マイナス15度の極寒環境でも活発に動く生命体が北極の氷から発見される

北極圏で氷床コアを採取した際、氷の中に単細胞性の藻類である珪藻類が含まれていることがあります。これまで、北極の氷に入っている珪藻類は休眠状態にあると考えられてきましたが、実は珪藻類はマイナス15度の極寒環境でも活発に動いていることが判明しました。
Ice gliding diatoms establish record-low temperature limits for motility in a eukaryotic cell | PNAS

Scientists uncover extreme life inside the Arctic ice | Stanford Report
https://news.stanford.edu/stories/2025/09/extreme-life-arctic-ice-diatoms-ecological-discovery
スタンフォード大学やアラスカ大学などの研究チームは2023年の夏に北極を探検し、12の観測所で氷床コアを採取しました。研究チームは長年にわたって開発してきた船上顕微鏡で氷の内部を画像化し、珪藻類の生態について記録したほか、研究室に戻ってから氷床コアから珪藻類を抽出し、北極の「凍った薄い淡水層」と「非常に冷たい塩水層」を再現したペトリ皿で珪藻類の動きを観察しました。
北極では氷が形成される際に塩分が放出され、内部に微細な液体の通路を持つ淡水の氷ができあがります。研究チームは氷を作る際に毛髪を一緒に凍らせることで、氷の内部の微細なマイクロ流体チャネルを再現したとのこと。
珪藻類は細胞内にある葉緑体で光合成を行う単細胞生物であり、ケイ酸質の被殻に覆われている点が特徴です。以下の写真が、北極の氷から見つかった珪藻類です。

温度を氷点下まで下げて珪藻類の活動を調べた結果、珪藻類は動けなくなったり閉じ込められたりしておらず、細いマイクロ流体チャネルを活発に移動していることが明らかになりました。さらに研究チームが温度を下げていったところ、マイナス15度でも珪藻類が動いていることが確認されました。
このマイナス15度という温度は、膜に包まれた核を持つ真核細胞の動きが確認された最低温度だと報告されています。論文の共著者でありスタンフォード大学の生物工学准教授を務めるマヌ・プラカシュ氏は、「珪藻類は気温がマイナス15度に下がっても、私たちが想像するように活発に移動します。これは驚くべきことです」と述べています。
珪藻類は体をくねらせたり付属肢を使ったりせず、表面を滑るように移動する「滑走」という移動方法を取ります。珪藻類はカタツムリの粘液のようなポリマーを分泌し、いかりが付いたロープのようにして表面に付着し、この粘液のロープを引っ張ることで滑るように前進するとのこと。
粘液ロープの機構はアクチンとミオシンに依存しており、これは人間の筋肉運動を駆動するのと同じ生物学的システムです。この機構がどのようにして氷点下でも機能し続けているのかは、今後の研究課題とされています。
論文の筆頭著者でありスタンフォード大学博士研究員のチン・チャン氏は、「珪藻類が実際に滑走しているのが見えます。まるで氷の上をスケートしているようです」とコメントしました。

プラカシュ氏は、「北極は表面こそ白いものの、その下は藻類によって鮮やかな緑色に染まっているのです。ある意味で、これらの藻類は単なる小さな存在ではなく、食物連鎖の重要な一部であり、氷の下で起きていることを制御しているのだと気付かされます」と主張。今後の研究で、珪藻類が北極の食物連鎖や氷の形成に及ぼす影響について解明されることが期待されています。
