『べらぼう』は人生に“物語”が必要な理由を教えてくれる 唐丸との別れと蔦重の新たな決意
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回。「蔦に唐丸因果の蔓」と、蔦重(横浜流星)のもとに身を寄せる謎の少年・唐丸(渡邉斗翔)の名前が掛かったタイトルに、「因果」という言葉が入っているのが気になった。すべての結果には、過去の行動が原因になっていて、そして今の決断もまた未来の結果になって自分に返ってくるということ。唐丸は「記憶がない」として過去から切り離された身だが、どうやらいよいよその過去が追いかけてきたようだ。
参考:ファーストサマーウイカ&玉置玲央が解説 『べらぼう』を楽しむ特別番組、2月11日放送
ひょうんなことから絵の才能があるとわかった唐丸に、蔦重は「当代一の絵師にする」という夢を見た。なぜ唐丸がそんな筆使いができるのか。唐丸がそれまでどこで何をしていたのかはわからない。だが、たとえどんな過去があったとしても関係ないのだ。なぜなら蔦重にとっては、目の前にいるこの健気な唐丸こそが、唐丸のすべてだと思うから。そんな蔦重の「今」にだけ見つめるスタンスは、きっと彼自身がそうして救われてきたからだ。
真実がわからない部分は、むしろ自由に想像できるチャンス。そう言わんばかりに作り話を広げていく。それは、第1回で息を引き取った遊女の朝顔(愛希れいか)が教えてくれたことでもあった。
人生は思い通りにならないことばかり。ならば、なるべく楽しいことを想像して、辛い現実から自分自身を一時的に救い出す。自分で何かを選ぶ自由などなかった朝顔なりの笑顔で日々を生きる術だった。
両親と生き別れて駿河屋(高橋克実)に拾われた蔦重が、今度は唐丸を拾う立場になった。自分が歩んできた道だからこそ、蔦重は自分がしてほしかったことをしようとしたのではないか。それは、なるべく唐丸の意志を尊重すること。「絵師にする」と言ったときも、ハッと押し付けてはいないかと気を配る瞬間があったように。
唐丸もそんな蔦重の期待に応え、新しい人生を歩もうとしていた。それは蔦重が「耕書堂」という新たな号を平賀源内(安田顕)にもらい、自分の人生にもこんな楽しいことがあったんだと目を輝かせたのと同じく、唐丸も「唐丸」という蔦重につけてもらった名前で今まで想像もしていなかった楽しい未来が待っていると心を踊らさせた。
しかし、そんな唐丸のもとに、ある男(高木勝也)が忍び寄る。その男は、唐丸が何者で、あの吉原大火の日に何をしたのか知っているとほのめかす。さらに、その事実が知られれば唐丸自身が死罪になるだけでなく、唐丸をかくまったとして蔦重たちにもあるというから穏やかではない。追い詰められた唐丸は、その男とともに川の中へと身を投げる。後日、男は水死体としてあがったが、唐丸は行方知れずに……。
唐丸が何かを抱えていることに蔦重は薄々感づいていた。しかし、そこを無理に聞き出さないところもまた、蔦重なりの気遣いのつもりだったのだ。そして、唐丸としても蔦重の日常を壊すわけにはいかないという思いから打ち明けることができなかった。そんな2人がお互いを守ろうという気持ちが生んだすれ違いに心が痛む。
唐丸は、きっと両親のもとに帰って今ごろいい暮らしをしている。そう、蔦重とともに朝顔にかわいがられた花の井(小芝風花)の想像に、観ているこちらまで少し救われる気がした。人生に物語が必要なのはこういうことなのかとも思わせられる場面だった。同時に、ふさぎ込みながらも、「いやもっと……」なんて想像が膨らむところに、蔦重の天賦の才能を感じる。
もっと面白く。もっと楽しく。ここから蔦重が江戸のメディアを変えていく、その原動力はこうして理不尽で苦しくて辛かった日々があってこそなのだろう。新参者として版元仲間に入れてもらえなかったことも、その糧のひとつ。とはいえ、まだ今の蔦重にはまだ源内のように孤軍奮闘するスキルも自信もない。そこで、鱗形屋(片岡愛之助)のお抱え改から始める決意をするのだった。
源内のぼやきもまた現代に通じるものがあって興味深い。今風に言えば脱サラ&フリーで活躍する源内は、自由を手に入れたぶん自分で動き続けなければならない厳しさを蔦重にこぼす。「自由に生きたい」とは、人間誰もが一度は願うもの。しかし、人生はそんなに単純ではない。守りたい大事なもののために人は仲間となる。しかし、そうしてつながればこそ人は縛られるし、しがらみから逃げようとすれば人は今度は孤独になる。都合のいい自由なんてない。だからこそ、その折り合いをつけながら、人は生きていくのだ。
いっそ国を開いて自由に競争をしたらいいのにと、源内と田沼意次(渡辺謙)が思いを馳せた未来に私たちはいる。誰もが職業を選択する自由を持ち、自分の人生を切り拓くことができるようになった私たちを見てなんと言うだろうか。このドラマを観て、多くの人がそう想像をした今日がまた未来を作っていくのかもしれない。
(文=佐藤結衣)
