SixTONES

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■歌声を聴くと「こうすればもっと上手くなるのに」と、勝手に考えてしまう

職業柄、プロ・アマ問わず歌声を聴いているとどうしても「ここをこう直せばより上手くなりそう」と、頭の中で勝手に解決法を浮かべてしまう癖がついている。気になるポイントが多くなればなるほど、本来味わうべきメロディーや歌詞の良さに気づく前に歌が終わっている……ということがよくある。

正直にいえば、ジャニーズアイドルというカテゴリではそうした経験がままあった。

個人的には、「アイドル」が完璧に歌を歌える必要はないと思っている。綺麗な顔立ちのメンバーが集まって踊り、そして歌う。キャラクターのアドバンテージもあるのだから、少しばかり歌声に難があってもパフォーマンスとしては充分に成り立つからだ。

たしかに、年間オリコンランキングの上位をアイドルの楽曲ばかりが席巻する現状には一抹の寂しさもおぼえる。しかし裏を返せば、本物の歌唱力を持つアイドルが現れたとなれば、アイドルファンだけではなく、日本の音楽を愛するより多くの人々を魅了できる可能性も大いにあるということだ。

■バイリンガルのジェシーの歌声の「響き」が良い理由とは?

2020年12月、テレビの歌番組から聞こえてきた歌声に耳を奪われた。

少し聴いただけで、たくさんの空気がまっすぐ鼻腔に届いているのがわかった。芯のある太い声でありながら、高い音に行けば透明感抜群でブレることなく伸びていくロングトーン。さらに、音の切り際には柔らかなビブラートまで丁寧についていた。

歌っていたのは、京本大我。ジャニーズアイドルグループ「SixTONES」のメンバーだった。

京本の歌声に興味を持ち、初めてSixTONESの音源をじっくり聴いてみて、さらに衝撃を受けたのがジェシーの歌声だった。

メロディーは音程のど真ん中を、磁石のようにきっちりと引きつけて捕らえる。時にやさしくささやくような、時にワイルドに吠えるような、歌い回しの引き出しも豊富だ。さらに歌い出しに効かせるエッジ(声帯を閉じて発声したときに出るざらつきのある声)、スムーズなフェイク(原曲のメロディーやリズムを少し変える、間奏部分などで即興的に歌うこと)も、非常にこなれた印象を与える。

これらを下支えしているのが、低音高音かかわらずつねに安定した、声自体の「響き」のよさだ。ジェシーはアメリカ人の父と日本人の母を持つバイリンガル。英語には日本語にはない、鼻の奥に音を響かせる独特の発音があるのだが、これが歌声にもはっきりと出ており、深く甘い、楽曲の「高級感」を向上させるような豊かな響きをつくり出しているのだ。

■MISIA“Everything”の最高音よりさらに半音高い「ファ」を伸びやかに奏でる京本大我

1月5日に発売される『CITY』は、SixTONESにとって2枚目のアルバムとなる。いくつかのインスト楽曲を「Interlude(幕間)」として挟みながら、朝から夜までの1日の流れをイメージしたアルバム全体の構成。そして、メロディー、歌詞をたどるだけではなく、それぞれの楽曲の主人公を演じるように丁寧に奏でる表現力は、前作『1ST』からの大きな成長を感じさせる。

“マスカラ”は、2019年2月に“白日”を発表し日本の音楽シーンに大きな衝撃を与えたKing Gnuの常田大希が書き下ろした1曲。

フレーズの頭に休符を多用する独特なリズム、上下に忙しく動くメロディー……非常に難易度の高い楽曲ではあるが、6人それぞれが、難解なパズルを楽しみながら完成させてしまう子どものような好奇心を持って見事に自分たちの懐に入れ、歌いこなしている。

新曲の“Rosy”は、2022年1月公開の映画『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』日本語吹き替え版の主題歌。歌詞を見ながらでも追いかけるのが大変なほど、疾走感あふれるメロディーのなかであっても、隙あらば……とフレーズ終わりに余裕綽々のフォール(伸ばす音のなかで、音程を徐々に下降させる)を入れるジェシーの歌唱力には、やはり驚かされる。