【山村 佳子】仕事の直後に電話でダメ出し30分…40歳夫を苦しめる「パワハラ上司」の素顔。夫が浮気に走った「切ない事情」

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「パワハラの被害者が加害者に支配されることが多いです。ハラスメントでの依頼もありますし、調査をしたことでハラスメントに気づく事例もあります」

こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。

今回の依頼者は、カード会社に勤務する43歳の由里子さん(仮名)。結婚10年、証券会社勤務している40歳の夫の浮気を疑い、私たちに連絡をしてくれた。しかし浮気を疑うようになる前から、深夜も上司から電話がかかり、仕事で追い詰められている状況がみえていたという。

転職後、異動したあとに夫が…

二人の出会いは、由里子さんが勤務する会社に、夫が新卒で入ったこと。教育係になった由里子さんは、夫に仕事を教えますが、その部署での能力が足らず、部内のいじめの標的に。しかし由里子さんは「夫には営業の才能がある」と見抜き、上司に打診。夫は営業部に異動になります。

夫は「人たらし」の能力を発揮し、29歳でトップ営業マンに。その後、現在勤務する証券会社に転職。この背景には新卒でいじめられたことに対する、心のしこりがありました。

転職先でも夫は結果を出し続けていましたが、半年前にマーケティング部に異動に。おそらく会社は夫の営業の経験が生きることを期待していたのでしょう。しかし、夫は顧客のニーズを開拓し、そこにアプローチする手法を考えるのが苦手。結果が出せない責任感と、上司からの圧力で眠りが浅くなっていきます。

実際、由里子さんが自宅でのリモート会議を見ていると、リーダーミーティングで夫は詰められていた。上司からの1対1のミーティングも増え、深夜帰宅や休日出勤などもあり、夫は疲弊していきます。

見かねた由里子さんが「会社を休んだら?」と言っていましたが、改善しない。そこで「私の収入で生活できるし、会社を辞めたら?」と伝えたのです。すると夫は激怒し、「前から性格が合わないと思っていたけれど離婚しよう」と答えます。

それに動揺して私のところに来て、夫の生活を話している過程で、夫が「パンツを自分で洗ったり、それまで使わなかったのに香水を持っている」と気づき、浮気の可能性が高いことに気づきます。そこで、「動画の撮影とセミナーがある」と言っている土曜日に調査に入ることにしました。

仕事のセミナー後にホテルにチェックイン

結婚1年目にペアローンで購入したという、大田区内のマンション前で張り込みを開始。夫は朝8時30分に出てきました。黒のコートとパンツ、背中にビジネスリュックを背負っています。背が180センチほどあり、姿勢がいいので颯爽として見えます。由里子さんは「痩せた」と言っていましたがガリガリではないので、以前はもう少しマッチョだったのかもしれません。顔色は悪いのですが、顔立ちが整っているので、疲れているのも魅力的です。知的でクールな雰囲気の由里子さんとは、お似合いの夫婦だなと思いつつ、尾行を続けます。

都心方面に向かい、貸し会議室に入っていきます。中ではセミナーの準備をしている模様です。9時になると「老後不安に備える投資セミナー」という内容の案内を張り出し、30人ほどの参加者が集まり、11時30分にイベント終了。

終了と同時に会場から出てきた夫は、ビルの外で誰かと30分ほど電話をしていました。内容は聞き取れなかったのですが表情が曇っていたので、いい内容ではないことがわかります。夫は再び貸し会議室に戻ると、荷物を持って出てきました。

そして、会議室がある最寄りの地下鉄駅の改札の外で、女性と合流。クールな雰囲気をまとっており、年齢は40代半ばといったところでしょうか。セミロングの髪はツヤツヤで、ちらっと見えたピアスとブレスレットはハイブランドの人気のデザインです。

夫は笑顔でしたが、相手を持ち上げているような雰囲気もある。女性は不機嫌な顔で、何かを夫に質問しつつ、歩き始めます。そのままホテルにチェックイン。ここのデイユースは比較的安く、浮気に使われることも多々あります。私たちも部屋を取り、客室を特定。途中ルームサービスを取りつつ、たっぷり4時間滞在していました。

ホテルで一緒に過ごした「意外な相手」

先に女性が出てきたので尾行をすると、地下鉄に乗って23区郊外の駅で下車。駅から近い建売住宅に入っていき、カジュアルな服に着替えた後に児童館に入っていき、10歳くらいの女の子と2人で帰宅します。

由里子さんに報告すると、「山村さんと話したあと、なんかそんな気がしていたんです」と落ち着いた声で話していました。追加で女性の調査の依頼もいただき調べると、女性は夫の上司で45歳、海外勤務の夫がいることも判明しました。なんと、ハラスメントをしてきた当事者と浮気をしていたのです。

これまでの調査でも、ハラスメントを受ける被害者が、続くうちに加害者と性的関係になってしまう事例が多くありました。これは健全な人間関係を基本とした愛情ではなく、極限状態の“防衛反応”。探偵の調査でこれに気づく人もいます。夫はそういう状態にあったのだろうと思います。

以上の証拠を揃えて、由里子さんはすぐに帰宅し、夫に対して証拠を見せました。そして、夫が寝てから私に電話をくれました。まず、由里子さんは「これって、あなたが望んでいるの?」と証拠を突きつけた。すると夫は「ぎゃー!」と叫んだそうです。あまりの驚きに声が出てしまったのでしょう。

そして「仕事を教わっているうちに、親密な関係になってしまった。この人から誘われて関係を持っている。ごめんなさい」と謝罪したのです。

「この人は、数年前に外資系から転職してきたマーケのプロで、たくさんの資格を持っている。異動してきた夫の教育係になったそうです。夫に“あなたの営業経験に期待している”と強いプレッシャーをかけ、出してきた企画に対してダメ出しばかり。“そんなぬるい企画では顧客の心は掴めない”などと言い、人の目の前で叱責することもあったそうです」

おそらく、ターゲットを見つけ、いじめることに喜びを見出すタイプなのでしょう。夫に夜中に電話してきて「仕事ができないのに寝てられるって、いいね」とか「そんなんじゃどこへ行っても通用しないよ」などと言う。仕事が終わるとすぐにダメ出しの嵐。あのホテルの夜もやはり、30分電話でみっちりダメ出しをしていたのだそうです。

そうかと思えば、ときどき「これはいいね」などと褒め、飴と鞭を使い分けて夫を支配していきます。こういう人は、人の心を削るように傷つけていく。完全にDVのやり方です。そして相手の自尊心を奪い、自分が操っていく。私は「夫の方はメンタルケアが必要だと思います。すぐに精神科に連れていってください」と伝えました。

主従関係になっていた

「夫はこの女性と主従関係のようになっていき、気がつけば男女の関係になっていたそうです。私は夫が新卒時に仕事を教えていたのでよく分かりますが、夫は教える人の支配欲を引き出すようなところがある。真面目で一生懸命、“自分だけ頑張ればいい”と思って何もかも引き受けて疲労する。そして、褒められたいのが透けて見えるから、ちょっかいを出したくなるというか」

夫は証拠を見て、自身が恐怖に縛られていたこと、それでも見捨てずにいた由里子さんの大切さに気づいたのでしょう。その日のうちに精神科を受診し、うつの診断書をもらい、会社を休職したそうです。それから1週間後、由里子さんから電話がかかってきました。

「本当にありがとうございました。実はあの後、浮気がどうしても許せなくて、離婚する方向で考えていたんです。でも、夫は休職してから体が動かくなってしまい、1日20時間くらい眠っているんです。食事とトイレと入浴以外、ほぼベッドから出られない。医師は、自律神経がおかしくなっていると言っていました。そんな彼を放っておけません」

パワハラ被害が心身に与える影響

パワハラの被害者が受けるストレスが、体に影響を及ぼすことは私もよく知っています。

「あの女(上司)は、減給の懲戒と部署異動の辞令が出たこともあり辞めたそうです。慰謝料を請求したかったけれど、接触するのも嫌で。子供みたいな顔で眠っている夫を看病をしているうちに、この10年間にあったいいこと、楽しかったことを思い出して、とりあえずこのままいようと思います」

これほど夫を愛する由里子さんに対し、かつて夫は「離婚する」と発言しました。おそらくこのときは、自暴自棄になっていたり、思考停止に陥っていたのでしょう。休職するのも、浮気の証拠が出なければ、踏み切れなかったと思います。それほどパワハラやアカハラの支配力は強い。「自分には価値がないから、辞めても次がない」と思い込まされてしまうからです。

おそらく、由里子さん夫婦は、これまでどおり、穏やかな日常を過ごす日々に戻っていくでしょう。今回は由里子さんというパートナーがいたことで、夫は健康を取り戻すことができるでしょう。しかしどんな人にもこういうパートナーがいるとは限りません。

そして由里子さん夫婦の会社のみならず、すべての職場でハラスメントが人の心心身に与える影響を改めて感じてほしいと思います。なんでもかんでもパワハラと訴えるのは問題ですが、ハラスメントの訴えを軽んじて対策をしない会社は、社員を大切にしていないということになります。なぜなら、ハラスメントをする側もされる側も放置していたら問題が起きるからです。困らせる人は困っている人と言いますが、ハラスメントをする人もケアが必要なことが多いのです。

調査料金は35万円(経費別)です。

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