「満足度97%」を絶対に信じてはいけない…専門家「悪質な高額スクールが頻繁に使う"禁じ手"の種類」
※本稿は、竹林正樹『行動経済学トレーニング』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■スキルアップのつもりが…業者の魔の手に
Cさん(女性・28歳)は九州地方の文具会社の事務職。スキルアップして転職を考えています。
取引業者の人がデジタルクリエイターとして成功しているのを見て、Cさんも目指すことにしました。
SNSでDスクールがよく表示され、その中には「第一線で活躍している修了者多数!」「修了者の満足度97%!」といった文言が並んでいました。フォロワー数が多く、ポジティブなコメントが多いこともあり、好意的な印象を持ちました。
Dスクールの受講料は50万円。でも「他のスクールに比べてこんなに安い」と書かれているのを見て、「分割払いなら払えそう」と考え、申し込むことにしました。
入会して3カ月、講義動画視聴ばかりで、いつまでも実践に移りません。
Cさんは思い切ってスクールの事務局に相談してみました。するとスタッフは「Cさんはこのコースが合っていないかもしれませんね。今なら3割引きでプロフェッショナルコースに入れる枠があります。この特典はCさんだけにしかお知らせしないので、他の人には言わないでくださいね」と言われ、Cさんはプロフェッショナルコースに申し込むことにしました。
その翌月、大学時代の同級生たちとの飲み会で、Dスクールに通っていることを話しました。すると、1人の同級生が気まずそうにCさんにスマホの画面を見せました。
そこには「最近、Dスクールが悪質商法の疑いで利用者とトラブルになっている」と書かれた記事がありました……。
■ついつい引き寄せられてしまう心理
Cさんには、悪質業者に引っかかりやすい人に共通する心理「単純接触バイアス」が見られます。
これは「何度も見ているうちに愛着がわいてくる」という心理で、CさんもSNSで何度も目にした広告を無意識のうちに好意的に受け入れたようです。
企業が多額の費用をかけてでもネット広告を繰り返し表示するのは、ユーザーに単純接触バイアスが働いて、実際に申し込む人がいることを知っているからなのです。
さらに、CさんがDスクールのフォロワー数が多いのを見て信頼してしまったのは、「1つのことが輝いていると、他のことも優れているはず」と拡大解釈したくなる心理「ハロー(後光)バイアス」が働いたからのようです。
ここで注意すべきは、フォロワー数はお金で買える場合もあり、本来「フォロワー数が多いこと」と「スクールが信頼できること」「スキルが身につくこと」は、別ものですが、Cさんは一を聞いて十を知った気になり、「このスクールで間違いない」と信じ込んでしまったのです。

なお、統計学の観点では、修了者の満足度が高くなるのは当然なのです。
具体的数値を当てはめて考えてみます。「1万人がスクールに入学し、最終的に100人が修了し、そのうちスクールが厳選した30人にアンケートを行い、29人が満足と答えた」という状況では、数字上では満足度97%(=29/30)が達成できてしまうのです。
しかし、アンケートを行った30人は入学した1万人全員を代表しているわけではなく、最後まで残った特別な人たちです。
ここで、実際に入学した1万人を分母にすると、満足度0.29%(=29/10,000)にすぎないのですが、スクールではこのような不利なデータは表に出しません。あくまでも自分に都合のよいデータを前面に出し、それに釣られる人を待ち構えています。
■「無駄になる」「今だけ」の罠
CさんはDスクールに申し込む前に、「もっと安くて自分に合ったスクールがあるのでは?」と立ち止まって考えるチャンスはありました。
でも、Cさんは認知バイアスを刺激するアプローチを連発されると、直感的な判断をしてしまうのです。自分が手にした情報だけで判断したくなる心理(利用可能性バイアス)や自分の都合のいい情報ばかりが目に入る心理(確証バイアス)が働き、注意深く調べたり、じっくり判断したりする手間を面倒くさがるようになり、Dスクールしか目に入らなくなりました。
CさんはDスクールに通い始めてからも違和感を覚えましたが、「ここでやめると今まで払った受講料が無駄になる」といった心理(サンクコストバイアス)が働き、引き返せなくなりました。
Cさんにとって「限られた時間で高いスキルを習得できるか」が目的のはずだったのに、「今まで払ったコストを無駄にしたくない」という動機のほうが強くなってしまったようです。
さらに、DスクールではCさんがこの状態になったのを見越して「今だけ」「あなただけ」「内緒ですよ」といった特別感を与えるようなメッセージを送りました。
こんな殺し文句を言われたCさんは「限定バイアス」が刺激され、さらに「今、申し込まないと損をする」という心理状態(損失回避バイアス)になり、焦って追加申し込みをしたくなったのです。
■行動経済学では固く禁じられた手口
このように認知バイアスを刺激し本人の意に反した行動へと仕向ける手口は「ナッジの悪用(=スラッジ)」であり、行動経済学では固く禁じられています。

一方、悪質業者は行動経済学の崇高な理念などお構いなしに、ナッジの悪用を使いまくっています。これでは消費者はひとたまりもありません。
かと言って、全部を疑いの目でチェックしようとすると、理性がフル出勤し、すぐに疲れ果ててしまいます。
これに対しては被害防止の仕組みを自分で作っておくナッジを設計しておくと安心です。具体的には、自分の行動が監視される状況を作ること(モニタリングナッジ)で、望ましい行動を取りやすくなります。
たとえば、「28歳女子、クリエイターへの道」といったブログを開設してみてはいかがでしょうか。他人から見られていると、決断する前にじっくり調べる動機が生まれます。
ブログの中で「このスクールに決めようと思います」と報告すると、周囲から「そのスクールは悪い噂が多いよ」といった情報を得ることが期待できます。その情報の中にはガセネタもあるでしょうが、「調べて報告します」という次の記事のトピックにもなります。
また、こうした投稿は、「この日、スクールでこんなことを言われた」という記録にもなり、万が一、後日トラブルがあったときの証拠にもなり得ます。
そもそも、記録をつけること自体もモチベーションの向上に役立ちます(記録ナッジ)。
ブログは思考の整理の一助にもなります。CさんはDスクールに対する悶々とした感情を抱えておくよりも、言語化して思考を整理したほうが精神衛生上もよいのです(明確化ナッジ)。ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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竹林 正樹(たけばやし・まさき)
青森大学客員教授
青森県出身。立教大学経済学部、米国University of Phoenix大学大学院(Master of Business Administration)、青森県立保健大学大学院修了(博士〈健康科学〉)。行動経済学を用いて「頭ではわかっていても、行動できない人を動かすには?」をテーマにした研究を行い、「ホンマでっか⁉TV」(フジテレビ)をはじめ、各種メディアでナッジの魅力を発信。
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(青森大学客員教授 竹林 正樹)
