婚活サイトで見つけた相性のよさそうな女性にメッセージを送信し、デートすることに(※写真はイメージ)

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 57歳で結婚願望が強くなっていったフリーランスの記者、石神賢介氏。婚活サイトで見つけた相性のよさそうな女性にメッセージを送信。デートすることになった。ところが、後日相手から投げつけられたのは酷いののしりだった……。

(文中の紹介文、登場人物はプライバシー保護の観点から一部を変更してあります)

女性へのメッセージ文

 さあ、いよいよ申し込みだ。

 とりあえず、婚活サイトの画面の最初のページにアップされているなかから5人にメッセージを送ることにした。その反応を見て、方向性やメッセージの文面を修正すればいい。

 メッセージの文章は基本形をつくって、それをもとに相手によってアレンジすることにした。

 具体的には次のような文面を考えた。

婚活サイトで見つけた相性のよさそうな女性にメッセージを送信し、デートすることに(※写真はイメージ)

「はじめまして。

 真剣に出会いを求めています。

 〇〇さんのプロフィールとお写真を拝見して、知性、品のよさ、清潔さを感じました。お話するチャンスをいただけないでしょうか。

 僕には一度、結婚・離婚経験があります。パートナーとは、いいことも、苦しいときも、なんでも話し合える関係を築きたいと思っています。

 仕事はフリーランスの記者です。エンタテインメント系の取材記事やコラムが主です。

 ご検討、よろしくお願いします」

 プロフィール文と同様、長すぎず、短すぎず、頻繁に改行をして、読みやすさを心がけた。遊び相手ではなく真剣にパートナーを求めていることも示し、相手のどこに魅力を感じたかも明記した。

「とりあえずホテルに」と彼女は言った。抱腹絶倒の体験ルポ。【超実用的婚活マニュアル付き】『婚活したらすごかった』石神賢介[著]新潮社

 顔が好きだったとしても「知性」「品のよさ」「清潔さ」に魅かれたと書くべきだ。

 そして、どんな女性を求めているか、どんな関係を築きたいか、自分の仕事を明確にした。さらに、趣味が近い女性や、相手の仕事に興味を覚えたら、そのことを書き加えた。

「クソ老人!」とののしられる

「連絡すんなって書いてあんの読めないのかよ。老眼鏡つけとけよ。てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」

 朝起きたらLINEに強烈なメッセージが届いていた。

 あまりの内容に冗談かと思った。僕は生まれてから57年間、「てめー」とか「クソ老人」とか、言われたことはない。使ったこともない。眠い目をこすってもう一度スマホの画面を確認する。間違いない。ののしるコメントが届いていた。

 このメッセージを僕に送ってきたのは、婚活サイトで最初にマッチング(申し込みに相手が応じるケース)したマリナさん(仮名)である。サイトに登録した夜、5人の女性にメッセージを送信した。そのなかで1人だけレスポンスをくれたのが40歳で、1度離婚歴のある銀行員、マリナさんだった。

 彼女にメッセージを送ったのは、まず、顔が好みだったということ。そして、好きな映画が同じだったからだ。プロフィールには、ロベール・アンリコ監督のフランス映画、「冒険者たち」が好きだと書かれていた。彼女が生まれる前、1967年の作品。僕もリアルタイムでは観ていない。

 真っ青なコンゴの海にジョアンナ・シムカスが沈んでいく水葬のシーンに僕は胸を打たれた。陽の光で輝くジョアンナがあまりにも美しかったのだ。15歳で初めてこの映画を観たとき、人は悲しい時だけではなく、美しいものを見た時も泣くのだと知った。

 そのことを書いてメッセージを送ると、すぐにレスポンスが届いた。映画の話題で3往復やり取りすると、「会いましょうよ」と言ってくれた。自宅のパソコンの前で、僕はガッツポーズをした。ビギナーズラックだと思った。

 待ち合わせは、表参道駅近く。青山通りから路地を一本入ったビルのカフェレストラン。実物のマリナさんもきれいな女性だった。かつては地方のテレビ局でレポーターの仕事もしていたという。

 食事中はおたがい好きな映画の好きなシーンを挙げた。「冒険者たち」については、マリナさんは僕とまったく違うシーンが好きだと言った。彼女は、セルジュ・レジアニがクルマの中でニードルガン(弾丸ではなく金属製の針を矢のようにして撃つ銃)で拷問されるシーンに興奮するそうだ。「冒険者」をそんなふうに観る人がいるとは。驚いた。しかし、そのときは新鮮に感じた。

 彼女が離婚した理由についてはたずねなかった。初対面で相手のデリケートな過去に踏み込むのは危険だ。

 意気投合した、と僕は思った。というのも、LINEのIDを交換し、R&B系の来日アーティストのライヴを観る約束をして帰路に着いたからだ。しかし、僕の大きな勘違いだった。彼女は僕にいい印象を持たなかったのだ。

 約束したライヴの日程が近づき、LINEで連絡をしても、レスポンスがない。高価なチケットを用意していたこともあり、不安になった僕は2度、3度、連絡をした。すると、3度目でようやく、深夜に連絡が来た。

「しつこいです。もう連絡しないでください。無理です」

 しつこかったか? そうとも思えなかったけれど、嫌われたことは間違いない。小心者の僕は即引くことにした。

「失礼しました。もう連絡はさしあげません」

 LINEを送信して、就寝した。

 翌朝起床すると「連絡すんなって書いてあんの読めないのかよ。老眼鏡つけとけよ。てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」というメッセージが届いていたのだ。「失礼しました。もう連絡はさしあげません」というわびのLINEすら腹立たしかったらしい。ここまで言うということは、僕を断りたいだけでなく、痛めつけたいということだ。ひどく傷ついた。

 食事をしたときに、おそらく無意識のうちに何か僕に失言があったのだろう。しかし、心当たりはない。気分を害するポイントは、世代によっても違いがあるものだ。

 年配の男が自分よりも若い世代の女性にアプローチするときには痛みを覚悟しなくてはいけない。歳の差婚は、郷ひろみや加藤茶など、経済力のある男性の特権だ。概して女は男に経済力を求める。男は女に若さと美しさを求める。その現実を自分に強く言い聞かせなくてはいけない。

高級レストランを次々とリクエストされる

 次にマッチングしたのは、45歳で外資系のコンサルティング会社に勤めるレイコさん(仮名)。プロフィールに掲載されていた写真があまりにもきれいだったのでダメモトでメッセージを送ったら、レスポンスをくれたのだ。

「マッチング、ありがとうございます。とてもうれしいです! このサイトでメッセージを重ねて、できればお目にかかってお話したいです。よろしくお願いします」

 さっそくお礼のメッセージを送った。

 しかし、マッチングしたものの、レイコさんから連絡は来ない。翌日も、その翌日もレスポンスはなかった。

 レイコさんから連絡が来たのはメッセージを送ってから1週間後。マッチングしたことを忘れかけたころだった。

「レイコです。仕事が忙しくてなかなかご連絡できず、すみませんでした。いろいろお話できたらと思っています」

 ほっとした。そして、うれしかった。

「憶えていていただいてよかったです。よろしくお願いします」

 すぐにメッセージを返した。

「よかったら、一度お会いしませんか?」

 翌日またメッセージをもらい、また一人でパソコンの画面に向かいガッツポーズをした。

「ぜひ!」

 承諾の返事をした。しかし、すぐにレイコさんとは価値観が違うことがわかった。

「今週末、リッツのアジュールでお食事、いかがでしょう?」

 えっ、リッツのアジュール? レイコさんから提案された店がどこなのか、すぐにはわからなかった。あわててパソコンで検索すると、六本木にあるラグジュアリーホテル、リッツ・カールトン東京のなかのフレンチ・レストラン、アジュール フォーティファイブだった。初対面でリッツのフレンチ? どう対応していいか迷った。しかし、せこいプライドがじゃまをして、断れなかった。それに、会いたい気持ちのほうが勝った。

「わかりました。予約しますね。楽しみです」

 ああ、なんとバカなオレ……そう思いながらもリッツに電話をかける。すると、幸運にも満席だった。

「満席でした。残念です」

 レイコさんに連絡をする。「残念」はもちろん本心ではない。

「じゃあ、パーク ハイアットのニューヨーク グリルにしましょう」

 すぐにレイコさんは次の提案をしてきた。やはりラグジュアリーホテルである。

 それはつまり、僕にはさほど興味はないけれど、高価な食事をご馳走してくれるなら会ってあげてもいいわ、ということだろうか。あるいは、ラグジュアリークラスのレストランにしか入りたくないのだろうか。

 その希望も僕は断れず、新宿のパーク ハイアット 東京最上階のレストラン、ニューヨーク グリルに電話をかけた。すると、ここも満席。ほっとした。

 しかし、さらに提案があり、六本木のグランド ハイアット 東京のステーキハウス、オーク ドアで待ち合わせた。

 目の前でシャンパンのグラスを重ねフィレステーキを頬張るレイコさんは、45歳には見えなかった。実年齢を知らなければ、30代前半と言われても信じただろう。彼女の容姿に目がくらんだ僕は、何を言われても同意してしまう。彼女はどんどん饒舌になっていく。ああ、やっぱりバカなオレ……。ここでも、自分で自分にがっかりさせられる。

「私、婚活しなくても、男性との出会いはあるんです」

 自信たっぷりのレイコさん。

「そうでしょうね」

 ニコニコと同意する僕。

 食事中、彼女はときどき席を立つ。トイレにしては回数が多い。3回目の離席のとき、その目的がわかった。ルイ・ヴィトンのバッグから、ちらりと電子タバコがのぞいた。

「私のまわりの男性は既婚者がほとんどで。シングルもいるにはいるんですけれど、頭が悪い人ばかりなんです」

 レイコさんは、自分は頭がよく、まわりはバカ、というスタンスで話し続ける。

 彼女には婚歴はない。容姿に恵まれて、英語が話せて外資系企業で高給を得ていて、しかし45歳美形女性がシングルでいる理由がわかった。彼女との2時間半の食事代は、シャンパンやワインと合わせて5万円を超えた。勉強代と思うしかないだろう。

 レイコさんと同じ家で暮らすことを想像すると、ぞっとした。僕に意識の低い言動があったり、怠惰な一日を過ごしたりしたら、彼女は許さないだろう。

 ポリシーとしてシングルを貫いているケースは別として、僕も含め、年齢を重ねてもシングルなのは、シングルである理由がある場合が多い。年齢だったり、経済状況だったり、性格だったり、理由はさまざまだ。

 婚活サイトのスタート時点では、貴重な体験をさせてもらえた。しかし、1つの婚活ツールだけでは限界がある。より前向きに婚活を行うには、可能性を高めるには、結婚相談所や婚活パーティも活用するべきだと思った。(続く)

石神賢介(イシガミ・ケンスケ)
1962(昭和37)年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターになる。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。30代のときに一度結婚したが離婚。

2020年7月4日 掲載