「崖、荒れ地、私が引き取ります」全国の「不要不動産」を買いまくる業者が考える「意外な活用法」
不動産は「持っているだけで損する」時代に突入している。特に郊外の、崖や荒れ地など宅地に適さない土地は、所有者も手をこまねいて放置されがちだ。そんな土地をあえて買いまくっている業者があるという。その「意図」を取材した。
レスキュー隊の訓練に使ってもらおう!
「う、うそでしょ……」
日本全国にある「不要不動産」の活用を専門とする不動産コンサルタントで、Land Issues(株)代表を務める松尾企晴氏は、住宅地を囲むようにそそり立つ高さ40mほどの崖を見て、思わずそう呟いた。
「ある不動産会社が60年ほど前、山を切り崩して100世帯ほどの住宅街をつくったそうです。不動産業とは関係のない企業がそれを引き継ぎ、長年管理している状況でした。総面積500m2ほどの崖と、住宅街を通る私道1500m2ほどを引き取ってほしいと依頼が来たので、私は和歌山県に飛びました。
実際に見ると、崖を富に換える方法がなかなか思いつかなかったので、『2000万円払ってもらえれば、引き取ります』と高額を伝えて諦めてもらうつもりだったのですが……後日、依頼者から『その額でしたらお支払いします』と言われました」(松尾氏)
崖と私道を引き取るべく、松尾氏は再び現地に飛び、住民説明会を開いた。「東京から来てこんな崖を買うとは、一体何者なんだ」と住民たちから怪しまれたが、松尾氏の取り組みを話しながら、「崖にイノシシが出て困っている」などの悩みを聞いたりすること2時間、最後は住民たちに納得してもらえたという。
「どう活用するかいろいろ考えましたが、せっかくの巨大な崖ですから、レスキュー隊の訓練に使ってもらおうと、地元の方々と話しているところです。訓練所以外にも、壁面アートを芸術家に描いてもらって、楽しんでもらうことも構想しています。崖や荒れ地などの不要不動産を全国1700ヵ所ほど引き取っていますが、遊び心を大切にしながら、その活用法を考えているところなんです」
不動産コンサルタントの仕事
前章では売りたくても売れない物件を見たが、一方で、こうして誰も買わない土地を積極的に引き取ったり、買い手を探すコンサルタントもいる。本章ではその仕事ぶりと考え方に迫ってみよう。
公認不動産コンサルティングマスターで(株)リライト代表取締役の田中裕治氏は、不動産専門のマッチングサイト「不動産ポスト」を運営しながら、買い手がつかない負動産も数多く扱っている。
「子供に不動産を残したくない、タダでもよいから手放したい」と相談する人々の手伝いをしているという田中氏は、時には1円の値をつけた「1円物件」にしながら、販売・流通・活用を試み続けているのだ。
「十数年にわたり、車中泊もいとわず全国の売れない物件を見続けているうち、気づけば42都道府県の負動産を扱っていました。買い手を見つけるのはとても難しく、現地を地道に歩いては、買いたい人を探す。農地は特に売れないので大変です。自分の畑すら持て余している農家も多く、話しかけた方から、『大変な仕事だな。俺は買わないけど、兄ちゃん頑張れ』と、大根や人参をいただくこともあります」(田中氏)
ある高齢者から相談を受けた物件は、山形県の奥地にある山林だった。市役所で場所を確かめると、「あそこはツキノワグマがよく出るエリアだから、細心の注意を払ってください」と警告された。
両側に崖が続く細い山道を抜けた先の物件にようやく辿り着くと、周囲から強烈な獣臭がして慄いたという。
【後編を読む】熱海なのに1円の一軒家、車が玄関まで近づけない傾斜地…「崖物件」を買い続ける業者の「壮大な計画」
「週刊現代」2026年5月25日号より
