即位礼正殿の儀のリハーサルのため、皇居に入られる天皇、皇后両陛下(代表撮影、2019年10月、時事)

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 天皇陛下の即位に伴う10月22日の「即位礼正殿の儀」に合わせて、「恩赦」を行うことを政府が決め、実施されます。恩赦というと、「刑務所の中にいる人が出てくるの?」と思う人もいるようで、ネット上では「罪を償うべき人が赦免されるなんて許せない」「なんで罪を犯した人が得するの?」という批判の声があるほか、「そもそも恩赦って何?」「なんでやるの?」という疑問の声も出ています。グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

「恩赦法」に具体的な規定

Q.そもそも、恩赦とは何かを教えてください。

井上さん「恩赦とは、行政権によって国の刑罰権を消滅させ、裁判の内容を変更、または裁判の効力を変更もしくは消滅させることをいいます。恩赦という言葉は、普段聞きなれない言葉ですが、実は日本国憲法に規定があり、その規定を具体化する法律として『恩赦法』が制定されており、恩赦の具体的な内容などについては恩赦法に規定されています。恩赦と一口に言ってもいろいろ分類があり、主に効果と方法の2点からまとめることができます」

Q.「効果に着目したまとめ方」とは。

井上さん「効果に着目したまとめ方として、恩赦は『大赦』『特赦』『減刑』『刑の執行の免除』『復権』の5種類に分けられます。『大赦』とは、内閣が制定する政令で対象となる罪を定め、その罪について国の刑罰権を失わせることをいいます。これにより、公訴権(起訴できる権利)が消滅するため、捜査中の人は捜査が打ち切られ、送検後の人は不起訴処分、裁判中の人は免訴となり、さらに、有罪の言い渡しを受けている人は言い渡しの効力が消滅し、服役中の人は即時に釈放されることになります。

『特赦』とは、有罪の言い渡しを受けた人を対象に、言い渡しの効力を消滅させることをいいます。大赦とは異なり、特赦は有罪の言い渡しを受けた人だけを対象とします。『減刑』とは、例えば死刑から無期懲役に変更したり、懲役3年から2年に短縮したりするなど、言い渡された刑を軽くすることをいいます。

『刑の執行の免除』とは、刑の言い渡しを受けた人に対し、その執行を免除することをいいます。減刑とは異なり、刑の変更はありません。『復権』とは、刑の言い渡しによって喪失した、または停止された資格を回復させることをいい、例えば選挙違反有罪の宣告を受け、法律により選挙権や被選挙権を停止された人のそれらを回復することなどを指します。

なお、恩赦は刑事責任のみを対象としているため、取り消された運転免許が復活するようなことは、残念ながらありません」

Q.「方法に着目したまとめ方」とは。

井上さん「方法に着目すると、恩赦は『政令恩赦』(一般恩赦)『個別恩赦』に分けられます。政令恩赦は、不特定多数の人に対して、政令によって一律に行う方法をいい、『大赦』『減刑』『復権』の3種類で使われる方法です。一方、個別恩赦は特定の人に対して、それぞれの事情を個別に考慮して行われる方法をいい、『特赦』『減刑』『刑の執行の免除』『復権』の4種類で使われる方法です。今回の恩赦については、政令恩赦の方法による『復権』が中心となります」

Q.なぜ、恩赦をするのでしょうか。今回、恩赦を行う理由は。

井上さん「恩赦をする理由はさまざまです。日本では、奈良時代の頃から恩赦という制度が始まったともいわれています。第2次世界大戦の頃まで、恩赦は国家の慶弔事などの際に行われ、『慶弔を分かち合う』という意味で恩赦が行われてきたとされています。第2次世界大戦後は、有罪の言い渡しを受けた人の、その後の行い(改善更正の状況)を見て、裁判の内容や効力を変更するという、刑事政策上の意味が重視されるようになってきています。

今回行われる恩赦は、法務省によると、天皇陛下の即位という慶事にあたり、罪を犯した人の改善更正の意欲を高めさせ、その社会復帰を促進するために実施されるとのことです」

Q.恩赦の対象となった人は、いわゆる「前科」も消えるのでしょうか。

井上さん「恩赦の種類により異なります。そもそも『前科』とは、有罪の確定裁判を受けたという事実のことをいいます。そのため、刑の言い渡しの効力を消滅させる大赦と特赦が行われた場合、以後、刑の言い渡しがなかったものと扱われる結果、前科も消えることとなります。ただ、今回の恩赦は復権が中心で、前科が消えるケースはありません」

Q.恩赦の対象となった人にとってのメリットは何でしょうか。デメリットはないのですか。

井上さん「刑罰を免れたり、刑が軽くなったり、喪失していた資格が復活したりといったメリットがあります。デメリットはないと思います」

Q.当事者以外、つまり一般の日本国民にとって、恩赦のメリットは何でしょうか。

井上さん「恩赦は、一定の場合にその刑罰を免れたり、刑が軽くなったりする制度です。一見、恩赦はそれを受ける当事者にしかメリットがないように見えますが、例えば、個別恩赦のように、罪を犯してしまったことへの深い反省や被害者への謝罪を尽くしているなど、更正の状況を慎重に判断して行われる恩赦の場合、スムーズな社会復帰が可能となり、再犯可能性がその分低くなり、社会の安全や秩序維持が図れるといった、社会的メリット(一般の日本国民にとってもメリット)があると考えられます。

ただし、先述したように、今回の恩赦は政令恩赦が中心です」

政治利用の可能性に懸念も

Q.恩赦は、「三権分立の点から問題」という指摘や政治利用の恐れについての指摘もあります。この2点について詳しく教えてください。

井上さん「近代の憲法の考え方によると、国家から国民の権利や自由を守るために、国家権力を立法、行政、司法の3つの作用に分け、それを、国会、内閣、裁判所に担わせ、それぞれお互いににらみを利かせ、バランスを取ろうとしています。これが三権分立です。

このような三者の関係からすると、行政権を担う内閣が行う恩赦は、国民の代表者で構成される国会の定めた法律に従って裁判所が判断して決めた刑罰を、裁判の手続きなく消滅させたり変更したりするものであるため、立法権と司法権の活動を侵害し、三者のバランスを崩す可能性が高いとも考えられます。そのため、三権分立の点から、恩赦を行うかどうかは慎重に判断すべきであり、また、他の制度では不十分な場合に限って行われるべきと考えられています。

他方で、恩赦は内閣限りの判断で行われるため、現行法上、その判断の必要性や妥当性についてチェックする方法がありません。そのため、内閣が次の選挙で有利になるよう恩赦を実行するなど、政治的な思惑により恩赦制度を恣意(しい)的に行ったとしても、それをチェックできず、政治利用の恐れが出てきます」

Q.過去の恩赦の例、特に問題となった恩赦があれば教えてください。

井上さん「近年のものとしては、昭和から平成への代替わりに伴う『昭和天皇御大喪恩赦』『今上天皇御即位恩赦』のほか、『皇太子殿下御結婚恩赦』などがあります。

昭和天皇御大喪恩赦の際には、公職選挙法違反の罪が除外されていなかったことから、約1万5000人の公職選挙法違反者が復権したため、公選法違反者の救済の側面が強いものであったという問題点が指摘されました。今上天皇御即位恩赦では、その年の衆議院議員選挙の公選法違反で罰金刑を受けた者が含まれており、『政治恩赦』であるとする批判が展開されました」(※)

Q.恩赦制度は、現代の日本に必要なものでしょうか。

井上さん「恩赦の制度には、三権分立や政治利用などを巡る問題があり、このような問題を重視すると恩赦の制度は不要とも思えます。しかしながら、恩赦、特に個別恩赦については、罪を犯した者の、その後の更正などの事情を慎重に考慮し、再犯の可能性がないと考えられる場合、恩赦によって前科の抹消や資格の回復を図ることでスムーズな社会復帰を図るという、更生保護の観点から必要性があると考えます。恩赦制度は、慎重に行うことを前提に、現代の日本に必要な制度だと考えます」

 法務省によると、今回の恩赦のうち、政令恩赦は「復権」のみで、罰金刑を受けて罰金の納付から3年以上経過している人など約55万人が対象です。個別恩赦は「刑の執行免除」と復権を実施予定で、復権は約1000人が対象、刑の執行免除は、執行が病気などで長期間停止され、今後も困難な人が対象で、ごく少数にとどまる見込みとのことです。

※参考文献:国立国会図書館「調査と情報−ISSUE BRIEF−」第1027号(2018年12月6日)「恩赦制度の概要」