記事のポイント
金価格が1年で50%上昇し、ジュエリー業界は原材料コスト増に直面し、値上げが避けられない状況に。
ブランド各社は、金使用量を抑えたデザインや代替素材へのシフトを加速させ、収益性と価格維持の両立を図っている。
価格高騰によりエントリー層の顧客が離れ、ラグジュアリー市場の構造や「高級品」の定義が変わりつつある。


この1年で金価格が急騰した。その背景には、根強いインフレと中東の緊張がある。1月には金先物価格が史上初めて4900ドル(約73万5000円)を突破し、一時は5500ドル(約82万5000円)に達した。現在では、多くのアナリストが年内に6000ドル(約90万円)を超える可能性があると予測している。

4月中旬時点では、イランでの戦争が沈静化するとの期待から、金はやや下落傾向にあり、5000ドル(約75万円)をわずかに下回る水準で推移している。

しかし、それでもこの1年で50%の上昇であり、金を原材料として使用するジュエリーブランドや時計ブランドだけでなく、業界全体に即座に影響を及ぼしている。

商品としての金は経済全体の健全性を示す指標であり、ここ数カ月の激しい価格変動は、あらゆるファッションブランドが直面する、より予測困難な市場を反映している。

原材料高騰が直撃し、ブランドは値上げと需要減に直面



ジュエリーブランド、リングコンシェルジュ(Ring Concierge)の創業者であるニコール・ウェグマン氏はGlossyに対し、金価格の上昇は自身のビジネスにただちに影響を与えていると語った。

現在、金は同社の原材料コストの約60%を占めており、リングコンシェルジュはコストを補うために約10%の値上げを余儀なくされている。

「問題は、価格を1%上げるごとに、価格が高すぎて購入できない人が増え、売上が約1%減少してしまうことだ」とウェグマン氏は語った。

「我々は競合他社の動きを追跡しているが、どこも値上げしている。ある大手競合企業は一度に30%も値上げした。我々が取りたい戦略ではないが、避けて通ることはできない」。

こうした変化は、消費者が購入できるものと、今日における「高級品」の定義の両方に長期的な波及効果をもたらす可能性が高い。

「重さ」から「デザイン」へ、商品戦略の転換が進む



たとえば、ウェグマン氏によると、リングコンシェルジュはすでに、現在トレンドとなっている、ゴールドを多く使ったボリューミーなジュエリーから、より軽量でダイヤモンドを多用したピースへと在庫をシフトしはじめている。

「驚くべきことに、重量あたりの金の価格は、パヴェセッティング(表面全体にジュエリーを敷きつめる手法)に使われる小さなダイヤモンドであるメレダイヤよりも実際には高い」とウェグマン氏は語った。

「石の付いていない純金のブレスレットに3000ドル(約45万円)も払うのは正当化しにくいが、金価格が上がり続ければそれだけの値段になる。そこで、品揃え全体を見直し、ダイヤモンドを多用しゴールドを少なくしたデザインや、シルバーとゴールドのツートンカラーのジュエリーを増やすことを検討している」。

業界全体で進む代替素材へのシフト



貴金属の専門家たちは、消費者の好みが価格の手頃さを基準に変化する傾向は今後も続くだろうと述べている。

「金の価格変動は、ファッションジュエリー市場とゴールドジュエリー市場のあいだに分断を生み出している」と、貴金属ディーラーのマネー・メタルズ・エクスチェンジ(Money Metals Exchange)でコンテンツマネジャーを務めるジョシュア・グローソン氏は語った。

「金現物価格の上昇は、ゴールドジュエリーに対する消費者の需要を減少させている。これにより、購入者はより軽量なジュエリー、下取り、あるいはシルバーやプラチナなどの代替金属へと向かっている。ジュエリーデザイナーたちも、エレクトラムや金メッキの銀などの混合金属、大胆で存在感のあるデザイン、ラボグロウンダイヤモンドのようなより手頃な価格の素材へとシフトしている。つまり、収益性を維持しながら価格を下げるために、あらゆる手を尽くしているのだ」。

ウェグマン氏は、多くの高級宝飾店で標準となっている16金よりも純金の含有量が少ない合金である10金のアイデアをテストしはじめたとも語った。

「賢いブランドは、デザインレベルでの対策を講じている」と、コンサルティング企業ガートナー・コンサルティング(Gartner Consulting)のマネージングパートナーで、ラグジュアリーブランドのサプライチェーン管理などのコンサルティングを手がけるジャッキー・スワンソン氏は語った。

「手頃な価格帯のラインでは低カラットのゴールドに移行し、カラーストーンや代替素材を取り入れて1点あたりのゴールド使用量を減らし、バーメイル(金メッキされた銀)やゴールドフィルド(金張り)などの選択肢を導入することで、商品価格の変動リスクを確実に回避しつつ、ブランドの一貫性を保っている。一方で、金を価値の保存手段として位置づけ、投資というストーリーを売り込みに組み込むことで、完全にこの流れを生かしているブランドもある。ハイエンドブランドでは、実際に機能している」。

時計業界への波及と顧客層の変化



金価格の高騰は時計業界にも影響を及ぼしており、ロレックス(Rolex)などの人気ブランドの金時計の価格上昇を招いている。完成品としてよりも原材料としての価値が高くなっているため、古い金時計を溶かしているディーラーもいるという報告もある。

時計やジュエリーブランドが原材料コストに追いつくために値上げを続けるなかで、貴重な富裕層顧客を失うリスクがある。米国では、生活費、食料品、ガソリン、住宅価格がすべて上昇するなか、低所得層はすでに経済的に苦しい状況に置かれている。

「エントリーレベルの顧客はすでに購入を控えている。手頃な価格帯が消え、裁量的な支出に対してより慎重になるなかで、全体の売上が減少している」と、メシュキ(Meshki)やコパリ(Kopari)などのブランドと協業するリテールテック企業ショップリフト(Shoplift)の共同創業者でCEOのオースティン・ゴールドマン氏は語った。

ウェグマン氏も、金価格の上昇でもっとも打撃を受けているのはアスピレーショナルカスタマー(高級ブランドに憧れている、ラグジュアリーブランドにおける中間層)だと同意した。

「我々は100ドル(約1万5000円)未満の商品から、7桁の価格帯の特注品まで販売している」とウェグマン氏は語った。

「エントリー価格帯の品揃えの販売個数は減少している一方、値上げにより平均注文額は上がっている。エントリー価格帯から購入をはじめる新規顧客が減り、リピーターになってくれる人も少なくなっているため、販売チャネルが圧迫されている。これは残念なことだ」。

[原文:Fashion Briefing: Gold prices are skyrocketing, squeezing the jewelry industry's margins in uncomfortable ways]

Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)
Image via Ring Concierge