産業構造が大転換する中、「消える仕事」は何なのか。国際エコノミストの今井澂さんが注目するのは、新聞記者と広告営業だ。「新聞発行部数は2020年約3509万部で最盛期の3分の2以下、広告代理店業界もテレビ・新聞広告中心の電通がネット広告で有利なサイバーエージェントに猛追され、2020年12月期の連結決算は最終損益が1595億円と過去最大の赤字。これから“消える仕事”の人は、今のうちに投資によってお金を殖やしておくべき」という――。

※本稿は、今井澂『日経平均4万円時代 最強株に投資せよ!』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

写真=時事通信フォト
電通のロゴマーク=2017年2月1日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■産業構造の大変化が進行中で大企業でも危ない

今は産業構造の大転換が起こっています。すなわち、デジタル化、グローバル化、サステナビリティ(持続可能性)が同時に進行しているのです。したがって、企業も経営者がよほど優秀でないと、成長はおろか、維持していくことすらできません。

象徴的な例がカネボウです。この会社は1887年(明治20年)に東京府南葛飾郡隅田村の通称・鐘ヶ淵(現・東京都墨田区墨田)に東京綿商社として創立され、1893年に社名を鐘淵紡績に改称しました。戦前の繊維産業は日本の基幹産業で、明治から昭和初期にかけて国内製造業で売上高ナンバーワンとなったのです。戦争では国内外の工場を失いましたが、戦後、大企業として復活しました。

私は1954年(昭和29年)に浦和高校を卒業し、1年浪人して翌年に慶應義塾大学に入りました。大学1年生だった6月、大学を卒業して会社員になったばかりの先輩と会う機会がありました。先輩のパリッと背広が眩しく見えたことをよく覚えています。そのときに先輩はこういいました。

「俺が入った企業は製造業では日本でいちばん大きな会社だよ。子会社もたくさんある。俺は常務くらいにはなる予定だ。常務になれば少なくとも子会社の社長にはなれるから、一生食いっぱぐれがないね」。この先輩の入社した会社がカネボウでした。

■昭和30年における「日本最大企業」は2007年に消滅した

今、講演会で「私が大学生だった当時、日本でいちばん大きな会社はどこだったと思いますか」と聞くと、たいがいの聴衆の答えは新日鐵(現・日本製鉄)か三菱重工業なのです。

しかし当時は、八幡製鉄と富士製鐵の合併前だったので新日鐵はまだ存在していなかったし、三菱重工も三菱日本重工業、三菱造船、新三菱重工業の3社に分かれたままでした。

現在の人には、当時のいちばん大きな会社がカネボウというのは意外でしょうが、それは繊維産業が日本の主力産業だったという証でもあります。日本の繊維産業が廃れていくとともにカネボウも業績不振に陥りました。紆余曲折を経て有望な新事業への進出に失敗し、2007年6月に解散にいたったのは周知の通りです。

現在のデジタル化、グローバル化、サステナビリティが同時進行しているという時代の大転換に乗り遅れると、大企業であってもカネボウのような末路をたどることになるでしょう。だから投資するときには、時代の大転換をとらえている企業を選ばなくてはならないのです。

■「消える仕事」の人は今お金を殖やしておくべき

これからの時代、「消える仕事」「残る仕事」を18業種ずつ挙げたのが『週刊東洋経済』(2021年1月30日号)でした。

まず「消える仕事」は、銀行員、タクシー運転手、パイロット、アパレル店員、飲食店オーナー、コンビニオーナー、大学教授、弁護士、自動車セールス、保険外交員、新聞記者、広告営業、ディーラー・トレーダー、受付、機械オペレーター、警備員、通訳、添乗員です。

反対に「残る仕事」には、データサイエンティスト、精神科医・心療内科医、警察官、介護福祉士、美容師、ユーチューバー、お笑い芸人、フードデリバリー、ダンスインストラクター、eスポーツ、ペットショップ店員、オンラインサロン、1級建築士、リフォーム業者、パティシエ、棋士、経営コンサルタント、スタートアップ起業家が並んでいます。

これら36の仕事については業界最新事情と2030年の状況も掲載されていて、たとえば銀行員のそれぞれの一部を紹介すると、業界最新事情では「目下の焦点は収益環境の厳しい地方銀行だ。経営改革を後押しし競争力を向上させるために、合併特例法の施行、日本銀行による当座預金金利上乗せのほか、政府によるシステム統合費用への補助金等も俎上(そじょう)に載せられている」と記されています。

■メガバンク社員は2025年までには大幅リストラを余儀なくされる

いっぽう、2030年の状況は「長期の超金融緩和で利ザヤが悪化、大幅リストラを迫られているのが銀行だ。駅前の支店はビルの2階にある空中店舗になり、窓口やATMはスマホのネット銀行に代替される。融資でも、取引先の膨大なデータをAIが瞬時に読み込んで信用調査をこなし、現在の主要業務は置き換えられるかもしれない」というものです。

しかし、2030年の状況で大幅リストラが迫られているというのはちょっとスピードが遅いような気がします。2025年ごろまでには大幅リストラを余儀なくされるのではないでしょうか。

新聞記者と広告営業については、新聞業界と広告代理店業界という観点から私も付言しておきます。

新聞業界では、日本新聞協会が毎年10月現在の総発行部数(日刊116紙)を年末に発表しているのですが、これによると2020年は約3509万部となって、前年と比べて約272万部も減少しました。

今井澂『日経平均4万円時代 最強株に投資せよ!』(フォレスト出版)

しかも、この減少幅は7.2%と過去最大です。最も発行部数が多かったのは1997年の約5377万部。以後の23年間で約1868万部も減って、最盛期の3分の2以下の部数になってしまったのです。

1年前には、年間約200万部のペースで部数が減っていくと予想されていました。それが現実には約272万部減という予想をはるかに上回る速いペースになっています。もっとも、これにはコロナ禍も大きく響いているようですが。

目下の部数減少のスピードからいくと、新聞業界は消滅に向けてまっしぐらといっても過言ではありません。現在、新聞記者をしているなら、若い人ほど次の転職先を真剣に考えておく必要があるでしょう。

■五輪を仕切る広告代理店業界のガリバー・電通の広告営業も消滅か

広告業界については業界トップの老舗の電通と新興勢力のサイバーエージェントを比べてみます。2020年7月に時価総額でサイバーエージェントが電通を一時的に逆転し、そのときに広告業界は震撼(しんかん)したのですが、以後も両社は時価総額で抜きつ抜かれつで激しく争っています(図表参照)。

出典=『日経平均4 万円時代 最強株に投資せよ!』

ただし両社の扱う広告のタイプは違っていて、電通がテレビ媒体や紙媒体の広告であるのに対し、サイバーエージェントはネット広告です。

2020年3月に電通が発表した「日本の広告費(2019年)」という調査では、2019年にはテレビ広告費は前年比2.7%減の約1兆8600億円に留まり、その結果、2014年以来6年連続の2桁成長で約2兆1000億円(前年比19.7%増)となったネット広告費にテレビ広告費は初めて追い抜かれました。

テレビ広告や新聞広告の先行きは厳しく、広告をめぐる環境はネット広告のサイバーエージェントが圧倒的に有利です。電通の2020年12月期の連結決算は最終損益が1595億円の赤字と過去最大でした。それもあって、電通は経営効率化のために東京都港区の本社ビル売却にも踏み切ることになったのです。

テレビ広告や新聞広告が減っていけば従来の広告営業の必要性も小さくなって、広告営業の人材もやはり転職が避けられません。

これから「消える仕事」の人は、今のうちに投資によってお金を殖(ふ)やしておくべきで、銀行員もこの低金利時代に自分の銀行に預金していてもダメなのです。

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今井 澂(いまい・きよし)
国際エコノミスト
1935年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、山一證券入社。山一證券経済研究所、山一投資顧問を経て、日本債券信用銀行顧問、日債銀 投資顧問専務、白鷗大学経営学部教授などを歴任。主な著書に『シェールガス革命で復活するアメリカと日本』(岩波出版サービスセンター)、『経済大動乱下! 定年後の生活を守る方法』(中経出版)、『日本株「超」強気論』(毎日新聞社)、『恐慌化する世界で日本が一人勝ちする』『日経平均3万円 だから日本株は高騰する!』『米中の新冷戦時代 漁夫の利を得る日本株』(以上、フォレスト出版)など多数。公式ウェブサイト
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(国際エコノミスト 今井 澂)