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山口県にある温泉施設「おんせんの森」の休憩スペースで、人気漫画『鬼滅の刃』の単行本(1〜20巻)が盗難被害にあっていたが、その後、持ち去った本人から全巻返却された。郵送されたダンボール箱には「読み終えたら返そうと思っていた」という手紙が添えられていたという。

●おんせんの森は「自主的な返却」を呼びかけていた

おんせんの森は9月25日、ツイッター上で『鬼滅の刃』が盗まれたと投稿。「間違って持って帰ってしまったという人はコソッと元に戻してほしい」と自主的な返却を呼びかけた。全国から全巻セットが寄付されるなど、この投稿は大きな反響を集めていた。

おんせんの森は10月15日、公式サイトを更新して、10月13日に『鬼滅の刃』が「本人から送り返されてきた」と報告した。添えられた手紙には、反省の想いと「読み終えたら返そうと思っていたが大事になっており怖くて返せなかった」とあったという。

おんせんの森は「これ以上、その方に対して誹謗中傷をしないでいただけないでしょうか」「私の本当の想いはご本人が改心をして本を返してくれることでした。ご本人が勇気をもって返してくれたということで、私の想いは遂げられました」と理解をもとめている。

窃盗罪の成立には「不法領得の意思」が必要になる

ところで、他人の物を盗んだら、刑法の窃盗罪(235条)に問われるはずだ。一方で、「読み終えたら返す」という意思で、漫画を持ち去った場合はどうなるのだろうか。西口竜司弁護士が解説する。

「今回の事件についても、他人の物を窃取したということで窃盗罪が成立するようにも思えます。しかし、話は簡単ではありません。窃盗罪が成立するためには『不法領得の意思』というものが必要です」

西口弁護士によると、「不法領得の意思」がないと窃盗罪が成立しない。裁判所の考えでは、「不法領得の意思」は"権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法にしたがって利用しまたは処分する意思"とされている。

「たとえば、あとで返すつもりで他人の自転車を一時的に乗り回した場合や、最初から物を壊す目的だったような場合などは、『不法領得の意思』が欠けているとして、窃盗罪が成立しないことがあります(ただし、別の罪に問われることも)。

今回のケースで、読み終えたら本を返すつもりだったのであれば、権利者を排除するつもりがなく『不法領得の意思』が欠けているとして、窃盗罪は成立しない可能性があります。ただし、現実的に、本を返す意思が本当にあったかどうかは難しいところで、そう簡単に窃盗罪の成立は否定されないと思います」

●西口弁護士は"伊之助推し"

盗んだものを返却すれば罪は免れるのだろうか。

窃盗罪は物を盗った瞬間に成立しますので、あとから返しても犯罪の成立には影響がありません。ただし、裁判になった場合、返却したことを有利な情状として考慮されて、罪が軽くなる可能性はあります」

余談だが、西口弁護士の事務所には『鬼滅の刃』全巻が常置されているという。

「他人事ではないなと感じました。今回のような事件はよくないです。読みたい人に対して迷惑を掛けることになります。返したからといって迷惑を掛けたことに変わりがないですね。絶対真似ないようにしてください。ちなみに私は(嘴平)伊之助推しです」

【取材協力弁護士】
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。SASUKE2015本戦にも参戦した。弁護士Youtuberとしても活動を開始している。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/