河北医療財団・河北博文理事長「コロナ禍の今、地域の病院と病院、自治体と病院の連携が共に重要」
─ 後藤新平は台湾総督府民政長官を務め、徹底した感染症対策など公衆衛生の基礎をつくったことで知られていますね。
河北 そうです。後藤新平のような医師であり、社会を見る目をしっかりと持った人が政策を立てることの重要性がわかります。
─ 日清戦争終結後には当時、清でコレラが流行していたことから、広島の似島にコレラ検疫所を設け、陸軍次官の児玉源太郎の後押しもあって3カ月で22万2000人の戦争帰国者の検疫をやり遂げました。
河北 そうですね。島ごと隔離するという難事業でした。台湾の方々は後藤新平に感謝してくれていることでしょう。台湾は接触や感染リスク抑制に向けたアプリの効果もあったかもしれませんが、私が先程申し上げた社会環境こそがファクターXだと思うんです。
これは綺麗な都市をつくり、貧困層がほとんどいないシンガポールも同様だと思います。それに比べるとアメリカの一部、中南米、インドなどは生活環境が全く違います。よくわからないのが中国で、おそらくかなりの貧困層がいるはずですが、データを把握することができませんから何とも言えません。しかし、中国の場合は共産党一党独裁の強制力もファクターXとして考えられます。
いずれにせよ、生活環境、教育の水準は社会づくりの基本だということです。
ワクチン接種は「点」から「面」へ
─ コロナはワクチン接種が進んでいますが、今後をどう見通していますか。
河北 コロナの感染拡大は、ワクチンが普及すれば抑えられると思います。ただ、集団免疫、あるいは社会免疫を獲得するまではワクチンを接種し続けなければならないでしょうし、今後は1年に1回くらいは接種するものになると思います。
今はまだ、ワクチンでできた抗体がどのくらい継続するのかがわかりませんから、1年に1回くらいの接種が妥当ではないかと思います。
─ 改めて、コロナ禍でインフルエンザの感染が激減したという相関関係が何なのかは考えさせられますね。
河北 ええ。今回のコロナ禍を改めて振り返ってみると、感染が拡大したのが20年の2、3月頃で、21年6月までに約15カ月が経っています。
この間に日本人は約77万人が感染し、1万4000人が亡くなりました。この数は各国との人口対比で圧倒的に少ない。
これは15カ月の間に起きたことですが、例年のインフルエンザの流行期間は10月末から3月半ば頃までの約5カ月間で、この期間にしか流行しませんが、数百万人から1千万人が感染し、3000人から1万人が亡くなってきました。
インフルエンザの数百万人から1000万人の感染者というのは、77万人というコロナの感染者数に比べて遥かに多い数字です。亡くなる人も5カ月で3000人から1万人に対し、コロナは15カ月で1万4000人ですから。
─ コロナ感染を抑制するための生活が、結果的にインフルエンザを抑制することにつながったと。両者の感染者数、死亡者数の差も冷静に見ていく必要がありますね。
河北 そう思います。加えて、先程のファクターXに加えるとすれば、日本人の習慣です。日本が諸外国のようにロックダウン(都市封鎖)をせずとも自粛で何とかなっているというのは、まさしく日本人の文化です。
ですから、日本は科学よりも文化、生活習慣、教育といったものを優先してきたのだと見た方がいいと思うんです。玄関で靴を脱ぐといったことです。科学としてのワクチン開発や、変異型対応も含めた特効薬の研究は今後も続けていかなければいけないと思いますが、感染症に対応するのは医学や薬だけではありません。生活習慣が非常に大きいということが言えるのではないでしょうか。
