イーロン・マスクがブチ切れ…「OpenAI」サム・アルトマンに仕掛けた、20兆円超の「泥沼裁判」の全内幕

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AI産業の「存在基盤」が揺らぐ裁判

次世代AI産業の覇権を巡って、激しく競い合うイーロン・マスクとサム・アルトマンの両氏。彼らの法廷闘争(裁判)が今週、アメリカの北部カリフォルニア連邦地裁で始まった。

今回の訴訟はイーロン・マスク氏個人に加え、同氏がCEOを務めるxAIなどが共同原告となっている。一方、共同被告はOpenAI、同社のサム・アルトマンCEO、グレッグ・ブロックマン社長、(OpenAIと資本・業務提携する)マイクロソフトなど。

被告のアルトマン氏らOpenAI側が仮に敗訴すれば、最大1340億ドル(20兆円以上)という巨額の損害賠償に加え、アルトマンCEOやブロックマン社長の解任など、同社の存立基盤が根本から揺らぐ可能性もある。

訴状のなかでマスク氏は、「OpenAIが『全人類の利益のためにAIを開発する』という設立当初の崇高な非営利目的を捨て、マイクロソフトと提携して巨額の利益を追求するようになったことは、契約違反や詐欺にあたる」と主張している。

マスク氏は最近、「勝訴した場合の(20兆円以上もの)賠償金は自分ではなくOpenAIの非営利部門(慈善団体)に渡るようにする」と訴えを変えてきており、「金銭が目的ではなく、理想や理念の問題である」という姿勢を強調して、裁判を有利に導こうとしている。

「全人類のためのAI開発」という理想が破綻した末の決裂

今回の裁判に至る経緯は、お互い「あくの強い個性」を持ったマスク、アルトマン両氏の仲違いという個人的な要素に加え、「AIは結局誰のものか?」という思想的対立が10年以上にわたり積み重なったものでもある。

OpenAIは2015年12月、(マスク氏が訴状で述べたように)「全人類に寄与する汎用人工知能(AGI)を実現する」ために非営利の研究団体として設立された。そこにはまた、当時世界のAI開発を圧倒的にリードしていたグーグルに対抗する、という第二の設立意図も含まれていた。

また「OpenAI設立の発起人は誰か?」については諸説あるが、もっとも有力な説はアルトマン氏がマスク氏に「AGIを実現するためのマンハッタン計画を立ち上げようとしているけど興味ある?」という誘いのメールを送ったのが端緒とされる。

一方、「OpenAI」という組織名を考案したのはマスク氏だ。その設立当時のメンバー(共同創業者)には、マスク、アルトマン、ブロックマン氏らをはじめ全員で6名の実業家や技術者らが含まれていた。

特にマスク氏はOpenAIの設立から2年余りの間に、全部で約4400万ドル(50億円以上)を同団体に寄付すると同時に、自身の知名度や人脈を使ってトップレベルのAI研究者をリクルートする上でも主要な役割を果たした。

OpenAIは設立当初、僅か20名余りのAI研究者・技術者らがブロックマン社長の自宅アパートを開発拠点に細々と仕事を始めた。が、その後は研究活動を拡大するなかで、いわゆる「大規模言語モデル(LLM)」の開発に必要な膨大な計算資源(サーバー代)を確保する上で、深刻な資金不足に直面する。

この問題に対しマスク氏は「LLMの開発には最低でも数十億ドル(数千億円)が必要だ。この資金を確保するには、OpenAIを(自身がCEOを務める)テスラと合併して、自分がそのCEOとして舵取りを担うしかない」と主張した。

言わば「OpenAIを俺によこせ」と求めるマスク氏に、アルトマン氏やブロックマン氏らOpenAIの経営陣は「ノー」の回答を突き付けた。これに怒ったマスク氏は2018年、OpenAIの取締役を辞任するなど袂を分かち、これ以降は同団体への寄付など資金的援助も打ち切った。

非営利から営利企業への転換は「史上最大の慈善詐欺」なのか

世界一の大富豪であるマスク氏という最大の資金源を失ったOpenAIだが、この苦境に対しアルトマン氏ら経営陣は2019年に「利益制限付き(capped-profit)」の営利子会社OpenAI LPを設立し、これを元々の非営利団体OpenAI Inc.の傘下に置くという策に出た。

このようにOpenAIを事実上の営利企業化することによって、マイクロソフトから10億ドル(1000億円以上)の出資を引き出し、資金難を抜け出した。これを元手にLLMの開発を軌道に乗せ、2022年11月にリリースしたChatGPTが爆発的なヒットを記録すると、OpenAIは世界でもっとも価値のあるスタートアップ企業として脚光を浴びた。

その後、OpenAIは本来の非営利研究団体と2019年以降の営利企業化の狭間で組織内部に権力闘争が生じ、2023年11月にはアルトマンCEOが一時的に解雇された。そこから僅か5日間でアルトマン氏がCEOに復職するというドタバタ劇の末に、OpenAIはそれ以前にも増して「営利企業化」の方向に傾いていった。

これを見たマスク氏は2024年2月、OpenAIやアルトマン、ブロックマン氏を相手に最初の提訴を行い、一旦それを取り下げたのち、同年8月に訴状を修正して再提訴した。修正した訴状では、被告にマイクロソフトを追加した他、「OpenAIが投資家に(自身がCEOを務めるxAIなど)ライバル企業を支援しないよう圧力をかけている」という反トラスト法(独占禁止法)違反の主張も加えた。

一方、OpenAIは2025年10月、「(本来の)非営利団体の傘下にある」という条件を維持しつつ、登記上の本体があるデラウェア州の法律に基づく「公益追求型の株式会社(Public Benefit Corporation:PBC)」への組織転換を果たした。これは日本のソフトバンクをはじめ投資家に対し設立当初の「利益配分の上限」をなくすことによって、一般的なテック企業として巨額の資金調達を行い易くするためだ。

これに対しマスク氏は「史上最大の慈善詐欺(phylanthropic fraud)」と痛烈に非難。それから約半年を経た今月、2024年に提訴していた訴訟の裁判(公判)がようやく始まる運びとなったのだ。

…つづく後編の『AIバブルのウラでイーロンとアルトマンが大揉め…!日本メディアが報じない、OpenAI「160兆円の巨額上場」崩壊シナリオ』でもAI覇権を左右する裁判のゆくえを深掘りする。

【つづきを読む】AIバブルのウラで…日本メディアが報じない、OpenAI「160兆円の巨額上場」崩壊シナリオ