(※画像はイメージです/PIXTA)

写真拡大 (全4枚)

2026年4月の金市場は、3月の原油高ショックとFRBの政策観測の急反転によって短期的な急落に見舞われました。しかし、これはあくまで“一時的な逆風”にすぎません。中国の強い現物需要や各国中央銀行の金購入、さらに財政悪化と債務膨張といった構造要因が、金にとってはむしろ長期的な追い風となっています。本記事では、金市場の現状と今後の金価格を左右する要因を整理します。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。

原油価格高騰で一時的に急反落した金相場

金はまだ強気相場の中盤

金市場は2026年第1四半期に歴史的な高ボラティリティに見舞われましたが、「下落はしたものの、崩壊には至っていない」という表現が適切かもしれません。

当社は、年末にかけて金価格が1オンスあたり4,750〜5,500ドルになる確率を50%とする基本シナリオを維持しており、金は依然としてブルサイクル(強気相場)の中盤にあると考えています。

金価格が5,500〜6,250ドルになる強気シナリオの確率を35%から30%に引き下げましたが、4,000〜4,100ドルが金価格の下値水準となり、2027年には過去最高値を再び試す展開もあり得るとみています。

3月末の価格は、弱気シナリオの4,000〜4,750ドルというレンジのなかに収まっており、このレンジは当社の見通しのなかでは20%の確率です(ただし、エネルギー価格の推移や米連邦準備制度理事会[FRB]の政策対応に左右されます)。

原油高ショックで金相場は一時的に急反落

原油価格が1バレル100ドル台に達するような「グレイスワン」と呼ばれるテールリスクについて、当社は1月に指摘しましたが、それが現実のものとなりました。資産市場全体に波及したこのエネルギー価格ショックに、金市場も無傷ではいられませんでした。

地政学リスクは金への投資需要を通常は下支えするものですが、1月から2月にかけて金相場を支えていた米ドル安、FRBの金融緩和観測、実質金利の低下などマクロ面の追い風が急反転し、安全資産としての金の買い需要を上回りました。

利益確定の売却と流動性を確保する手段としての金の利用が相まって、金は昨年7月以降初めてリスク資産と60/40ポートフォリオ(株式に60%、債券に40%投資する伝統的な手法)をアンダーパフォームしました※1。

実際、3月のスポット金価格の下落率は、通常ベースと対数ベースのいずれでも、2008年の世界金融危機以来の大きさとなりました※2。

市場が大きく揺れているときは、予想が短期間で大きく変わる

原油150ドル突破なら、金に“重し”強まる

とはいえ、金の価格下落はそれほどまでに大きくかつ急激だったのでしょうか? 短期金融市場は、イラン紛争が勃発する直前に2026年の累積利下げ幅を約58 bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)と織り込んでいましたが、足元ではFRBが年内の利下げを見送ると予想しています※3。

一方、3月中旬から下旬にかけて、市場が織り込むFRBの年内の利上げ確率が一時的に60%を上回ったこともありました※4。

変動の激しい市場では予想は急速に変わるものです。紛争が長期化し、ICEブレント原油価格が1バレル150ドルを超えれば、FRBの政策や米ドルを通じて金相場に重しとなる可能性が高くなるだけでなく、リセッション(景気後退)またはスタグフレーションを引き起こす確率も高まります。

一方、原油価格が1バレル80〜85ドルのレンジに正常化すれば、金価格は5,000ドルを上回る水準まで急回復する可能性があります。

中東紛争によるさらなる財政赤字拡大は、金市場にとって“追い風”

2024〜2025年にかけて金相場を支えてきた構造要因の一部(政府債務負担の増大や財政赤字の拡大など)は、中東紛争によってさらに悪化する可能性があります。米議会予算局(CBO)の最新予測によると、今年の米連邦債務の純利払い額は史上初めて1兆ドルを超える見込みです※5。しかも、これは直近の米国債利回りが上昇する前の予測です。

中国も金価格の下落局面で買いを入れています※6。欧米の投資家もこれに追随するでしょうか? 当社の「今月のチャート」は、中国の金需要はこうした金価格の上昇局面でも底堅いことを示しています。

[図表1]今月のチャート:中国国内における金価格のプレミアム/ディスカウント状態★1

欧米からの売り圧力を和らげる中国の金需要

中国の現物需要が金価格を下支え

重要な点として、金は「グローバル」なコモディティ資産であることを忘れてはなりません。金融取引といえば、ニューヨークやロンドンの取引所やスポット市場が連想されがちですが、アジアにおける金消費は、特に中国本土では現物需要をけん引する一因となっています。

その点において、中国では第1四半期を通じてポジティブな兆候が見られ、金価格の上昇が構造的に下支えされるか、少なくとも金価格の下値支持線が4,000〜4,750ドルに設定される可能性があります。

中国国内「プレミアム」最高水準で現物逼迫

中国国内の金価格のプレミアムは3月中に1オンスあたり50ドルまで跳ね上がり、LBMA(ロンドン貴金属市場協会)取引価格を1.0%上回りました※7。これは米国が2025年4月の「解放の日」に相互関税を発表した直後以降、中国の金価格の平均プレミアムの最高値です。通常、中国国内における強気のプライシングは、中国の個人投資家と機関投資家からの需要増を先行して示唆します。

また、これは中国国内市場へ現物取引を誘導するインセンティブとなり、その結果、中国国外における金現物供給の引き締め要因ともなります。プレミアムは、2026年第1四半期には前期比0.4%ポイント上昇し、平均で0.6%となりました。

2025年第1四半期は、春節需要が強かったものの0.0%でした。金価格がドルと人民元のいずれでも過去最高値を記録したにもかかわらず、2026年1〜2月の中国の小売輸入量は前年同期比123%増の207トン超となり、過去5年間の季節平均である181トンを上回りました※8。

金ETF、欧米は「売り」中国は「買い」

中央銀行動向としては、中国人民銀行は公的な金準備を16ヵ月連続で純増させ、約2,309トンという過去最高水準まで押し上げました。これは、直近の積み増しサイクルが始まった2024年第4四半期初頭の約2,264トンを上回るものです※9。

さらに、現物裏付けのある米国上場の金ETFが3月最初の4週間で127億ドル超の流出となる一方、中国の金ファンドは11億ドルの純流入を記録しました。これは3月の欧米からの売りを相殺するには不十分でしたが、中国による「押し目買い」はETFからの資金流出が価格に与える影響を緩和しています※10。

実際、中国本土の金ETFへの資金流入額は年初来81億ドルに達し、同期間の米国の金ETFセクターにおける20億ドル超の流出とは対照的です※11。また、これは金が単なるFRBの政策や米国のリスクセンチメントだけでなく、地域の需給ダイナミクスに支えられたグローバルな資産であることを示しています。

[図表2]実質金利の再評価と金市場の反応★2

FRBの政策転換が金のパフォーマンスにとって重要である理由

金価格の調整は「短期要因」によるもの

実質利回りは2月後半に低下基調となったあと、原油価格に起因するインフレショックを受けて急上昇しました※12。

3月初めに中東紛争が勃発して以降、米国の10年物インフレ連動国債(TIPS)の利回りはおおむね30〜35bp上昇し、2025年7月以来初めて2.0%の水準を試す展開となりました※13。3月の金価格の調整は、主にFRBの予測の見直しと実質利回りの上昇によるもので、これらの要因がドル高を支えました。

金価格の調整は、ディベースメント(通貨価値の切り下げ)の懸念や代替不換通貨への資金配分によって世界的な金需要が崩壊したことを示すものではなかったと考えられます※14。

したがって投資家は、構造的なダイナミクス(金にとって引き続きおおむねプラス材料と当社はみている)に対する循環的な圧力(実質利回りの上昇に伴い、金保有の機会コストが一時的に増加すること)に注意を払うべきです。

戦術的に見ると、実質金利が安定または反転した場合には、こうしたダイナミクスは金にとって歴史的な追い風となる環境を作り出してきました。

財政悪化と債務膨張が金需要を押し上げ

戦費の支出、支払利息の増加、歳入の減少などの財政赤字の拡大を受け、債務の増加と長期的なディベースメント・リスクの状況がさらに悪化していますが、こうした要因は歴史的に金需要を押し上げてきました。

世界の債務総額は過去最高の約348兆ドル、すなわち世界のGDPの3〜4倍にまで膨れ上がり、民間部門よりも政府部門の債務の方が急激に増加しています。これは、構造的な財政圧力の高まりを予期している可能性があります※15。

次期議長人事も金相場の重要材料に

前述のとおり、変動の激しい環境下では、予想は急速に変わる可能性があります。パウエルFRB議長は2018年第4四半期に、中立金利はもっと高い水準にあるべきだと示唆しましたが、2019年7月に利下げに転じました。金価格は以降6ヵ月間で約11%上昇しました※16。

同様に、バーナンキ議長は2006〜2007年にかけて、サブプライム住宅ローンによるリスクは抑制されていることを示唆し、利上げを正当化しました。にもかかわらず、株価が暴落すると積極的な利下げが続き、その後の6ヵ月間で金価格は38%上昇しました※17。現在、3月の原油ショックに端を発したFRBのタカ派的な政策転換を受け、先物市場は今年中の利上げの可能性を織り込んでいます※18。

一方、地政学的緊張が緩和された場合は、市場予想が年内の利下げへと急反転し、金にとってきわめて好ましい環境が生まれる可能性があります。さらに、一部で緩和よりと見られているウォーシュ氏が次期FRB議長に就任した場合にも、政策転換を通じて金に追い風が吹く可能性があります。

[図表3]3月の北米の金ファンドによる売りは同地域のETFからの資金流出が要因★3

中央銀行の金需要がETF流出を上回る

3月の金ETF流出も、長期需要は堅調

実物の裏付けのある金ETFによる金の保有高は年初から好調な滑り出しとなりましたが、3月には124億ドル(約90トン)減少し、9ヵ月連続の資金流入が途切れ、年初来の純流入額は117億ドル(約57トン)まで減少しました※19。

金ETFから資金が流出した原因は、広範囲にわたり流動性が逼迫したことと利益確定の売りによるものとみられます。その背景として、FRBの政策と米ドルの短期的な予測が見直されるなかで、投資家が流動性の高い代替資産やヘッジ資産から資金を引き揚げたことが挙げられます。

とはいえ、当社は、グローバルなディベースメントへの対応、分散投資手段、代替不換通貨、ならびにデュレーションのヘッジ手段として投資家が金を求め続けてきた裾野の広いトレンドが、わずか1ヵ月間の資金流出(たとえそれが大規模なものであっても)で断ち切られるとは考えていません。

各国の金購入が広がる一方、トルコは外貨確保で売却

公的部門からの需要は依然として底堅く、2月に更新されたデータでも、ポーランド(+20トン)、ウズベキスタン(+8トン)、チェコ共和国(+2トン)、マレーシア(+2トン)、中国(+1トン)などからの安定的な購入が継続しています※20。

主な例外は、過去10年にわたって世界で最も積極的に金を購入した国の一つであるトルコです。同国は、戦争に伴うボラティリティの上昇、エネルギー輸入コストの上昇、および資金調達への圧力が広範に高まるなか、リラの防衛および流動性需要対応のため、80億ドル (約60トン)相当の金の売却やスワップ取引を行いました※21。

重要な点は、こうした対応は金に限ったものではなく、政策当局は過去数週間の間に、米国債を含む約160億ドル相当の外貨建て債券を売却しています。1月末時点でのトルコの米国債保有額は170億ドル未満と、2015年の820億ドルから減少しています※22。

最近の動向は、外貨準備資産としての金の戦略的役割を強化するもので、長期的には公的部門からの金需要が徐々に高まる可能性があります。トルコによる金準備の活用は、紛争による経済的コストを補うための流動性の源泉として金が有効であることを浮き彫りにしています。

フランスでは金準備の評価額が一時的に上昇したことを背景に、フランス銀行(中央銀行)は2025年に金取引で110億ユーロのキャピタルゲインを獲得し、81億ユーロの黒字に転じました※23。

ロシアも金が財政に追い風となった好例です。同国の中央銀行は、軍事支出の増加に伴う財政赤字の拡大を埋めるため、1月〜2月にかけて14トンの金を売却したと報じられています※24。

これらの動向を総合すると、地政学的に分断が進む世界における金の有用性を浮き彫りにしているだけでなく、流動性の源泉、バランスシートの支援手段、そして対外的な政策リスクに対するヘッジ手段としての金の価値がさらに高まっています。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。

Aakash Doshi(Head of Gold Strategy)、Mohanad Abukhalaf (Gold Strategist)、Diego Andrade(Senior Gold Strategist)、アーロン・チャン(ゴールド・ストラテジスト)