100万ドルの輝き アストン マーティンDB5 メルセデス・ベンツ300SL フェラーリ275GTB 3台を乗り比べ 前編
価値は100万ドル(約1億3000万円)以上のことも
オランダ(ネザーランド)の沿岸、ザントフォールト・サーキットへ夕暮れが迫る。ピットレーンに停まる妖艶なスポーツカーたちが、オレンジ色に染まる。メルセデス・ベンツ300SLとフェラーリ275GTB、アストン マーティンDB5という壮観な3台だ。
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275GTBとDB5は、1960年代を代表する名車中の名車。300SLは、1950年代に誕生したガルウイングの革命児。ここへ辿り着く前に、ワインディングでも存分に楽しませていただいた。寛大な心のオーナーへ感謝しなくてはならない。

手前からメルセデス・ベンツ300SL、フェラーリ275GTB、アストン マーティンDB5
1963年にDB5が発売される遥か以前に、300SLの生産は終了していた。恐らく当時は、直接比較されることはなかっただろう。しかし半世紀以上を経て、それぞれがクルマ好きなら誰もが羨むクラシックカーとして評価を高めている。
どの1台ヘ強く惹かれるのかは、人によってわかれるだろう。だが、約10年の差があるとはいえ、価値はいずれも100万ドル(約1億3000万円)を超えることも。そのドライビング体験に、興味が湧かないわけがない。こんな機会は、一生に1度きりだろう。
筆者は数年前に、300SLと壮大なロードトリップを経験した。それが心に焼き付いているから、一番初めに運転するモデルを選ぶ時も一切の迷いはなかった。
ドライバーズシートへ座ったのは久しぶりだったが、直ぐに親しくなれた。ステアリングホイールは、記憶より大きかったけれど。直径は420mmもある。
ドイツの工業力の急速な復活を象徴
今回の300SLは1954年式で、車内空間はタイトながら居心地が良い。3台では最も全幅が広いものの、強固なチューブラー・スペースフレーム構造がボディサイドにも巡り、サイドシルが広くて高い。そのためのガルウイング・ドアだ。
運転席へ座ると、鑑賞したくなるほど美しいダッシュボードが近い距離へ迫る。VDO社のレブカウンターは、8000rpmまで振られている。許されているのは、6400rpmまでだが。クロームメッキ・リングが色っぽい。

メルセデス・ベンツ300SL(1954〜1957年/欧州仕様)
スピードメーターには、時速180マイル(289km/h)まで記されている。理論上の最高速度は、262km/hになる計算だ。
金属製の装飾パネルが、ダッシュボードの中央で左右に伸びる。ベンチレーションとヒーターのスライダー・コントロールを含む、一連のスイッチがそこに整然と並ぶ。
高い位置へ開いたドアを引き下ろし、カチリと閉める。レシプロ戦闘機のコクピットに納まったような気分になる。三角窓は、最低限の換気機能しか果たさない。すぐ暑くなる車内を想定して、サイドウインドウは取り外せ、シートの後ろにしまえる。
リアエンドの荷室は、スペアタイヤと100Lの大きな燃料タンクで占められている。専用のラゲッジセットを搭載できるコンパートメントは、必要な装備といえた。
300SLは、終戦後に果たしたドイツの工業力の急速な復活を象徴している。モータースポーツへの復帰を考えていた1950年代のメルセデス・ベンツは、1930年代のようにグラプリ・マシンを作る余裕がなかった。そこで誕生したのが、このスポーツカーだ。
燃料インジェクションを採用した3.0L直6
開発の指揮をとった技術者のルドルフ・ウーレンハウト氏は、パイプを組み合わせた軽量なスペースフレーム・シャシーを開発。滑らかなボディで覆い、大型サルーンの300S用パワートレインへ改良を加え、搭載することを決めた。
最高出力は約170psで、当時の競合モデルと比べて有利とはいえなかった。だが、優れた空力特性と信頼性が補完した。

メルセデス・ベンツ300SL(1954〜1957年/欧州仕様)
ファクトリー・レーシングカーとして完成したW194型の300SLは、1952年のル・マン24時間とカレラ・パンアメリカーナという過酷なレースで優勝。北米でメルセデス・ベンツの輸入代理店を営んでいたマックス・ホフマン氏などが、市販化を強く求めた。
その要望へ応えるように、市販モデルとして生産されたのがW198型の300SLだった。空力特性ではレーシングカーより若干劣っていたが、スタイリングは魅力を増していたといえるだろう。
技術的には、新旧が混合されている。開発予算の都合から、フロントとリアのアクスルはサルーンの300Sから流用。ギア比は異なるものの、4速マニュアル・トランスミッションも同じユニットといえた。
しかし、3.0L直列6気筒エンジンには力が注がれた。こちらも基本的には300S用がベースだが、低いボンネット内に収まるよう、傾けてシャシーへ搭載。高さを抑えるためドライサンプ化され、先進的な機械式燃料インジェクションを採用している。
1295kgと軽量なスペースフレーム構造
メルセデス・ベンツの母体となるダイムラー・ベンツは、第二次大戦時にインジェクション・エンジンで多くの経験を積んでいた。300SLでは、ボッシュ社と共同開発した新しいシステムを獲得。シリンダーヘッドも専用品が組まれた。
ウェーバー・キャブレター仕様の3.0L直6エンジンもテストされ、185psを達成していた。他方のインジェクション版では改良を重ね、240psを実現している。

メルセデス・ベンツ300SL(1954〜1957年/欧州仕様)
エンジンサウンドは、メロディアスというより勇ましい。アクセルペダルへの反応は良好。2000rpmを超えると吹け上がりが鋭くなるものの、意欲的に回転数を変化させるタイプではない。鋭敏なユニットというより、たくましい機械といった表現が似合う。
新車時に、メルセデス・ベンツが主張した0-100km/h加速は7.6秒。実際に試してみると、1度のシフトアップでその速度へ到達できる。疑いのない勢いを、今も披露する。
メルセデス・ベンツがSL、スポーツ・ライヒト(ライト)というサブネームを与えただけあって、車重は1295kgと軽い。スペースフレーム・シャシー単体の重量は82kgに留まる。対するアストン マーティンDB5は、1468kgある。
ところが、ステアリングホイールへの反応は、300SLの方が穏やか。大きなリムを回すと、フロントノーズが向きを変える前に、サスペンションがボディロールを許す。ペダルレイアウトは望ましくなく、シフトダウン時のヒール&トウは難しい。
この続きは中編にて。
