毎日の疲れを睡眠で解消するにはどうしたらいいか。禅僧の枡野俊明さんは「私は毎日、深い睡眠を得るために、日中はよく動き、夜9時半以降は難しいことは何も考えずに静かにくつろぎ、夜坐により頭を完全に休めている」という――。

※本稿は、枡野俊明『疲れない心をつくる休息の作法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■できるだけ“今日のうち”に寝る

禅僧の生活から
睡眠の作法」を学びましょう。

「気がついたら、へとへと」という状況に陥りやすいのは、どんなときでしょうか。まっ先に考えられるのは、

睡眠不足」――。

夜遅くまで仕事をしたり、飲み会につき合ったり、好きなことに夢中になって夜更かししたり、あるいは布団に入ってからなかなか寝つけなかったり……。理由はいろいろあると思いますが、睡眠不足の日が続けば、へとへとになって当然です。

「月落烏啼霜満天(つきおち からすないて しもてんにみつ)」

という言葉があります。

これは、中国の詩人・張継の漢詩『楓橋夜泊(ふうきょうやはく)』に出てくる一節。月が沈み、烏が鳴き、あたり一面に霜が降りて、寒々とした静寂に包まれる夜の情景を描写したものです。

この禅語が教えてくれるように、夜は日中の喧騒から離れ、静かに心を落ち着ける貴重な時間。禅的にいえば、そんな「夜の時間」をぞんざいに扱って睡眠不足に陥るなど、言語道断なのです。

ですから、みなさんも、「夜の自由時間を楽しみたい」とか「お酒を飲んでストレスを解消したい」といった気持ちをぐっと抑えて、

「夜になったら寝る。できるだけ“今日のうち”に寝る」

と決めましょう。

静寂に身を置くことでしか得られない、深い心身の安らぎを感じられるはずです。

■「すっと眠りに落ちる」禅僧のルーティーン

私自身は不眠に苦しんだり、睡眠不足を感じたりすることは、ほとんどありません。一日の疲れはだいたい、その日の夜の睡眠で解消できています。

実際、オムロンという会社に頼まれて、一週間の睡眠調査を受けたところ、「熟睡度99.8%」という驚異的な数値が出ました。私の睡眠の質の高さは、数字が実証してくれたわけです。

それに自信を得て……というわけではありませんが、参考までに「深い眠りを促す夜の過ごし方」をご紹介しましょう。

私の場合、朝4時半ごろに起きて、仕事はだいたい夜の6時ごろに一段落させます。そしてそれから2時間くらいを、夕飯や入浴に費やします。

その後また、1時間半ほど、翌日の準備を兼ねて仕事をします。

そうして一日のすべての活動を終えるのは、夜の9時半ごろ。PCの電源を落とし、スマホも手放し、お仏壇にお参りし、軽く夜坐(夜に行なう坐禅)をしてから布団に入ります。その瞬間、ストンと眠りに落ちている感じです。

一言でいうと、

「日中はよく動き、夜9時半以降は難しいことは何も考えずに静かにくつろぎ、さらに夜坐により頭を完全に休める」

のが、私のルーティーン。おかげで、心の平穏が乱されることもなく、毎日、深い睡眠が得られています。

とはいえ、いかに寝つきのいい私でも、「疲れを取り切れない」ことはあります。

そういうときは、「昨日より今日」「今日より明日」「明日より明後日」といった具合に、数日間、30分ずつ睡眠を長く取るようにしています。

なんといっても、一番の“疲労回復薬”は睡眠です。

ですから、疲労の程度に合わせて睡眠時間を調整するのも、効果的な休息法の一つといえるでしょう。

■休日の“惰眠”を防ぐコツ

休みの前日の夜は、ことのほか心が浮き立ちます。

朝寝坊できることの解放感から、夜遊び、夜更かし、深酒をしたくなるでしょう。

けれども「禅的養生訓」の観点からは、とてもおすすめできません。生活のリズムが崩れ、心身に悪影響をおよぼす可能性が高いからです。

朝と同じく、夜寝る前の過ごし方も“ルーティーン化”し、なるべく規則正しいリズムで床につくことが大切です。

仏教流にいうと、「箍(たが)をはめる」――。

こうした「ルール」を設けず自由に生活をしていると、私たち人間は、どうしても自堕落になってしまうもの。

写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

そうならないように、「毎日、規則正しく生活しましょう」とするのが、禅的な生活習慣なのです。

そうはいっても、箍を締めすぎて、かえって疲れてしまうようではいけません。

あくまで「無理せず、毎日続けられるかどうか」という観点から、自分なりの「規則」をつくるといいでしょう。

たとえば、休日の“朝寝坊”に関していえば、

「いつもよりプラス一時間までなら、遅く起きてもよし」

としてみる。これくらいなら、生活リズムを大きく崩すことなく、休日の“特別感”を味わうことができます。

もちろん、「やっぱり、あと30分、いやもう一時間……」などと、際限なく時間を延ばせば“惰眠”につながります。

ですから、ルールを決めた以上は、しっかりと守ること。これが鉄則です。

■考えごとはすべて“翌朝送り”

寝る前の決めごととして、もう一つ、大事なことがあります。それは、

「考えごとをしない」

枡野俊明『疲れない心をつくる休息の作法』(三笠書房)

ことです。

夜は一人静かに過ごせる時間なので、「落ち着いて、いろいろなことを考えるのに適している」と思うかもしれませんが、それは大きな勘違い。

なぜなら夜は、どんなに明るい電気のなかにいようとも、本質的には“闇のなか”。思考がネガティブな方向に傾きやすく、判断力も鈍ります。

ですから、何か心配事があって「どうしよう」と考え続けても、夜は頭のなかを「どうしよう」がくるくる回るだけ。判断を誤ったり、解決に至らないことが多いのです。また、考えを巡らせることで脳が活性化して、なかなか眠りにつけなくなったりもします。

「莫妄想(ばくもうそう)」という禅語があります。

余計なことを考えるな、あれこれと想像を巡らせるな、という意味の言葉です。

夜は心身を休ませるための貴重な時間。だから、たとえ日中に影を潜めていた不安や悩みが、夜になって頭をもたげても、

「明日、考えよう」

と、迷わず“翌朝送り”にし、潔く眠りにつきましょう。

そうした心配事は、朝、差しこんでくる陽光のもとで考えると、

「なんだ、たいした問題ではないじゃないか」

と、案外あっさり解決したりするものです。そうして「心の澱(おり)」がなくなれば、心身ともにフレッシュな状態で、一日のスタートを切ることができるでしょう。

とにかく夜は、頭も体もすべての働きを停止させ、静かで穏やかな時間を過ごしながら、心身の回復に専念すること。

それが、禅の教える「睡眠の作法」なのです。

----------
枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県横浜市生まれ。禅僧、庭園デザイナー、教育者、文筆家。曹洞宗徳雄山建功寺住職。多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺にて修行。以降、禅の教えと日本の伝統文化を融合させた「禅の庭」の創作を続け、国内外で数多くの作品を手がけている。芸術選奨文部大臣賞(1998年度)を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章(2005年)、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章(2006年)なども受賞している。2006年、『ニューズウィーク(日本版)』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。主な作品はカナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」、ベルリン日本庭園「融水苑」など多数。2024年には最新作品集『禅の庭IV 枡野俊明作品集2018〜2023』(毎日新聞出版)を刊行。禅の精神と現代人の悩みをつなぐ語り口に、世代を問わず共感の声が寄せられている。教育の現場では、長年にわたり多摩美術大学で後進の指導にあたり、2023年、名誉教授の称号を受ける。
----------

(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)