河北医療財団・河北博文理事長「コロナ禍の今、地域の病院と病院、自治体と病院の連携が共に重要」
政府を始め、このことを感じている人は多くいると思います。ですから、日本がロックダウンせずに自粛だけで済んでいますし、感染者数が比較的少ないことについて何か奥歯にものが挟まったような言い方しかしないという背景には、こういう理由もあるのではないかと思います。
そうであれば、一番のスポークスマンである菅義偉首相が、今のような話をしっかりと国民にすべきです。
─ もっと発信が必要ですね。自分たちの行動や習慣で感染が抑制されているとなると、国民は非常に納得するでしょうし、東京オリンピックの開催についても前向きになるのではないでしょうか。
河北 そう思います。ただ、パブリックビューイングのようなものは非常に「密」になりますから、今はやらない方がいいと思いますが、観客をかなり制限してのオリンピックは、ここまで来たらやるべきです(政府は首都圏を中心に多くの都道府県で、無観客での開催を決めた)。
その理由の一つは中国です。中国は22年2月に北京オリンピックを控えています。もし、東京オリンピックが中止になれば、中国は間違いなく、「中国こそがコロナに打ち勝ったオリンピックを開催した」ということを言うでしょう。
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民間企業の力も活用して
─ 人類の知恵として、コロナ禍でもやり抜くことが大事だということですね。ただ、そのためのワクチン接種は立ち上がった後は迅速に進んでいますが、開始当初混乱が見られました。これをどう見ますか。
河北 大規模接種会場については失敗だったと言わざるを得ません。「GoToキャンペーン」のように、遠方から東京に集まって大規模接種会場で打つといった行動は取りづらい。それよりも小さい拠点を配置することが大事です。
病院もそうですが、政策は「点」では駄目です。「線」にし、さらには「面」にしなければいけません。今、国の政策は全て「点」になってしまっており、しかも後手後手に回っている。
大規模会場を「点」で増やすのではなく、多くの診療所で接種できるようにすれば「線」になり、「面」になります。そして広く一般に、誰でもいいから接種に来て下さいと。
その時のディストリビューション、調達はなかなか難しいと思います。そうであれば政府の人間が考えるのではなく知見を持つ民間企業、例えばヤマト運輸の知恵を借りればいいんです。そうすれば「面」になります。
「ECMO」の必要性を問う
─ 日本医師会を含め、そうした提案は聞こえてきませんね。
河北 多くの医師は流通、調達についてはわからないでしょう。私は社会病理を専門としているので考えるのかもしれません。医療の展開にしても、我々は「点」ではなく「面」にすることを常に考えています。これは科学的思考というよりはマネジメント思考です。
先程申し上げたように日本はコロナの感染者数も死亡者数も比較的少ないにも関わらず「コロナ敗戦」などと言われてしまうのは、政策が泥縄式になってしまっているからです。
例えば我々が拠点を置く東京・杉並区では20年3月初めから、区長と連絡を取って、当院と荻窪病院、佼成病院を「区立病院」として扱ってもらうことを取り付けました。区立病院になれば、経営を区が包括的に支援してくれますから、医療に専念することができます。
─ この連携によって、杉並区では医療崩壊の懸念がないわけですね。
河北 そうです。我々は407病床を持っていますが、コロナ病床を43床つくるために101床分の病床を空けました。
─ その結果、コロナ患者に対応できているわけですか。
河北 対応しています。ただ、決まりとして当院では軽症から中等症のコロナ患者を診るのですが、重症化した方も診ていますから、そこにはやはり連携が必要となります。
この連携には、入り口と出口の連携が必要です。杉並区との協議の中で、「ポストコロナ」の受け入れ先もいち早く設けましたし、重症化した患者を大学病院等に送るルートも、比較的うまく機能しています。間に保健所が入りますが、一生懸命に取り組んで下さいました。
─ 行政や他の医療機関との連携が取れていたと。この戦略づくりが重要ですね。
河北 杉並区と話をしながら、患者の受け入れだけでなく、出ていくルートをつくることが大事だということで進めました。
そして、ここで少し考えていただきたいのが、ECMO(体外式膜型人工肺)が本当に必要な患者さんが何人いるか? ということです。ECMOを使っている医師は、その重要性を語ります。対象となり得るのは20代から60代の人たちで、例えば80代、90代の人たちに必要なのかどうか。
ですから我々は患者さんによってはDNR(Do Not Resuscitate=蘇生処置拒否指示)の了解を取ります。80代後半、90代の人達に、非常に多量の医療資源を投入する必要があるのかどうかを考える必要があります。ただし、DNRは、その前に患者さんと医療者の間に共感して寄り添う医療があってはじめて了解されることです。
それが冒頭にお話しした、増えると思われていた年間の死亡者数がコロナ禍にあっても逆に減少したという話につながるのです。(続く)
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