新型「iPad Air」の進化に見る「ノートPCとの融合」の現在地
アップルがタッチ式ディスプレイを搭載した「MacBook」を発売することはあるのだろうか。たぶんないだろう。だが、アップルはタッチ式ディスプレイを搭載したMacBookに非常によく似たデヴァイスの出荷を3月18日に開始する。
「新型「iPad Air」の進化に見る「ノートPCとの融合」の現在地」の写真・リンク付きの記事はこちら誤解のないように言えば、アップルは3月8日(米国時間)にオンライン開催された新製品発表会で、新型MacBookを披露していない。それでも、極めて“コンピューター”のように感じられるタブレット端末は披露している(そもそもコンピューターとは?と疑問に思われるだろうが、これについては改めて説明したい)。
アップルが発表した製品は「iPad Air」の第5世代となる2022年モデルだ。5G接続、超広角カメラ、USB-Cポートなど、その機能のいくつかは時代に合わせてアップデートされている。
とはいえ、この製品をより“Macらしく”している点は、その心臓部にある新しくなったチップだろう。今回のモデルチェンジの目玉は、2020年モデルの「MacBook Air」や「MacBook Pro」、2021年モデルの「iMac」や「iPad Pro」と同じアップル製のプロセッサー「M1」チップだ。
アップルは、すでにラインナップの上位モデルには独自チップ「M1 Max」と「M1 Ultra」を搭載している。その点から考えれば、M1はアップルの「高速」の基準からすれば古びているのかもしれない。それでも最もベーシックなiPadより常に高価であり、最もパワーのあるiPadほどのパワーはない「中間」に位置するデヴァイスであるiPad AirにM1が搭載されたことは、アップルのタブレット端末がまたひとつ「PC」の地位に昇格したことを意味する。
次なるディスラプションの可能性
アップルのモバイルOSの端末とMacBookが何らかのかたちで統合される可能性については、テクノロジー製品の評論家も消費者も何年も前から考えてきた。しかし、それはまだ現実のものとはなっていない。
ハードウェアの観点から見れば、たとえタブレット端末にキーボードが付属していたとしても、本格的なキーボードを備えたノートPCはタブレット端末にはない実用性をもたらしてくれる。そしてアップルは、ノートPCにタッチ式ディスプレイを搭載するアイデアを一貫して否定してきた。
アップルのソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長のクレイグ・フェデリギは18年の『WIRED』US版のインタビューで、「腕を持ち上げて画面を突っつくのは、かなり疲れる動作ですよね」と語っている。つまり、タッチ式ディスプレイを搭載したノートPCは(Windowsのタッチ式ディスプレイ搭載ノートPCが何百万台も売れているにもかかわらず)よくないということなのだ。
CCS Insightのチーフアナリストのベン・ウッドによると、MacBookとiPadの間にはまだ大きな隔たりがある。だが、両製品は進化し続けるにつれ、より接近していく可能性があるという。
「(MacBookに)明らかに欠けているものは、やはりタッチ式のディスプレイと携帯電話の通信網への接続機能です」と、ウッドは言う。「これがいつ、どのように変わるのか興味があります。アップルがMacBookシリーズを5G対応にできたとき、次のディスラプション(創造的破壊)が訪れるかもしれません」

PHOTOGRAPH: APPLE
進むシームレスな融合
アップルのソフトウェア戦略を見ると、同社がモバイルとデスクトップのプラットフォームをさほど変わらないものとして捉えていることがわかる。
アップルは数年前、開発者がiPhoneやMacといった単体のプラットフォームだけでなく、アップルのエコシステム全体のためのアプリの構築を検討できるように「Mac Catalyst」というプロジェクトを立ち上げている。これにより開発者は、iOSやiPadOS、そしてmacOSに容易に移植できるひとつのアプリを構築可能になり、モバイルとデスクトップ環境が実質的に統合する方向へと促された。
一方で、iOS、iPadOS、macOSは同じソフトウェアカーネルを共有しているとはいえ、ユーザーインターフェイスは依然として明確に異なっている。iPadにはアプリを起動するための「ドック」がMacと同じように画面下部にあるかもしれないが、いわゆる「デスクトップ」はない。
また、iPadのホーム画面はいまだ強固に管理されている。ホーム画面にファイルをローカル保存したり、アプリのウィンドウを簡単に操作したりできないことは、iPadとほかのノートPCやデスクトップとの間に横たわる苛立たしい違いのひとつだ。
アップルの独自チップは、いまのところiPadとMacの融合が最もシームレスである部分だろう。アップルのエンジニアたちは、このチップこそが競合するあらゆるノートPCに対するiPadの強みだと考えている。

Apple-iPad-Air
iPadシリーズには使い勝手に優れる外付けキーボードも用意されている。PHOTOGRAPH: APPLE
アップルのiPadエンジニアリング・プログラム・マネジャーのアンジェリーナ・キヤジケは8日のプレゼンテーションで、これは「スーパーチャージされた」タブレット端末だと語っている。細かくメモをとる大学生や動画をつなぎ合わせるコンテンツ制作者、ゲーマーのためのデヴァイスだというのだ。
もちろん、2020年モデルのiPad Airよりはるかに高速である。だが、「この価格帯で最も売れているWindowsのノートPCよりも2倍速い」性能でもあり、しかもノートPCはiPadよりずっと分厚くて重いのだと、キヤジケは言う。
語られ始めた「新たなストーリー」
アップルはこのiPad Airを売り込むにあたり、不信感をひとまず脇へ置いて、高性能なノートPCができることの多くをこの599ドル(日本では74,800円)のタブレット端末が実行できるという説明を受け入れるよう、消費者に求めている。
だが、それが事実でないことを、わたしたちは知っている。iPadOSのソフトウェアには欠点があるし、タブレット端末のデザインも制限を伴うからだ。
とはいえ、新たに搭載されたチップは、また別のストーリーを語っているのかもしれない。それはタブレット端末と信頼できるノートPCが実際にひとつのものになりつつあるというストーリーだ。
(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)
※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら。
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