新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受け、各国で「在宅勤務」が急速に推し進められました。そんな在宅勤務が生産性に与えた影響について、オーストラリアの著名な経済学者ジョン・クイギン教授が解説しています。

Have we just stumbled on the biggest productivity increase of the century?

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日本の総務省統計局が5年ごとに実施している「社会生活基本調査」の平成28年度の結果によると、通勤・通学時間の平均は1時間19分(片道39.5分)です。なお、海外でも平均的な通勤時間はおおよそ1時間ほどで、「日本が通勤時間が特に長い」というわけではありません。物理学者のチェザーレ・マルケッティの発見によると、新石器時代以来、人の通勤時間は1時間からほとんど変化していないとのこと。



しかし、2020年に生じた「COVID-19パンデミック」によって各国政府は在宅勤務を推奨したため、一部のデスクワークは「通勤時間ゼロ」になりました。通勤時間がゼロになれば、これまで通勤に費やしていた1時間が浮く計算です。しかし、ハーバード大学とニューヨーク大学の共同調査によって、「通勤時間が丸々浮く」というのは机上の空論に過ぎないことが判明しています。

2020年7月にハーバード大学とニューヨーク大学が実施した共同調査は、労働者約314万人のデジタルコミュニケーションを解析して、各労働者が送受信したメールなどから、出席した会議の時間や労働時間などを推計するというもの。この調査の結果、パンデミック以前と比較して会議時間は11.5%減少したことが判明。人々の「会議離れ」が進んでいることがわかりました。しかし一方で、平均勤務時間は1日あたり48.5分も増加していました。

自宅勤務による通勤時間の減少を勘定に入れても、自由時間はわずか11.5分しか増えていない計算です。しかし、クイギン教授は「在宅勤務中に家事を行っている人も多い」と指摘。目に見える自由時間の増加以上に、実際の自由時間の増加幅は大きいと説明しています。

また、クイギン教授は在宅勤務には自由時間のメリットの他にも、通勤に掛かる費用や通勤や仕事の準備に費やす時間を削減できると主張。そうした一連のメリットを合算すると、「一般的に在宅勤務が純粋な利益をもたらすというのは明白」と語っています。



一方で、クイギン教授は在宅勤務のデメリットについても言及しています。クイギン教授が言及したデメリットの1つは、社会的接触の不足です。職場でのコミュニケーションが良い刺激になっていたという人は、在宅勤務によってストレスを抱え込む可能性があります。また、アイデアを出すために同僚とおしゃべりすることを好むという人は、メールやチャットなどに移行したことで、雑談不足に陥ってしまいます。

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さらに、在宅勤務は中間管理職にとってもデメリットがあります。パンデミック以前では、管理者は労働者を実際に目で見て監督することができました。しかし、在宅勤務に移行した場合、コンピューター上の動作などから勤務状況を推し量ることしかできません。こうした状況について、クイギン教授は「コンピューター上の動作などから勤務状況を推し量ろうとしてもごまかされる可能性がある」と指摘しています。

また、クイギン教授は在宅勤務が引き起こす不平等についても言及しています。COVID-19パンデミックにより在宅勤務の必要性が叫ばれましたが、シカゴ大学の調査によると、在宅勤務が可能な仕事は全体の34%に過ぎないことがわかっています。ブルーカラーの仕事などは、在宅勤務が不可能であり、在宅勤務が一部の仕事の生産性を向上させるとしても、その影響をコミュニティ全体で共有することはできません。

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こうした現状について、クイギン教授は「政府による介入が必要」と主張。パンデミックによる失業者が増える中で失業手当を引き下げると、自殺率やその他の社会的苦痛による問題が急増してしまうと指摘し、失業手当の引き下げを見送り、幅広い職種に対して公的資金を注入して雇用自体を増やすべきだと論じました。