混乱に次ぐ混乱

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支持率は二期目の最低更新

 米国・イスラエルとイランとの間の戦争(中東戦争)が続く中、トランプ米大統領の支持率は下がり続けている。

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 ロイターが3月24日に発表した世論調査の結果で、トランプ氏の支持率は前回から4ポイント低下の36%と、2期目の最低を更新した。国民の間で物価高への不満が高まっている上に、対イラン軍事作戦の開始後にガソリン価格が高騰したことが要因だと言われている。

 全米各地では28日、トランプ氏の強権的な政治手法に抗議するデモが実施され、参加者は「王はいらない」をスローガンに掲げ、行進した。

 トランプ氏が2期目に入ってから3度目のデモで、参加者は過去最大規模の約800万人だったという。強硬な移民摘発に加え、イラン戦争に対する批判の声が上がったことが今回の特徴だ。

混乱に次ぐ混乱

 中東戦争のせいで米国経済が急減速する可能性も高まっている。経済協力開発機構(OECD)は26日に発表した最新見通しで、米国の今年のインフレ率は4.2%と予想した。昨年12月の予測から1.2ポイント上昇している。

米国リセッション入りの確率は上昇

 ミシガン大学が27日に発表した3月の消費者態度指数の確定値は53.3と、ここ3カ月で最低水準となった。

 住宅ローン金利は4週連続で上昇して半年ぶりの高水準に達しており、重要な春の住宅販売シーズンを前に暗い影が漂っている。

 ゴールドマン・サックスは、原油価格の高騰を受け、今後12カ月以内に米経済がリセッション(景気後退)に陥る確率が30%に上昇したとの見方を示している。

 市場が注目する連邦準備理事会(FRB)の次期議長人事も難航しそうだ。

 上院銀行委員会の民主党トップであるウォーレン議員が、トランプ氏が指名したウォーシュ元FRB理事に対して、性犯罪で起訴され獄中で自死した富豪、ジェフリー・エプスタイン元被告との関係などを説明するよう求めているからだ。

 ウォーシュ氏の人事は、パウエル現議長の任期満了(5月末)までに上院で承認されない可能性が高まっており、トランプ氏のFRBに対する苛立ちはさらに高まることだろう。

「イランで大儲け」の影

 トランプ政権に対する疑惑も浮上している。

 ノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク市立大学の教授、ポール・クルーグマン氏は24日付けの自身のブログで、安全保障関連の機密情報に接する立場の人々がその情報を利益目的で利用した場合は、「インサイダー」ではなく「反逆罪」だと強く非難した。

 クルーグマン氏が問題視しているのは、トランプ氏がイランとの交渉進展を公式発表する直前に市場で発生した大規模取引だ。

 トランプ氏はホルムズ海峡が48時間以内に開放されなかった場合の報復措置を発表していたが、23日朝にその作戦を中止した。クルーグマン氏が引用したCNBCの報道によれば、トランプ氏が中止を発表する約15分前に株価指数先物と原油先物で出来高が急増した。

 フィナンシャル・タイムズ紙は原油先物の売買額を約5億8000万ドル(約925億円)と推定している。通常の取引量の9倍だった。状況証拠を見る限り、インサイダー取引の可能性が高いと言わざるを得ない。

 トランプ・ファミリーも同じ穴の狢(むじな)のようだ。トランプ氏の娘婿でイランとの交渉役を務めるクシュナー氏のビジネスは絶好調で、ブルームバーグは24日、クシュナー氏が中東各地の政府系ファンドから集めた資金で運営する投資企業の運用資産が、昨年に30%近く増加したと報じた。

 これに対し、民主党は、クシュナー氏は中東ビジネスで利益相反行為に手を染めているのではないかとの疑念を強めている。

共和党議員からも不満の声

 このような状況が続けば、11月の中間選挙で与党・共和党が苦戦するのは必至だ。

 米民主党は24日、トランプ氏のお膝元であるフロリダ州の下院議員補欠選挙で共和党から議席を奪還した。この勝利は、全米でみられる民主党の優勢を裏付けるものとして受け止められている。

 逆風を受けた共和党議員は不満を募らせている。

 CNNは25日「下院軍事委員会で行われた国防総省のブリーフィングで、共和党の主要議員が戦争の目的や期間について疑問を呈していた」と報じた。その1人であるメイス下院議員(サウスカロライナ州選出)は、ブリーフィングを途中退席し、戦争への追加予算要求に断固反対すると怒りを露わにしている。

 トランプ氏は強気の姿勢を誇示し続けているが、膠着化した戦況を打開する意欲を急速に失っているとの指摘があり、共和党にとって由々しき事態だ。

トランプ暴走を止めるのは市場だけ

 株価が2割下がればトランプ氏は態度を改めるとの噂があるように、トランプ氏の暴走を止めるのはマーケット(金融市場)の変調しかないのが実情だ。

 市場は原油高が金融市場の混乱を増幅するリスクを注視しており、特に関心が高いのがプライベートクレジット(ノンバンク融資)の動向だ。

 この融資の大半は信用格付けの低い中小企業向けで、貸し出す際の金利は変動金利がベースだ。インフレ懸念でFRBの利下げが遅れれば、融資先の経営破綻が増加し、ファンドなどに資金を提供する金融機関の経営の打撃となる。このため、大手金融株が売られる状態が続いており、戦争が長期化すれば事態がさらに悪化するのは間違いないだろう。

 トランプ氏の火遊びが金融市場の変調で済めば良いが、市場が破綻するレベルに達すれば目も当てられない。中東戦争の長期化で金融市場の破綻が生じないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。2026年3月末日で経産省を退職。

デイリー新潮編集部