【2019年8月常磐道あおり殴打事件】宮崎元被告は、BMWで被害車両の進路を塞ぐなど、あおり運転を繰り返していた。暴行を止めない同乗女性も話題に(写真・朝日新聞)

「赤信号で停まると、私の車に近づき『外で話そうよ』と、窓をバンバン叩かれました。話が通じる気配もなく…」

 5月下旬に起きた恐怖のあおり運転被害を語るのは、埼玉県在住のA子さん(20代女性)。

 きっかけは、車線変更で加害車両の前に入ったことだ。それ以後、ぴったり後ろにくっつかれ、警察署に逃げ込む道すがらクラクションを鳴らされ続けたという。

「警察署付近にいたパトカーを見て、犯人はすぐ逃げました。それまで約30分間、追いかけまわされたんです。被害届も出せるのでしょうが、報復が怖いので断念しました」

 だが、こんな事例は今日も、日本中で発生している――。

「あおり運転という言葉自体は、2017年に東名高速で石橋和歩被告が起こした事件で注目が集まりました。

 さらに2019年、常磐道で宮崎文夫元被告が起こした殴打事件も記憶に新しい。2020年には、あおり運転を罰するための『妨害運転罪』が創設されました。

 しかし昭和のころから、“あおり運転”自体はありましたよ。暴行罪や傷害罪、器物損壊罪として検挙してきました」

 と語るのは、元徳島県警捜査一課で犯罪コメンテーターの秋山博康氏だ。

「経験上、加害車両は大型の高級車が多い。『軽自動車ごときが、なに邪魔しとんじゃ!』という発想でしょう」(同前)

 あおり運転の社会問題化にともない、秋山氏の経験を裏づける研究データが、多数発表されている。

 たとえば警察庁交通局交通指導課に所属する矢武陽子氏は、2016年から2017年にかけて危険運転致死傷罪(妨害目的)で送致された交通事故例を調べている。

 関連画像の表のように、加害車両は車両価格が500万円を超える高級車が圧倒的に多く、対照的に被害車両は同500万円未満が7割以上を占めている。

 つまり安い車ほどあおられやすく、高い車ほどあおっているといえるのだ。

 また単純な被害者数でいえば40代が最多で、加害者は30代が多いが、年代別の免許保有者数に占める割合で見ると、加害者は若い傾向にあるという。

 さらに、あおり運転には「車の色も関係します」と語るのは、交通心理学を研究する九州大学の志堂寺和則教授だ。

【2017年6月東名あおり運転夫婦死亡事故】石橋和歩被告が高速道路で被害車両を停止させた結果、トラックが追突した(写真・共同通信)

「チューリッヒ保険の調査によると、被害に遭う車は圧倒的に白系が多いんです。ホワイト(26.3%)とシルバー(25.8%)が合わせて半数以上です。

 一方、加害車両の色はブラックが27.8%で最多でした。また、被害に遭う車の種類は軽自動車が最多(28.8%)でした。私はこれを『ドレス効果』だと考えています。たとえば、スーツを着ればしゃんとするように、人は服装によって気分も振舞いも変わるんです。これが、車の場合にもいえます。

 価格や色からして、“強そう”な車は“強そう”に振る舞うし、“弱そう”な車は狙われやすいんです」

 だが、高級車だからといって安心もできない。

 論文「あおり運転に関する研究の概観と抑止策の提案」を執筆した大阪大学大学院の中井宏准教授はこう語る。

「75名のドライバーに、先行車が信号が赤から青に変わっても発進しない場面の動画を見てもらいました。

 すると、スポーツタイプであるトヨタの86やカワサキのバイクER-4nへの怒りが、軽自動車であるホンダのN-BOXに対してよりも高かったのです。

 初心者マークをつけたトヨタのクラウンは、スバルの軽自動車と比べてクラクションを鳴らされやすいという、別の研究者による実験結果も踏まえると、車両や運転者を見て抱くイメージと、実際の挙動が大きく乖離すると、後続車は強く怒りを感じる可能性があります」

 つまり“運転がうまそう”なのにもたついていると、あおられる可能性が高いのだ。また、中井准教授の研究では意外な結果も出た。

「軽トラックのスズキ・キャリイについては、75名中71名が運転手を高齢者だと推測していました。高齢者に寛容なのか、キャリイは怒りを喚起させにくく、クラクションも鳴らされにくいという結果になりました」

 とはいえ、あおられないためだけに軽トラに買い替えるわけにもいかない。どんな対策があるのだろうか。

「安全運転は当然ですが、前後左右を撮れるドラレコは必須です。そして、あおられた場合は安全な場所に停めて、110番することです。『弱い犬ほどよく吠える』といいますが、私が見てきた加害者は、留置場に入るとしょげている人ばかり。一般人が虚勢を張っているだけなんです。間違っても、カッとなってやり返さないことですよ」(秋山氏)

 自分の車の“あおられ度”を把握したうえで、安全運転を心がけよう。