回顧する『凡夫 寺島知裕。』(清談社Publico)。それぞれの著者である椎名基樹さんと樋口毅宏さんが、電気グルーヴとコアマガジンのエロ本という意外な接点を手がかりに、“あの時代”の実相を語り合う。
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電気グルーヴの深夜ラジオでも行われた、有名人のプライベートをネタ化する過激な文化は、なぜ生まれ、どのように広がったのか。その“鬼畜と悪ノリの時代”はなぜ終わりを迎えたのか──。そして、今もカルチャーの最前線を走り続ける電気グルーヴは、なぜそうした時代を生き抜くことができたのか。90年代サブカルの光と影、その終焉の背景を掘り下げる。(全3回の3回目/最初から読む)

椎名基樹さんと樋口毅宏さん ©橋本篤/文藝春秋
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卒アル暴露に、電気のエロ本連載。90年代サブカルが内包していた「毒」の正体
椎名 『電気グルーヴのオールナイトニッポン』では、有名人の卒業アルバムをネタにした投稿コーナーがあったじゃないですか。樋口さんの『凡夫 寺島知裕。 「BUBKA」を作った男』(清談社Publico、以下『凡夫』)を読んで『BUBKA』のやってたことの過激さに驚きつつ思い出したんですけど、有名人のプライベート写真とかを集めてネタにするのって、もしかしたら電気の番組が最初だったんじゃないかなって。
樋口 確かに!
椎名 もちろん、良くないことですよ。でも石野(卓球)さんの恐ろしさって、そういう「弱み握り術の凄さ」にもあると僕は感じていて(笑)。いまネットで「サブカル」って調べると、僕の思う青林堂的なサブカルではなくて、鬼畜系の話がどんどん出てくるんですけど、石野さんはそっちの感覚も持っていたのかな、って。90年代って、どうしてあんな鬼畜系ブームみたいなものが起こったんでしょうね?
樋口 今の若い人たちが「サブカル」って検索すると、そういうのが先に出てきちゃうのは悲しいし嫌だなぁ。でも、僕が電気のオールナイトニッポンを聞いていた頃、電気は『スーパー写真塾』(コアマガジン)というエロ本に連載を持っていたんですよね。
椎名 えー、そうなんですか!
樋口 そんなに長くは続かなかったですね。僕がコアマガジンに入社する95年頃には連載を卒業する感じだったと思いますし、会社でお会いしたこともないんです。コアマガジンにはいろんな種類の鬼畜系の要素がありましたけど、僕は猟奇的なものにはそんなに乗れなかったんですよねぇ。
椎名 そういうのが今はサブカルの一種みたいになってますよね。僕のイメージではサブカルといえばみうらじゅんなんだけど。
樋口 後に僕が編集者としてみうらさんを担当させてもらったときは、「サブカル」と言われるのをすごく嫌がっていました。「俺は福山雅治とかと対談したいのに、サブカルの枠に入れられる!」と愚痴っていましたから。
椎名 僕の中では久住昌之さんもサブカルのイメージだけど、今はそうじゃないだろうしねぇ。
樋口 『孤独のグルメ』があれだけ人気のテレビドラマになってますからね。
椎名 『中学生日記』(久住昌之+久住卓也による兄弟ユニット「Q.B.B」)とかはみんな読んでないのか……。僕の中では一番売れたサブカルの人が久住さんで、いちばん偉くなったのはしりあがり寿さんというイメージです。
樋口 これは吉田豪さんがおっしゃっていたと思うんですけど、サブカルと言っても星野源から根本敬さんまで幅が広いですからね。
椎名 ヘタウマから始まるサブカル価値観は、今の「コスパ」に取って代わられたのかな、ってのが僕の印象です。
コンプラとキャンセルカルチャーに萎縮する現代、90年代の“異常な熱気”が羨まれる理由
椎名 それにしても『凡夫』はすごい本ですよね。「会社でこんなことが起きる?」っていう衝撃的なことが次々と起きるから(笑)。
樋口 編集者の全員が狂人ですからね(笑)。本当にムチャクチャな時代でしたけど、僕はあの時代に「どうしても雑誌を作りたい」と思ってバイトからコアマガジンに潜り込んだ人間でしたし、あの時代の出版業界にいられて本当に良かったと思います。「生まれ変わってもコアマガジンに入りたいか?」と言われたら勘弁してほしいですけど(笑)。
でも『凡夫』を読んだ若い人の感想には、「自分が同じことをしたいとは思わないけど、こんなムチャクチャなことをできた時代が少し羨ましくもある」という声もあるんです。やっぱりコンプライアンスが重視され、キャンセルカルチャーですぐネットで叩かれる今の時代には、そういう空気に萎縮して、自分が面白いと思ったことをできない空気があるんだな、と。それは気の毒に思う部分もあります。
もちろん犯罪とかいじめ的なものは一切肯定しないですけど、僕も椎名さんも若い頃って「本当に俺、どうかしてたな……」って思うような恥ずかしいことを沢山やってきたじゃないですか。「若い男はバカをやって当たり前」みたいな空気がなくなったのは気の毒に思います。
椎名 この『オールナイトロング−私にとっての電気グルーヴのオールナイトニッポンとその時代−』(双葉社、以下『オールナイトロング』)をデザインしてくれた30代の男の子も「90年代のこの感じが羨ましい」と言っていました。僕より10個下ぐらいの女の子も、マッドチェスターとかのムーブメントをリアルタイムで体験できたのが羨ましいみたいで。こういうパーティーばかりで楽しかった時代はまた訪れるんですかね?
樋口 この本を読むと、椎名さんはそういう場にいっぱい行かれてますよね。
椎名 遊び場も多かったから楽しかったですね。それにしても、この頃の日本のサブカルチャーの花の咲き方って本当に異常だったよね。
樋口 百花繚乱でしたねぇ。
椎名 50年代のアメリカくらいの咲き方をしてるなって思うよ。
樋口 それ、同じようなことを2年くらい前にコーネリアスの小山田(圭吾)さんに聞いたんですけど、「まず一つは、世界中の中古レコードが東京に集まっていたのが理由」とお話しされていました。フレンチものからサントラまで色んなものが集まってたし、しかも当時はサンプリングがかなり自由だったんですよね。今では数秒使うにも許可が必要なのが、当時はそのあたりが緩くて、そこから聞き手は元ネタ探しに旅に出て、古い音楽を温故知新で楽しむことができたのに。
椎名 あと当時はゲームソフトとかも凄かったよね。
樋口 そして総合格闘技。『オールナイトロング』に書かれていたPRIDEも凄かったです。
「お金はなかったが、雑誌は買えた」――100円バーガーや中古レコードが支えた90年代サブカルチャー
樋口 あの時代のカルチャーって、結局は「悪ノリ」がすごく強いので、今で言うところの「有害な男らしさ」として断罪されると思います。僕の『凡夫』の話もそうだし、椎名さんの『オールナイトロング』にもそういう要素はあると思います。なので、この時代のサブカル的なものは「一旦はもう終わったのかな」と思います。
あと、今と昔の違いでいうと、今の若い人は昔以上にお金がないんですよね。僕らの若い頃もお金はなかったですけど、ないなりに楽しんで生きていたじゃないですか。電気のお2人もやっていた有名なエピソードみたいで、自動販売機の小銭のところに指を突っ込んでお金を探したり。
しかもお金がないと言っても、昔はセブンイレブンのおにぎりも100円だったし、吉野家の牛丼も270円だったりした。マックのハンバーガーも80円の時代もあったじゃないですか。
椎名 サンキューセット(390円のマクドナルドのセット)とかねぇ。
樋口 そうそう。だから書店に行けば好きな雑誌を買えたし、レコード屋でも中古で安くなってるレコードを買えたんです。物価高の今は買えないですよね。
でも今の若い子は、お金がなくても1日YouTubeやショート動画で楽しめるし、そこでまた新しいムーブメントはどんどん生まれてると思います。僕らの頃よりも規模が大きくなったアニメのカルチャーもありますし、僕らの時代とは違う形で、若者はタフに・したたかに生きているし、その世代にしかない好きなものがあると思います。
「アルバム2〜3枚でファンを名乗った」あの頃。サブスクが解体した、音楽との“重たい”付き合い方
樋口 個人的なことで言うと、僕も「これは一生聞くだろうな」と思っていた90年代の音楽をほとんど聞かなくなりました。もう血と骨になるどころじゃなく、排泄物になった感じのものも多くて、今は今の時代の新しいものを聞いています。藤井風なんか本当に天才だと思うし、自分の年齢が今の半分だったら神として崇めてると思います。
椎名 Spotifyとか最高だもんねぇ。あまりの量の多さで、そのアーティストが誰だか背景も分からないまま聞いちゃうこともあるんだけど、それがまた面白くて。
樋口 「サブスクではミュージシャンにお金があまり入らない」という話も聞きますけど、音楽を聞く時間は増えましたね。
椎名 僕らの時代なんて、「俺はあのミュージシャンのファンだ」とか偉そうに言っても、お金がないからアルバムも2枚3枚しか持ってないのが普通だったからね。
樋口 それと『オールナイトロング』で出てきた話のように、昔はiTunesでプレイリストを頑張って作っていましたよね。この本のなかに出てくる「もうこの世にiTunesはないんだぞ」って名言ですよ!
メンヘラでも鬼畜系でもない。電気グルーヴが貫く「現実主義者」としての成熟した横顔
樋口 あと最後に一つ。家から引っ張り出してきた2000年の『Quick Japan』の『電気グルーヴのオールナイトニッポン』特集号で、番組ディレクターの加藤(晋)さんか天久聖一さんが話していたと思うんですけど、「電気のいいところは神経症を売りにするような感じじゃないこと」という凄くいい言葉があったんです。これは本当に膝を打ちました! 今も昔もそうだけど、病気っぽい感じを売りにするアーティストっているじゃないですか。
椎名 いわゆるメンヘラ的なこと?
樋口 男も含める前提で、そういう感じですかね。それこそ鬼畜系の猟奇的なカルチャーとかは「病気っぽい」ですよね。
椎名 その「電気の2人が病気っぽさを売りにしていない」というのは、言い換えると「中二病じゃない」ってことだと思うなぁ。2人とも中二病的なものは「アホくさい」と思っているだろうし、もちろん子供みたいな側面もあるけど、現実主義者っぽい側面もある。大人として成熟している部分もきちんとある、というのは電気の2人の特徴かもしれないね。
(古澤 誠一郎)
