ノーベル賞作家ハン・ガンが東野圭吾を逆転 変わる韓国の読書と「テキストヒップ」現象
韓国最大の書店・教保文庫が 2026年4月に発表した「過去10年間(2016~2026年)の累計ベストセラー」調査は、出版関係者に少なからぬ衝撃と希望を与えた。
ノーベル文学賞作家ハン・ガンの作品「菜食主義者」が1位、「少年が来る」が2位を独占したためである。上位を韓国人作家が占め、日本の人気作家である東野圭吾がようやく11 位に入った。
今回の結果は、かつての状況と対照的だ。教保文庫が2019年に公表した調査では、2009年からの10年間における小説の累計販売数で、東野が約127万部で1位を記録した。2位は村上春樹であり、日本人作家が上位を占めていた。韓国人作家はようやく5位に登場した。当時、韓国文学の存在感の薄さを指摘する声も少なくなかった。
韓国だけで約36万部を売り上げた「ナミヤ雑貨店の奇蹟」
東野は1985年、「放課後」で江戸川乱歩賞を受賞してデビューし、日本国内での累計発行部数は1億部を超える。海外でも高い人気を誇るが、特に韓国では長年にわたり「最も愛される外国人作家」として不動の地位を築いてきた。大手書店には大きな専用コーナーが設けられ、作品はたびたび映像化されるなど、その影響力は大きい。
中でも「ナミヤ雑貨店の奇蹟」は韓国だけで約36万部を売り上げた。悪事の末に逃げ込んだ若者たちが、閉鎖された雑貨店に届く悩み相談の手紙に返事を書くという意外性のある設定で、時空を超えた交流を描く作品である。
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」韓国語版 このほか長編推理小説である「容疑者Xの献身」「仮面山荘殺人事件」なども根強い人気を誇る。教保文庫の担当者は、韓国メディアに対し東野人気について「想像力に富んだ作品に加え、推理小説や刑事小説など多様なジャンルを手がけ、読者の幅広い嗜好(しこう)に応えている点が強みだ」と分析している。
こうした状況を一変させたのが、ハン・ガンの国際的評価の高まりだった。2016年、小説「菜食主義者」でアジア人として初めて権威ある国際ブッカー賞を受賞。さらに2024年にはノーベル文学賞を受賞し、世界的な知名度を確立した。こうした実績が国内での評価を押し上げ、ランキング逆転の大きな要因となった。
若者層で高まる読書への関心
韓国メディアは今回の結果について、「韓国文学の自立と成長を示す象徴的な出来事」として高く評価している。通信社の聯合ニュースは「国際文学賞の受賞を契機に生まれた『ハン・ガン熱風』が影響した」と報じた。
もっとも、読書を取り巻く環境は厳しい。韓国文化体育観光省が公表した「2025年国民読書実態調査」によると、成人の年間総合読書率(紙・電子・音声を含む)は 38.5%にまで低下し、調査開始以来最低を更新した。成人の6割以上が年間に1冊も本を読まない計算になる。
一方で、若年層には異なる動きも見られる。
読んだ本や読書する姿をSNSで共有し、知的で洗練されたライフスタイルとして読書を演出する「テキストヒップ」と呼ばれる現象が広がっている。全体として読書離れが進む中でも、若者層に限れば読書への関心が再び高まりつつある。
ハン・ガンをはじめとする韓国人作家の台頭は、こうした流れをさらに後押しするかもしれない。
文/五味洋治 内外タイムス
