ミラノ・コルティナ・オリンピックのフィギュアスケート女子シングルス/団体で金メダルを獲得し、世界的なスーパースターとなったアリサ・リュウ(20)が、アイスショー『スターズ・オン・アイス』出演のため来日中だ。彼女は、米国内ではどのようにみられてきたのか。関心を集めた、その“ユニークな生い立ち”とは--。在米ライターの堂本かおる氏が寄稿した。(全2回の1回目/続きを読む)

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アリサ・リュウ ©JMPA

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世界中が目を見張ったフィギュアスケーター

 アリサ・リュウは、類まれな存在だ。オリンピックでの演技はスケート・ファンのみならず、普段はスケートを見ない層まで魅了してしまった。

 なぜなら、アリサは何かが違う。満面の笑顔。弾力的な演技。ジャンプ。回転力。1970年代のディスコミュージック。"ヘイロー"と呼ばれる金髪と茶色に染めわけた髪。前歯に光る"スマイル・ピアス"。何よりオリンピックという大舞台であることを微塵も感じさせないリラックス、エンジョイのオーラ。世界中が、まさに目を見張った。

 アリサは瞬く間にファッション・リーダーにもなった。リンクの外ではフィギュアスケーターではなく、スノーボーダーに間違われることもあるバギー(ブカブカ)なファッションがトレードマークだ。雑誌 「Teen Vogue」のグラビア撮影は、そんな今時Z世代であるアリサの魅力を余すところなく伝えた。パリ・ファッションウィークでのルイ・ヴィトンのファッションショーには、同ブランドのジーンズジャケットで現れた。数あるイベントの合間を縫い、ローリングストーン誌を含むいくつものインタビュー、トークショー『The Tonight Show』出演もこなし、オリンピック後のアリサは多忙を極めた。

 そして、4月上旬からはアンバー・グレン、坂本花織、三浦璃来&木原龍一ペアなど、そうそうたるフィギュアスケーターたちと共に『スターズ・オン・アイス』の日米ツアー中だ。

 こうした華々しいスポットライトを浴びると同時に、アリサは「13歳でフィギュアの神童、16歳で引退、18歳で奇跡のカムバック、20歳で金メダル」「父は中国からの政治亡命者」「匿名の卵子提供により代理母から生まれた」と、そのユニークなバックグラウンドと経歴も盛んに報じられた。

 アリサ・リュウとは一体、何者なのか?

「みんな、やりたい髪型をすればいいよ!」

 日本では「アライグマヘア」「ラスカルヘア」などと言われるブロンドと茶色の横縞に染めた髪は、米国ではヘイロー(Halo:後光、後輪)と呼ばれている。フィギュアスケーターとしては異色のスタイルだが、今後も変えるつもりはないと言う。その髪についてジャーナリストに聞かれたアリサは、「えーと、みんな、やりたい髪型をすればいいよ!」と明るく答えた。もちろん、真似て同じ色に染めるファンが登場している。

 笑うと前歯に現れるスマイル・ピアスは、上唇の裏側と上顎をつなぐ上唇小帯(じょうしんしょうたい)に穴を開けて着けている。「自分でやった。妹に上くちびるを押さえてもらって」「全然痛くないよ!」と、これも屈託なく説明している。

 メイクアップに黒のアイシャドウ、アイライナーは欠かせず、器用に涙袋も作ってみせるが、スキンケアについて聞かれると「クリームは……オレンジ色の……」と、ブランド名を思い出せない。

好きなアニメトップ5は…

 アリサはオリンピックに『チェンソーマン』のキャラクター、ポチタのぬいぐるみ(ティッシュケース)を抱えて現れた、大のアニメ・ファンでもある。

 唐突にマイクを向けられ、「好きなアニメ・トップ5」を聞かれた時は、『呪術廻戦』『チェンソーマン』『進撃の巨人』『魔法少女まどか☆マギカ』『ソウルイーター』をたちどころに挙げた。その際、「今日は『チェンソーマン』の最新話が公開されるの。大事な日!」と、マニアぶりを発揮してインタビュアーを驚かせた。

 別のインタビューでは、『ソウルイーター』のマカは「他者とのシンクロの仕方を知っている」から、『進撃の巨人』のミカサは「動きにフィギュアスケーターのセンスがあると思う」から、アイスダンスのパートナーにしたいと答えている。

弁護士の父に連れられ、5歳の時に初めてリンクへ

 現在20歳のアリサは2005年8月8日、カリフォルニア州で生まれている。アリサが5歳の時に父親がスケートリンクに連れて行ったところ、当時はスケートについて全くの素人だった父親にも分かるほどの才能を見せた。父親はすぐさまアリサをグループ・レッスンに参加させ、娘の才能を確信すると個人レッスンに切り替えた。

 以後、父は多忙な弁護士業と、ステージママならぬ、アイスリンクパパをこなしていく。まだ幼いアリサは学校とアイスリンクの往復生活をこなし、メキメキ頭角を現していく。

13歳で全米女王になった「神童」

 2018年、アリサは12歳で全米フィギュアスケート選手権のジュニアクラスに出場し、優勝。翌2019年には同大会のシニアクラスで史上最年少13歳での優勝を果たした。同年には、一つのプログラムでルッツ(4回転ジャンプ)とトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させた史上初の女性スケーターともなり、神童と呼ばれた。

 この時、大会の解説者を務めていたタラ・リピンスキーは1997年の同大会で優勝し、当時14歳という最年少優勝記録を以後22年間にわたって保持していた。そのリピンスキーがアリサについて、「なんと驚異的な才能だろうか」と思わず口にしている。

 この時期のアリサを見ると、今のアリサと同一人物とは思えない。黒髪を固いシニヨン(お団子ヘア)にまとめ、薄いメイクに赤い口紅。あどけなく、体型もまだ少女のそれだった。身長は140センチしかなく、全米選手権の優勝台に上(のぼ)れず、2位と3位の選手に両手を掴んで引っ張りあげてもらわなければならなかった。しかし明るい性格は今と変わらず、優勝直後に深夜トーク番組『The Tonight Show』に招かれ、ホストのジミー・ファロンにフィギュアスケートの“レッスン”を施し、観客を笑わせている。

 全米選手権で優勝したアリサだが、世界選手権には出場資格の15歳に達していなかったために出場できていない。しかし翌2020年の全米選手権では再度の優勝を手にしている。だが、その直後に世界はコロナ禍に見舞われた。各種スポーツ大会もキャンセルされ、練習すらままならなくなるが、アリサはそれを乗り越え、2022年、16歳で北京オリンピックに出場し、6位入賞とした。

 その2カ月後となる2022年4月、アリサはインスタグラムにて爆弾発表を行った。

インスタで“引退宣言”

〈「ヘーイ! スケートを引退することをお知らせします(スマイルの絵文字x2)5歳でスケートを始めてから、氷の上で過ごした時間は約11年。本当に信じられないくらい濃密な11年間だった。良いことも悪いこともたくさんあったけれど、まあ、そういうものよね。たくさんの友だちができたし、一生の宝物になるような、本当にたっっっくさんの素敵な思い出ができた。正直なところ、これほど多くのことを成し遂げられるなんて、自分でも夢にも思っていなかった(LMAOO)」

「これからは次の人生へと歩みを進めていこうと思ってる。これからは空いた時間のほとんどを家族や友だちと一緒に過ごすつもり。あと、勉強もしっかり頑張ろうと思ってます(ykwim)」(※投稿は現在削除済み)〉

 大文字をほとんど使わず、「LMAOO(LAUGHING MY ASS OFF) 」(=「爆笑」)、「ykwim(You Know What I Mean)」(=「言いたいこと、分かるでしょ」)などネット用の短縮語を多用した、ごく普通の16歳のカジュアルな文体だった。しかし、この宣言はアリサ本人よりも娘のスケートに精魂を注いできたと言える父親アーサーにも、コーチにも内緒の、文字通りの爆弾宣言だった。

 弱冠16歳のアリサが独りで引退を決意し、こうした方法で発表したのには理由があったことを、 後にアリサ、父親、コーチがそれぞれ語っている。アリサ本人はスケートのみで過ごした11年間にわたる子供時代を「アブノーマル」と言い、頭角を現す程に周囲の期待とコントロールが強まり、息苦しくなったことを語っている。また、アリサの人生をスケートのみを軸に構築してきた父親への強い反発もあった。(つづく)

「両親は中国人なのに、私はそう見えない」8歳で知った“出生の真実”…世界が注目するアリサ・リュウ(20)の濃密な人生〉へ続く

(堂本 かおる)