世界を変える量子コンピューター! 現在のコンピューターとはどこが違う? 常識を覆す仕組みと課題

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●NEDOがアニール型量子コンピューターを展示
幕張メッセにて開催された「CEATEC 2019」にて、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は量子アニーリングマシンの展示を行いました。

量子アニーリングマシンとは、一般的に「量子コンピューター」と呼ばれているものの一種です。

量子コンピューターと言えば、先日Googleが量子コンピューターを用いて、
通常のコンピューター(以下、ノイマン型コンピューター)であれば1万年かかる問題を3分20秒で計算したと発表し、話題となりました。

Googleが用いた量子コンピューターは、「ゲート型」と呼ばれる汎用性の高い方式を採用したものです。
一方、NEDOが展示したのは「アニール型」と呼ばれる方式を組合せることで最適化問題などを解くのに特化したものです。


展示機は実機を模したモックアップ

「組合せ最適化問題」とは、
・一定の予算で何を購入するのか
・訪問先の最適な巡回ルートはどれか
・アルバイトのシフト予定をどう組めばよいか
こういった、複数の要素の組み合わせから最も効率の良い組み合わせを探すものです。

計算する要素が数個程度であれば、人が計算してもそれほど時間はかかりません。
しかし、組み合わせ計算はべき乗で計算されます。
つまり、母数となる要素が増えるほどに、その計算量は指数対数的に増えていくのです。

これをノイマン型コンピューターで計算すると、その計算時間やコスト、電力消費量も指数対数的に増えてしまいます。
そして一定数を超えると計算に数千年や数万年といった時間が必要になり、事実上計算が不可能になってしまいます。

それを量子コンピューターは、短時間で非常に効率よく計算することができるのです。


ノイマン型コンピューターではコストや時間的に難しい計算を行うことが量子コンピューターに求められる


●電力効率が非常に高い量子コンピューター
NEDOの量子アニーリングマシンは、ヘリウムガスによって絶対零度に近い-273度付近まで冷却した状態で計算を行います。

ヘリウムガスを絶対零度付近まで冷却し、量子状態を安定化させます。(これを量子ビットの初期化と呼びます)。
初期化された量子ビットへ組み合わせ計算に用いる値を与え、物理的に上から下へ落とします。
最適な答えとは、量子状態が物理的に最もエネルギー状態の低い数値として底部の回路で検出されるため、これを答えとするのです。


中央の長方形部分がヘリウムガスの量子状態を検出する「超伝導量子アニーリング3ビット因数分解回路」

実は、量子コンピューターではその計算にほとんど電力を使いません。
装置自体は絶対零度近くまで冷却する必要がありますが、一度冷やしてしまえばその冷却の維持には多くの電力を必要としません。
計算自体に電力をほとんど使用せず、計算結果の検出に若干電力を使う程度なので、
規模が大きくなるほど、その電力効率はノイマン型コンピューターよりも優位となります。


絶対零度付近が必要となるのはヘリウムガスを「落とす」装置部分から底部の検出回路までとなる


●解決すべき課題は「エラー」と「計算規模」
現在の量子コンピューターが抱える課題は2つあります。

1つは「エラー」です。
量子コンピューターはその計算構造上、検出精度からエラーが多く出ます。
例えばノイマン型コンピューターはエラーをほとんど出さない(エラーが出た計算は棄却する)方式であるため、非常に精密で毎回同じ答えを出せます。
Googleの量子コンピューターが採用しているゲート型はエラー耐性の高い方式ですが、その開発は非常に難しく、実用化にはあと数十年かかるとも言われています。

一方、現在のアニール型量子コンピューターは「NISQ」と呼ばれる方式を採用しています。ゲート型よりも構造が単純で、すでにカナダの企業などが商用サービスを始めていますが、かなりの頻度でエラーが発生します。
こうしたエラーにより計算結果には揺らぎが起こり、計算を行う度に違う答えが出ます(近似値にはなる)。

これだけを見ると、
現在の量子コンピューターは、利便性のない欠陥システムのように思えます。
しかしながら、
・映像に含まれるノイズの除去
・洪水のシミュレーション
・災害時の避難経路への誘導
・天候や気温からの購買予測
こういった状況では統計的な結果が得られれば良いため、曖昧な答えであっても問題はなく、その高速計算性が重視されます。

量子コンピューターは、こうした組合せ最適化問題では、
「状況」や「状態」を効率良く、素早く把握することができるため、高い需要が見込まれているのです。

もう1つの問題は「計算規模」です。
NEDOが公開したアニール型量子コンピューターは50量子ビットの検出能力を持つ回路を複数持ち、現在は2000量子ビット程度の規模です。
しかしこの規模では現在のノイマン型コンピューターに対し、あまり大きな優位性を持ちません。

今後は回路や装置自体の小型化などにより、100万単位で量子ビットを検出できる装置の開発を目指しています。そして、この規模になっても電力消費量などが莫大にならないのが、量子コンピューターの大きなメリットなのです。


超伝導量子アニーリング3ビット因数分解回路の実物を顕微鏡カメラで拡大したもの


●アニール型量子コンピューターの「シミュレーテッドアニーリング」
現在の量子コンピューターは装置として非常に巨大で、手軽に持ち運んだり、設置したりすることはできません。

そこで、アニール型量子コンピューター同様に組合せ最適化に特化した「非ノイマン型コンピューター」を、一般的なCMOS技術で製作するという試みも行われています。
それが「シミュレーテッドアニーリング」と呼ばれるものです。

NEDOは、日立が製作したシミュレーテッドアニーリングマシンを展示し、実際に映像のノイズ除去をリアルタイムでデモンストレーションしました。

シミュレーテッドアニーリングのメリットは、
アニール型量子コンピューターと同様の計算を、非常に小型な装置で実現できる点です。
計算規模も小さくなりますが、展示機ではクレジットカードサイズにまで小型化されており、電源もUSBからの給電のみ(3W )で動作していました。


まだ実験段階だが、実用に向けさらなる小型化と性能向上を目指す

シミュレーテッドアニーリングは、量子コンピューターが汎用機となるまでの「繋ぎ」的な技術ですが、
・IoTセンサーのノイズ対策
・交通管理システムへの適用
・物流システムへの適用
こういった分野で非常に高い需要があると考えられています。


●コンピューターの歴史が塗り替えられる「最初の一歩」
0と1によって順番に計算していくノイマン型コンピューターは、現在の世界を創った最大の発明です。
しかし、その発展と向上にも物理限界が見えつつあります。

量子コンピューターは、そんな物理限界を超えるための技術として期待されています。
また、量子コンピューターを研究では、その手法を従来型のコンピューター技術にフィードバックし、コンピューターの新たな進化や可能性の1つと言えるシミュレーテッドアニーリングも誕生させています。

世界はAIアシスタントや映像処理、物流システムの効率化など、
ビッグデータや膨大な情報から、瞬時に統計的な判断を必要とする時代に入ろうとしています。

コンピューターが人間のように「直感的」に事象を判断する時代は間もなくやってきます。
NEDOが展示した量子コンピューターは、その第一歩となる姿なのかもしれません。
執筆 秋吉 健