2000年以上前に鋳造された「古代の硬貨」が現代のバス運賃の支払いに使われていた

募金箱の中身や現金決済がメインの即売会の売上などをチェックしていると、まれに「なんでこんなものが?」と思うような外国の貨幣が紛れ込んでいることがあります。1950年代のイギリスでバス運賃の支払いに使われた謎の硬貨が、数十年の時を経て「2000年以上前のフェニキア人がスペインの都市で鋳造した古代の貨幣」だったことが明らかになりました。
Fare to say ancient coin has travelled through time

2,000-year-old Phoenician coin was used as bus fare in England, but 'how it got there will always be a mystery' | Live Science
https://www.livescience.com/archaeology/2-000-year-old-phoenician-coin-was-used-as-bus-fare-in-england-but-how-it-got-there-will-always-be-a-mystery
1950年代にイングランドのリーズ市交通局で出納課長を務めていたジェームズ・エドワーズ氏は、定期的にバスや路面電車の運転手から運賃を回収し、集計する仕事を行っていました。その際、売上として集計できない不適格な硬貨や偽造硬貨、外国の硬貨などを見つけると取り除いて、時々孫のピーター氏に分け与えていたとのこと。
記事作成時点で77歳のピーター氏は当時を振り返り、「祖父はイギリス製でない硬貨に出くわすと取り除いて、私が家に行った時にそのうち数枚を渡してくれたのです。当時はまだ戦後間もなかったので、兵士たちは派遣先の国から硬貨を持ち帰ったのだと思います。私たちは2人とも硬貨収集家ではありませんでしたが、その由来や絵柄に魅了されました。私にとっては宝物でした」と語っています。
それから数十年が経ち、ピーター氏は長らく由来がわからなかった1枚の奇妙な硬貨に魅了されて、その起源を解明しようと思い立ちました。熱心な調査の結果、硬貨は2000年以上前に地中海西部に勢力を広げたカルタゴの1都市・ガディル(今のカディス)で鋳造されたものであることが判明しました。
カディスはイベリア半島の南部に位置しており、紀元前12世紀にフェニキア人による西ヨーロッパ最初の植民地として建設されました。その後、紀元前3世紀にはローマとカルタゴの間で起こった第一次ポエニ戦争によりカルタゴの支配下となり、それから1世紀も経たないうちにローマに支配されたとのこと。
今回由来が明らかになった硬貨の写真が以下。硬貨は青銅製で、表面にはフェニキアの神でありカルタゴやカディスの主神だったメルカルトの顔が刻印されています。メルカルトはギリシャ神話のヘラクレスとも同一視されており、この硬貨でも神話のヘラクレスと同様にライオンの頭をかぶっています。

裏面にはタイセイヨウクロマグロと思われる2匹の魚が刻印され、カディスにおける漁業の重要性が示唆されています。

ピーター氏は硬貨の年代と重要性を認識するとリーズ博物館・美術館に連絡し、同博物館の古代通貨コレクションの一部として寄贈しました。
ピーター氏は、「この硬貨がどこから来たのかを知るのは難しく、私はいつも興味をそそられてきました。硬貨の由来を初めて知った時に考えたのは、誰もが調べられるような研究所に返したいということでした。そしてリーズ博物館・美術館が親切にも、この硬貨に良い場所を提供すると申し出てくれました」「祖父も私と同じように、このコインがリーズに戻ってきたことを誇りに思うでしょう。しかし、どのようにしてここにたどり着いたのかは永遠に謎のままです」と語っています。
リーズ市議会の成人社会福祉・活動的ライフスタイルおよび文化担当執行委員であるサルマ・アリフ氏は、「数千年前の古代文明によって生み出された小さな歴史の断片が、どういうわけかリーズにたどり着いて私たちのコレクションに加わったことは、想像するだけで驚きです。私たちのような博物館は単に物品を保存するだけでなく、このような物語を伝えることで、時には最も意外な場所に潜んでいる身近な歴史について、訪れる人々に考えさせる役割も担っているのです」と述べました。
