集団感染が発生した韓国のクラブ(写真/GettyImages)

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 各地で緊急事態が解除され、街は賑わいを取り戻しつつある。しかし、ウイルスの脅威が完全に過ぎ去ったわけではない。これからやって来る「第二波」に備えてすべき対策は何か──それを考えるうえで“解除先進国”の成功と失敗を冷静に分析する必要がある。

【画像】武漢では全市民にPCR検査を実施

◆社会的距離は「2歩」?

 長かった外出自粛生活に徐々に“出口”が見え始めている。それは明るいニュースだが、一方で懸念されるのは解除による「第二波」襲来の危険性だ。

 1918年に流行したスペイン風邪では、春に発生した第一波は軽症者が多かったが、秋に始まった第二波で多くの死者を出した。翌年春の「第三波」も含めて、結果的に全世界で2500万人を死に至らしめた。感染症を専門とする関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)が言う。

「人の動きが戻れば、感染者が再び増加することは十分考えられます。新型コロナウイルスとの戦いは長丁場になります。もし今後、第二波の兆候が見られた場合は、再び規制レベルを引き上げる必要があるでしょう。その基準をどうするかは非常に難しいが、参考になるのがすでに規制を緩めている世界各国の状況です。他国での感染者増減を詳しく分析し、日本での対策に役立てていく必要があります」

 すでに「第二波」の流行に直面しているのが韓国だ。

 徹底した検査体制の充実で第一波の抑え込みに成功した韓国だったが、5月6日の規制緩和に前後してソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)のクラブでクラスター(集団感染)が発生。

 感染はクラブの客ではない人々にも広がり、4次感染まで確認された。16日現在、クラブに関連すると見られる感染者は200人近くに及んでいる。韓国在住のジャーナリスト・藤原修平氏が指摘する。

「韓国政府は行動制限の解除を3段階に分けて実施しました。4月中旬までは最警戒の『外出規制』とし、4月20日からは『2メートルの社会的距離の確保』の段階に移行。このタイミングで、ナイトクラブが条件付きで営業できるようになり、6割以上が営業を再開した。

 若者が集まる韓国のクラブやカラオケは地下にある場合が多く、換気が悪い。“基準をゆるめすぎでは”との指摘も少なくなかったが、5月6日にはさらに緩和されて『2歩分の社会的距離を取る』というさらにゆるやかな規制となった。

 まさに人々の警戒が緩んでしまったタイミングで起きたのが、クラブでのクラスターでした。国民の心配が現実のものとなったのです」

 さらに利用者約5500人のうち2000人ほどが虚偽の連絡先を記入していたため、その後の感染経路を追えない状況となってしまったという。結果、当初は13日から予定されていた学校再開も延期。政府はクラブ利用客全員にPCR検査を義務づけたが、時すでに遅しだった。

◆感染自治体のトップをクビに

 韓国と対照的なスタイルで第二波拡大を封じ込めているのが中国だ。5月7日、吉林省で女性1人の感染が確認されたが、感染者拡大はその家族や知人など20人ほどに抑え込んだ。

 9日にはコロナウイルスの“震源”となった湖北省武漢で89歳の男性と、その家族の計6人の感染が確認された。4月8日にロックダウン(都市封鎖)が解除されてから初となる感染者に不安は高まったが、ただちに全市民1100万人を対象とするPCR検査の実施を決定した。6月3日に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)を上梓するジャーナリスト・浦上早苗氏が言う。

「中国ではクラスターが発生するたび『検査、隔離』を徹底的に行なっています。武漢ではPCR検査に加え、市内の住宅街から離れるときは許可証の携帯など一定の規制・条件を残している。吉林省でも居住者以外の出入りを禁止するなどの措置をとりました。強権的に感染者数の増加をコントロールし、第二波を抑え込もうとしています」

 浦上氏は、日中の感染予防対策は「個人情報の取り扱い方に大きな違いがある」と指摘する。

「中国政府は感染拡大当初から、GPSの位置情報で人民の行動を徹底して把握しています。上司・部下、彼氏・彼女にいたるまで誰と誰が接触したのか、行動履歴を把握して個人情報が可視化されている。人権意識の高い日本では同様のことはできないが、中国では感染に対する恐怖から、感染者の情報を積極的に公表しないほうが非難される傾向にある」(浦上氏)

 他にも、ドローン監視でマスクの着脱を警告するなど、中国では各国に比べて厳しい管理体制を敷いてきた。4月以降は武漢、吉林省など感染者を出した地域のトップを更迭している。

「武漢市で感染した男性の集合住宅がある共産党地区委員の責任者や、感染が相次いで発覚した吉林省舒蘭市の党委書記が、対策不徹底を理由に更迭されました。中国では海外からの帰国者に対して引き続き2週間の隔離措置を命じていますが、隔離を適切に実施しなかったハルピン市の衛生当局幹部も更迭されています」(同前)

 民主国家なら“やりすぎ”とさえ思える強権発動でウイルスを封じ込めるのが、中国のやり方のようだ。

◆密集場所に「QRコード」を

 中国と韓国、2つの隣国の事例から日本が学べることは何か。ひとつは「感染者追跡」の手法だ。前出・勝田教授が言う。

「韓国が行なった段階的な規制解除は日本にも大いに参考になりますが、クラブ利用客の個人情報の虚偽記載により感染経路を追い切れませんでした。

 一方、中国のようなやり方は感染拡大防止には有効ですが、個人情報保護法などのある日本の法制度には馴染みません。日本は解除に向け、人権に配慮しながら感染経路をチェックできるシステムを構築すべきです。

 たとえば大阪府の吉村洋文知事が発表した、2次元コード(QRコード)を使った追跡システムは有効ではないか。府が発行したQRコードをイベントや集客施設の入り口に置いて、参加者はそれを読み込む。その会場や施設で感染者が発生した場合、メールで一斉に通知されるというシステムです。使えるべき技術や工夫は取り入れていくべきです」

 また、利用者が密集する場所はいっそうの注意が必要だ。韓国防疫当局によればクラスター発生時のクラブ利用客にはマスクをしていない若者も多かったという。

「たとえば映画館なら、3Dメガネのようにフェイスシールドを配るだけでも一定の効果が得られる。解除にあたってはそういった設備の拡充も求められる」(同前)

 さらに勝田教授は「日本にも(米国のように)疾病対策センター(CDC)の設置を」と訴える。

「現在の日本では、厚労省の結核感染症課が新型コロナ対策を仕切っています。しかし厚労省では3年を目安に人事異動があるため専門知識が蓄積されず、新型コロナ対策の初動対応にあたった職員が、第二波では別の部署にいることも起こり得ます。さらに厚労相とコロナ担当相に権限が二分されているのも、対応の遅れにつながる恐れがあります。専門家による集合知が正常に機能するためにも、日本でもアメリカや中国のようにCDCが設置されることが望ましい」

 規制を緩和すれば感染者は増える。増えれば再び警戒を強めることで感染予防と経済の折り合いをつけ続けていくほかないのが現実だ。

 主要国の中で日本は緊急事態宣言の解除が最も遅れてしまったが、見方を変えれば「他国の対策の善し悪しを分析する機会」を得たともいえるだろう。その利点を活かせるかが、第二波を食い止める鍵となる。

※週刊ポスト2020年6月5日号