「あれだけの選手はそうはいない」 長谷部誠の“プロ意識”にドイツ人記者も後輩も敬意
【ドイツ発コラム】痛恨の逆転負けを喫したケルン戦後も丁寧にメディア対応
フランクフルトは18日に行われたブンデスリーガ第16節で、17位ケルンに2-4と逆転負けを喫した。
勝ち点を計算していた試合、ここからまた調子を取り戻すと目論んでいた試合で2-0とリードしながら、後半ガタっと崩れて負けたのだから、選手なら誰でもショックだし、そんな試合の直後に誰だって話をしたくはない。義務として数人メディアに対応するが、いくつかの質問にさっと答えて終わってしまう。
長谷部誠は違う。キャプテンとしてテレビインタビューに答えた後、ドイツメディアの前に立ち、質問に答えていく。言葉を選びながら、相手に誤解を与えないように気をつけながら、声を荒げることもなく、言葉にしていく。
その後、日本人ジャーナリストとのやり取りを終えてから、控え室へと戻っていった長谷部の後ろ姿を見ながら、1人の年配ドイツ人ジャーナリストが近づいてきて、僕にこう話し始めた。
「あれだけの選手はそうはいない。良い時に話をする選手は多い。でも負けた試合の直後であっても、あれだけ丁寧にメディア対応するっていうのは凄いことだ。見てみろ、他の選手は誰もこっちに来てくれない。広報に指名された選手が1人来ただけだ」
長谷部のブンデスリーガ通算300試合出場というのは、そうした積み重ねが作り上げたものだ。ピッチ内で、ピッチ外で、長谷部はいつでも、どんな時でもプロフェッショナルだ。どれだけ試合で感情のすべてを出して全力で戦った後でも、ピッチの外に出た時には冷静さを取り戻し、どんな時でも丁寧に話をしてくれる。
クラブのロッカーでは、長谷部の隣は若手選手が使うようになっているという。プロとは何か、プロであるとはどういうことか――。それを最も体現する選手を間近で感じることで、心構えを身につけさせていく。
苦しい時でも、いや、苦しい時ほど長谷部は成長の機会と捉えている。
2011年4月、当時所属していたヴォルフスブルクは残留争いに巻き込まれていた。自身初の残留争い、上手くいかないことばかりが続いていく。だが、そんな時でもネガティブなことは言葉にしない。
「いろんなことを感じながら、意味のある時間にしなきゃいけないなと。みんながどういう雰囲気なのか、こういう時にどういう風にしなきゃいけないとか。自分なりに感じて、考えてやっていかないと。なあなあな感じで試合に臨まないように、みんなでやっていきたい」
苦しい時こそ成長のチャンス 「ただ無難にこなすのではなく…」
13年頃には、出場機会に恵まれない時期もあった。そんな時でも愚痴なんて口にしない。いつだって自分にできることを探し続けていく。
「ただ無難にこなすのではなく、少しでもチャレンジするようにと思っている。今までもドイツに来てから、チームのためにこうプレーするというところでやってきたので、それを崩さずに。でも、それだけじゃ成長がないので、それプラス、何かをね」
現状維持でいいなんて思ったことはない。いつだって貪欲に自分を見つめて、改善点を探して、恐れることなくチャレンジし続けてきた。そんな長谷部の背中を、ドイツに渡った日本人選手は見て育った。
内田篤人(現・鹿島アントラーズ)は、自身がシャルケで出場機会が少なくなっていた時に、そんな体験を繰り返ししてきていた長谷部のことを例に挙げ、「本当に凄いな」とこぼしていた。
シュツットガルト時代の酒井高徳(現・ヴィッセル神戸)は、日本代表も含めた過密日程でコンディション調整に苦しんでいた時に、「でもいい選手っていうのは、そういう時でもしっかりできる。長谷部さんも代表に行って帰ってきても、しっかり自分のプレーができている。やっぱり、そういうところは見習いたいなって思う。逆に、自分はそういうところ、情けないなって思いますね。長谷部さんはもっと大変な状態なのに、しっかりやれているのはやっぱり凄い」と、手本としての偉大さを感じていた。長谷部の立ち振る舞いは、他の選手にとってどれだけ参考になったことか。
情熱は枯れることなく、向上心は途絶えることなく、モチベーションは冷めることなく――。
「サッカー選手をやっていると、良いことばっかりじゃないし、大変なこともあるし。いろんなことがあるんですけど、でもやっぱり、こんなにスリルがある、感情を出せるような場面というのは、サッカーを辞めたらなかなか出てこないと思うので。それを今、楽しんでいます」
そう語って優しく笑った。300試合達成も、長谷部にとってはまだ通過点なのだ。12シーズンかけて築き上げてきた軌跡。それは12シーズン、成長し続けてきたことの証でもある。
苦しい時は成長のチャンス。長谷部は直近のリーグ戦6試合で勝ち点わずか「1」という現状に対しても、「こういう試練が自分にきているっていうのは、何か意味があるものだと思う」と解釈し、また次に向けて取り組んでいく。
どこまでいくのだろう。その歩みをいつまでも見続けていたい。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

