仕事の現場で奮闘する、スゴいビジネスパーソンたち。あなたの会社にも「こういう人こそ新R25に取り上げられるべきでしょ」と感じる先輩や同僚がいるのではないでしょうか?

そんな人たちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者の皆さんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。

今回登場するのは、石田裕子さん。


2004年にサイバーエージェントに新卒入社し、広告事業部門で活躍。2つの子会社で社長を経験したのち、2016年より執行役員、2020年より専務執行役員を務める。現在、人事管轄採用戦略本部長も兼任

「入社2年で表彰13回」「サイバーエージェント初の女性営業局長、さらに営業統括に就任」「出産2週間前まで働き、産後2カ月で職場復帰した」「出産後にはプロデューサーに職種転換」「子会社2社の社長を歴任」…

数々の“伝説”を残すものスゴい人なのですが、彼女の周囲の人々はこう口をそろえます。

「圧倒的にスゴい人なのに、いい意味で普通。そのスゴさを言語化するのが難しい」

…と。

我々のような普通のビジネスパーソンにも、マネできる余地があるのでは…?

ということで、石田さんに「普通に見えるのに、どんどんスゴいキャリアを切り拓ける秘訣」をきいてみました。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

社長の“お願い”を無視して産後すぐスピード復帰! でも「話が一人歩きしちゃってるんです」

石田さん:
私、取材しても面白くないですよ?

凡庸なんで「凡庸力」でいいですよ

天野:
そうおっしゃらずに…

石田さんは「伝説の社員」として社内では有名です。よく聞くのが「出産2週間前まで働き、産後2カ月で職場復帰した」という逸話…。これは本当なんでしょうか?

石田さん:
それ、「伝説」でもなんでもないんですよ! たまたま体が元気だったので戻ったっていうだけで…

社長の藤田(晋)からは「お願いだから早く復帰しないでね」ってメールをもらいましたし。

私を見て、「出産してもすぐ戻らなきゃいけないんだ」って感じる人がいるといけないからだと思うんですけど…

天野:
そりゃそうですよね。メールをもらって、どうしたんですか?

石田さん:
無視しました。


「無視っていうか正確には“お気遣いありがとうございます!”って返信してしれっと復帰しました」。それ無視ですよね

石田さん:
ただ、家族やいろんな方のサポートがあって運よく復帰できただけなので、「みんなすぐに戻って」っていうメッセージではないんですよ!

なんか話が一人歩きしちゃってて…

おかしいヤツがいるみたいなイメージになってるんで、今回の取材で好感度を上げたいんです。

天野:
ちなみにどういうイメージに変えたいんでしょうか?

石田さん:
「優しい人」みたいな!

どうにかそれ推しでいけないですかね?


責任重いな…。が、頑張ります!!

「コーヒーを待つ間も仕事する」「“たまにはのんびりしたい”という感覚がない」

天野:
ほかにも石田さんはさまざまな伝説を残しています。たとえば「営業として、入社2年で表彰13回」。

ここまで圧倒的な成果をあげる秘訣はどこにあるんでしょうか?

石田さん:
うーん、別にムリしてるわけじゃないのに自然とそうなったんですよね。あくまで自分が居心地よく働いてるだけで…

昇進したいとか、表彰されたいとか、そこまで思ってなかったです。


自然体でそんなに表彰されたら苦労しないんだよなあ…

天野:
では…ご自身では語りにくいかと思って、今回は旦那さん、サイバーエージェント・星野貴仁さんに「石田さんのすごいところ」を事前にヒアリングしてきました。

星野さんによると「スキマ時間を使う活用力が本当にすごい」「“たまにはのんびりしたい”という感覚がない」とのことですが…

石田さん:
えっ!? そんなこと聞いてきたんですか?(笑)

…でもそうなんですよ。仕事でも家でも常に何かに追われている感覚があって…常にタスクを消化してないと落ち着かないんです。

たとえば、今、このフロアまで階段で来たんですけど、階段をのぼってる間にレスを10件返してました。

コーヒーのボタン押して待つ間も絶対仕事しますし、MTGの合間が5分あれば「資料1枚つくれるな」って考えちゃいます。

天野:
スキマ時間にタスクをこなしまくることが昇進の秘訣なのかな…? 通勤中は何をされてるんですか?

石田さん:
SNSの通知が来るのも“タスク”と感じちゃうんで、通知を消すためにTwitterを見たり…

あとはインプットのために本を読んだり、『NewsPicks』を見たりしてますね!


新R25を見てください

自他ともに認める「メンタルの強靭さ」。その秘訣は意外なマインドだった

天野:
石田さんのすごいところとして、「メンタルの強靭さ」というコメントも寄せられていますが、それはどうですか?

石田さん:
強いですね。心も体も

仕事で失敗したり怒られたりしても、一晩で忘れられるタイプです。

いまだに、藤田社長からもしょっちゅう怒られてますけど…


(2019年7月に取材した藤田社長の様子)

天野:
自分だったら、藤田社長に怒られたら一生立ち直れない気がします…

石田さんのように強靭なメンタルを身につける方法って何かありますか…?

石田さん:
それもたぶん、「自然体」で「居心地よく」仕事してるっていうのが大きくて…


自然体なのに「メンタルが強靭」になれるの…?

石田さん:
仕事がデキる人…、たとえばバリバリ仕事して昇進意欲がある人とかって、ちょっとでも失敗したり怒られたりするとめちゃくちゃ落ち込んでしまうことがあるんですって。

天野:
意欲があるのにすぐ落ち込む…? なぜでしょう?

石田さん:
それは昇進意欲の強さゆえに、ミスを叱責されると「自分が否定された」「道が断たれた」と思い込んでしまうから。



天野:
あー! それはわかるかもしれません…「上司に嫌われたかも」とか…

石田さん:
評価されることにコミットしていると、自分のキャリアがどうなるとか、勝手に想像してネガティブになる人は多いですよね。

私、昇進したいとかすごいキャリアを歩みたいって全然思ってないんですよ。自分が居心地よく働けてれば。

だから、怒られても「ああ、おっしゃる通りですね」「指摘されたところを改善しよう」って思うだけ。

天野:
シンプルに改善しようと。

なるほど…怒られて落ち込んでしまうってことは、実は指摘そのものには向き合ってなくて、「自分の評価」を気にしてるってことなのか…


たしかにそういうノイズに惑わされてること、ある気がする

強靭なメンタルを後天的に身につける方法「ムリのない範囲でちゃんと振り返る」

石田さん:
あと、「強靭なメンタル」は後天的にも身につけられると思います。

私は、毎日寝る前に必ず1日を振り返って反省するんですよ。「もっとこうすればよかった」とか…

このおかげで、ネガティブにならずに済んでます。

天野:
そうですか? 自分は夜失敗を思い出してしまうと「ああああ〜!!!」となっちゃうんですよね…

そんなことしたら余計メンタルに悪くないですか…?


皆さんもそうなりますよね?

石田さん:
それはね〜、ちゃんと振り返ってないんですよね。

反省して、必ず「この件はこれで終わり!」っていう終止符、ピリオドを頭のなかで打ってから寝るんです。

そうやってちゃんと受け止めないと、今天野さんが言ったみたいに、ズルズルと思い出しちゃう。

それが続くと、「自分はいつもこういう失敗をしている」って、自己肯定感が下がっちゃうことにもつながるじゃないですか。

天野:
まさにそれだ…。逃げてないで、ちゃんと振り返って「終わり」にしないとダメなんですね。

ちなみに、“ちゃんと失敗を反省するためにコレを欠かさない”という行動のルーティーンはありますか? マインドフルネスとか…

石田さん:
毎日のヨガ…とかカッコいいこと言いたいんですけど、そんなマメなことは一切してないんですよね(笑)。

「必ず毎日走らなきゃ」とか自分に合わないことをするより、自分らしく、ムリのない範囲でちゃんと反省することのほうが、よっぽど意味があるなって思います。

天野:
うーん、たしかにムリしてない…


…石田さんの言う「凡庸力」「自然体」の意味がちょっとわかってきたかもしれない…

「ムリしない」と言ってるのに、スゴいチャレンジを続けてますよね…?とツッコんでみたら…

石田さん:
最初に「凡庸力」って言いましたけど、私には特筆すべき力はないんです。営業力もないし、“かわいがられ力”も別にない。

ただ、もし何かあるんだとしたら、目の前にあるチャンスに「向いてる/向いてないとか考えずとにかくやってみる」って思えることなんじゃないかな…

ガツガツしてるわけじゃないんですけど、ムリせず、普通に“やってみる”っていう

天野:
今日お話を聞いていて、石田さんはすごくピュアに仕事に向き合ってるんだなと感じました。

ムリしてルーティーンをつくるとかじゃなく、ピュアに向き合う。だからこそ余計なことを考えないし、落ち込んだりしない…


「うん、それですね! 自然体でいることがいい結果につながってる」

天野:
ただですね…、「ムリせず、居心地よく」と言ってるのに、手があいたらすぐタスクをこなすし、社内初の女性局長になったり、子会社社長を歴任したりとチャレンジを続けられてるじゃないですか。

そこのギャップがずっと不思議なんですが…

石田さん:
ああ、わかった

それは、「居心地がいい」っていうのは楽をするって意味じゃなくて、「頑張ることは居心地がいい」と思ってるからですね。



天野:
!!!

石田さん:
私にとって「自然体」って、ダラダラすることじゃない。楽しんで、チャレンジし続けているほうが居心地よくいられるんですよ。

頑張ってる自分のほうが居心地よく会社も来れるじゃないですか。頑張らないほうがストレス感じません?

ものすごく出世したいとか高望みするとかではなく、なまぬるく生きてるのは自分らしくなくて、居心地が悪いんです。

天野:
…完全に腑に落ちました。“頑張ってるほうが居心地いい”って、その通りかもしれません。

石田さんの言う「自然体」ってそういうことか…!

石田さん:
特筆するようなスキルがなくても、

・指摘されたことにまっすぐに向き合う
・毎日起きたことをちゃんと反省する、受け止める
・居心地よくいるために、チャレンジを続ける

…この3つだけできていれば、きっと成果はついてくると思うんですよねえ。

天野:
…圧倒的に表彰されてる人は、きっととんでもない特殊スキルを持ってると思ってたんですが、そういうことじゃないのか…

誰でもできそうで、すごく大事な「凡庸力」を教わった気がします…!



これまで、いろんなインフルエンサーに取材してきたことで、「他の人が聞いたこともないような、スゴいスキルや考え方」を持っていることこそが重要だと思っていた自分がいました。

でも、仕事の現場で成果をあげつづける人の姿勢は、そういうことじゃないんだな…。

ちょっと反省すると同時に、もっといろいろなビジネスパーソンの方に、お話を聞きに行きたくなりました。

ちなみに常に自然体な石田さん、ストレスを感じたときの発散方法は?ときいてみると、「みんなで楽しくお酒を飲む」ことだそう…。自然体でチャーミングな石田さんのことを“伝説”としてまわりの人が語りたくなるのも納得の方でした!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉