(※写真はイメージです/PIXTA)

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共働きが当たり前の時代になっても、家庭内の役割分担や家計のあり方に「見えない偏り」を感じる人は少なくありません。十分な収入を得ているはずの女性が、なぜか家事の外注に罪悪感を抱いてしまう……。ある夫婦のケースをみていきましょう。

年収480万円でも拭えない「補助」という認識

都内の事務職として働く佐藤加奈子さん(40歳・仮名)。月収は32万円ほど、年収にすると480万円ほどです。一方で夫(42歳・仮名)も会社員で、年収は800万円ほど。客観的にみても、彼女の収入は家計を支える立派な柱といえるでしょう。

「数字で見れば、私の収入がないと今の生活水準は維持できません。でも、自分も夫も、無意識に私の稼ぎを『家計の足し』程度に捉えている節があります」

家計の運用実態が、その認識を裏付けています。家賃や公共料金などの固定費は夫の口座から。加奈子さんの給与は食費や日用品、子どもの習い事、そして貯蓄に回されます。この「夫が基盤、妻が流動費」という振り分けが、無意識に「夫の収入が主、妻は従」という序列を生んでいました。

半年ほど前、加奈子さんは仕事と育児の両立に限界を感じていました。残業が増え、家の中は荒れ、心身ともに余裕を失う日々。夫に窮状を訴えましたが、返ってきたのは他人事のような反応でした。

「俺も忙しいから手伝えない。無理なら仕事をセーブしたら? 俺の収入だけでもやっていけるだろうし」

まったく状況を理解しようとしない夫に対して、言葉を失ったという加奈子さん。「仕事をセーブしたくない」と、自分の給与から月2回の家事代行を依頼し始めましたが、時間的な余裕と引き換えに、新たな苦しみが生まれます。

「自分の給料で払っているのに、なぜか贅沢をしているような、母親としての役割を放棄しているような申し訳なさが消えませんでした」

そんな加奈子さんを救ったのは、意外な人物の一言でした。専業主婦として家庭を守ってきた70代の義母・恵子さん(71歳・仮名)です。

ある日、散らかった部屋を詫びる加奈子さんに対し、恵子さんは事情を察したように家計や外注の話を聞きました。そして、息子の無理解と加奈子さんの抱える罪悪感を知ると、強い口調で言い放ったのです。

「あんた(息子)がそんな調子じゃ話にならないわ。加奈子さんが必死に働いて家計を支えているのに、何を遠慮してるの。ふざけるな、と言いたいわよ」

義母の言葉は、加奈子さんが内面化していた「母親ならこうあるべき」という呪縛を真っ向から否定するものでした。恵子さんはこう続けたといいます。

「稼いでいるなら、時間を買うのは合理的な選択。私たちの時代には、その選択肢さえなかった。母親が倒れるまで頑張るのが美徳なんて、もう古い時代の話よ」

義母の言葉に背中を押され、加奈子さんは必要に応じてシッターも利用するようになりました。しかし、予約ボタンを押す瞬間に「自分さえ無理をすれば」と自問自答する癖は、完全には消えていません。加奈子さんを突き動かしているのは、キャリアへの情熱以上に、切実な「不安」です。

「一度キャリアを途絶えさせたら二度と戻れない。今の立場を失うのが怖いんです」

そんな不安を抱える加奈子さんを、一番応援してくれるのは、今も義母・恵子さんだといいます。

共働き世帯に潜む「補助」という認識の罠

佐藤加奈子さんの事例は、現代の共働き夫婦が直面する「心理的ジェンダー・ギャップ」を浮き彫りにしています。世帯年収の約6割を担いながらも、なぜ彼女は自身の収入を「補助」と感じ、家事代行に罪悪感を抱いてしまうのでしょうか。

日本の共働き世帯において、家計管理の形式が意識に与える影響は小さくありません。内閣府『男女共同参画白書』や関連調査では、共働き世帯でも家事・家計管理など日常的な家庭運営は妻が担う割合が高く、また「男性が家計を支えるべき」という意識も一定程度残っています。

このため、住居費などの固定費を夫が主に負担し、食費や日用品などの流動費を妻が担う形がみられると指摘されています。また同白書の令和5年版では、共働き世帯においても家事・育児時間は依然として女性に偏っており、女性の家事時間は男性の数倍(概ね4倍前後)に達しているとされています。

加奈子さんのケースのように、夫が「主」、妻が「従(補助)」という役割分担を無意識に受け入れている背景には、こうした社会的・構造的なバイアスが強く影響しているのです。

加奈子さんが自費で家事代行を頼む際に抱く「申し訳なさ」は、株式会社タスカジが行った『家事代行利用の実態調査2022』からも読み取ることができます。

同調査によると、家事代行を使い始めるまで55%の人が抵抗感を持っており、特に女性は男性(23%)を大きく上回る43%が「家事を人にやってもらうことに罪悪感があった」と回答しています。また、40%の女性が「利用前に自分で家を綺麗にしなければ」と感じており、女性特有の心理的ハードルの高さが顕著です。

一方で、同調査ではリーダー的ポジションで働く人の9割が、家事代行の利用はキャリア形成に「有効」だと回答。利用後の感想として「『自分ですべてやる』という呪縛から解放された」という声も上がっています。

義母・恵子さんが説いた「時間を買う合理性」は、単なる贅沢ではなく、仕事で成果を出し続け、安定した収入を得るために必要な「車のガソリン代」のようなものです。家事代行によって生まれた時間や心の余裕が、結果として加奈子さんのキャリアを支え、家族の経済的な安定を守ることにつながるのです。