「赤いランドセル」は”男の子“が選ぶものに?「昭和・平成」から激変した令和の小学生の「新常識」
ランドセルの「高額化」「多色化」が進む
桜が舞う新学期の朝。“赤いランドセル”を背負った女の子が元気に小学校に駆けていく――そんな光景は春の風物詩だった。しかし令和の今、そのイメージは過去のものだ。
ランドセルは多色化が進み、女の子には“うす紫”や“水色”など、パステルカラーが人気。かつての定番の“赤”は、いまや少数派だ。祖父母が購入するケースが多いが、多種多様な商品のなかから、いかに孫が気に入るランドセルを入手できるか。
それが孫にとっての“ヒーロー”になれるかの分岐点になっているという。ランドセル工業会会長で村瀬鞄行代表の林州代(くによ)氏が最新のランドセル事情を解説する。
「’26年に小学校に入学する児童を持つご家庭を対象とした当会の調査では、ランドセルの代金の支払者の52%は祖父母でした。両親は44%になります。昔から祖父母がお祝い事として孫に贈るケースが多数派ですが、昔と違い選択肢が格段に広がったため、戸惑っているシニア世代も少なくないですね」(以下「」内は林氏)
人気カラーについてはどうなっているのか。林氏が続ける。
「女の子の人気1位はうす紫(シェア30%)。2位の桃色、3位の水色を含めたトップ3で65%を占めます。一方で赤は6%で5位に留まります。’20年の調査では赤が1位(23%)だったのですが、近年は他のカラーに押される形で減少傾向にあります」
1クラス40人で、半分の20人が女子児童の場合、シェア6%は1.2人。つまり赤いランドセルはクラスに1人しかいない計算になる。競合カラーの台頭が主な要因ということだが、そもそもなぜランドセルの多色化が進んだのか。
「’00年にユニクロが、当時大人気だったフリースのカラーバリエーションを50色に増やし、大成功を収めました。これを見たイオンが翌’01年に50色のランドセルを販売。売れ行きは好調で、『黒か赤じゃなくても売れるんだ』と、多色化に舵を切るランドセルメーカーが現れたのです」
「女の子は赤」「男の子は黒」の構図が崩れた理由
「女の子は赤、男の子は黒」という“常識”が瓦解したのちは、エンタメ作品の影響が色濃くなったという。
「’11年にディズニー映画『塔の上のラプンツェル』が公開されてからは“うす紫”、’14年に『アナと雪の女王』が公開されてからは“水色”が大きく売れ行きを伸ばしました。共にプリンセスのドレスのカラーで、女の子たちの憧れが反映された形です。
もし今後、赤いドレスのディズニープリンセスが現れたら、赤人気も復活すると予想しますが、まだその気配は感じられませんね」
赤いランドセルについては、むしろ男の子の熱い視線を集めているという。
「戦隊ヒーローのリーダーなど、赤は主人公のイメージカラーになることが多く、その影響が考えられます。真っ赤なランドセルを選ぶ男の子はまだ少ないですが、本体が黒で、ストラップや背中クッションが赤の配色のランドセルは大人気。
黒+青や、黒+シルバーといった、黒に何か一色加えたランドセルはトレンドと言えるでしょう。ほかにも、’22年にゲーム『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』が発売されてからは、バイオレットカラーも売れ行きを伸ばしています」
カラー情勢のほかにも、価格の相場観も刷新したほうが良さそうだ。同会の調査によるとランドセルの平均購入金額は6万2034円。’18年調査の5万1300円から1万円以上上昇している。
「為替や物価のほかに少子化の影響も感じます。子どもの数が減ったことで、子ども一人にかけられる費用が高まったのか、『良いモノを買い与えたい』という声が増えました。高級レザーのコードバン(馬の臀部から採れる皮革)をあしらった20万円超えのモデルも市場には出ていて、売れています。
以前、弊社で戦国武将の甲冑を模した50万円のランドセルを製造しました。コンテスト用のモデルのため、正直、売れるとは思っていませんでしたが、受注生産で3つ注文が入りました」
せいぜい6年間しか使わないのに贅沢だと思うかもしれない。しかし最近は、卒業後にランドセルを財布やパスケースなどの革小物にリメイクするサービスも広がっている。思い出の品を長く使い続けられることも、高額モデルの需要を後押ししている。
“ラン活”と呼ばれる、子どもが満足するランドセルを入手する活動も、今や“必須科目”となっている。
「ラン活は親子三世代を巻き込む一大プロジェクトです。典型的なスケジュールは、お子さんが入学する前々年の11〜12月にリサーチを開始します。1月末〜2月上旬にメーカー各社から出る、新商品のカタログも当然チェックします。
3〜4月は展示会を巡って候補を絞り込む時期。そしてGWの実家の帰省時に購入します。1つのランドセルを買うために、お子さん、両親、両家の祖父母の7人が来店するケースもあります」
つまり現在は、’27年入学に向けたラン活が、佳境を迎えているということだ。
「以前、ランドセル売り場で、『昨日、孫が生まれたばかり』という年配の男性を接客したことがあります。これは極端な例ではありますが、早めに動く人ほど理想のランドセルを入手しやすい。
当会の調査ではGW期間中の5月が購入時期のピーク。次いでお盆シーズンの8月が多い。しかし8月には人気モデルが売り切れるなど、選択肢が狭まる可能性があります。やはりGW中の購入がベストだと思います」
役割分担にもコツがあるらしい。林氏によると、両親が候補を4つ程度に絞り、祖母がアドバイス役に回り、子ども本人が最終決定を下す。そして祖父は――。
「基本的には見守り、最後に支払いを担う“スポンサー役”に徹する。数多くのご家族を見てきましたが、このパターンが最も円滑に進みますね。もしここで『女の子なのだから、赤いランドセルだろう』なんて言おうものなら、家族から冷ややかな視線を浴びるかもしれません(笑)」
ランドセルは、もはや「黒か赤か」で選ぶ時代ではない。色も価格も、選び方も変わった。昭和の感覚のままではラン活で後れを取り、孫にとっての“ヒーロー”どころか「時代遅れの祖父」になりかねない。
取材・文:芳賀 慧太郎
