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わたしたちになじみがある果物のバナナが、いま絶滅の危機にひんしている。過去30年にわたって東南アジアのバナナ農園に大打撃を与えてきた恐ろしい真菌が、科学者の長年恐れていた事態をついに引き起こしたのだ。それは世界のバナナ輸出市場の中心地であるラテンアメリカへの上陸である。

コロンビア農業研究所(ICA)は8月8日、トロピカル・レース4(TR4)と呼ばれる真菌のフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)が、コロンビア北部の複数の農園で検出されたと発表した。この発表を受け、コロンビア政府は緊急事態宣言を発令し、この真菌の拡大を防ぐためにバナナを廃棄したうえ農園を検疫した。

最大の品種が絶滅の危機に

実はラテンアメリカでは、以前にもこうした状況に陥ったことがある。1950年代まで最も輸出されていたバナナの品種は、グロスミッチェルだった。これがTR4とは異なるフザリウム菌によって、ほぼ絶滅したのである。

現在輸出されている品種のキャヴェンディッシュがグロスミッチェルにとって代わったのは、当時のフザリウム菌に耐性があったからだった。いま輸出されているすべてのバナナの99パーセントはキャヴェンディッシュで、そのほとんどはラテンアメリカで栽培されている。

「わたしたちが直面しているのは、キャヴェンディッシュまで失うかもしれないというかなり絶望的なシナリオです」と、エクセター大学で食糧安全保障を専門とする生物科学部教授のサラ・ガーは言う。1989年に台湾で初めて発見されたTR4は東南アジアで蔓延したのち、レバノン、イスラエル、インド、オーストラリアでも検出されている。だが、これまでラテンアメリカでは、この病原菌の上陸を完全に回避してきたのである。

「TR4はひとたび国内に入ると、除去するのは非常に困難です」と、ガーと同じエクセター大学生物科学部で上級講師を務めるダン・ベバーは指摘する。TR4は土のなかで生息し、ほかの農園から移植されたバナナや、不潔なタイヤやブーツから広がっていく。そして土壌で何年も潜伏したのち、バナナの根から維管束(水や養分を運ぶ組織)に広がり、バナナの栄養を枯渇させる。

ベバーは、その真菌がいまラテンアメリカに侵入しているとしたうえで、いま把握されているよりかなり広範囲な感染拡大が推測される状況では、真菌の拡大の抑制が肝心であると説明する。農園への入退出の前に、従業員や訪問者にブーツやタイヤを殺菌するよう徹底させる。この方法をすべての農園で実行することが、健康な土壌を保つうえで役立つ。

感染の拡大を逃れる道はほとんどない

ところが、どの国もTR4の封じ込めに成功していない。1997年、TR4はオーストラリアのノーザンテリトリーで検出され、精力的に検疫が行われた。それでも2015年に、この病原菌が同国のノースクイーンズランドへ拡大するのを防げなかった。

「(ラテンアメリカでは)TR4の感染拡大はかなりの速さで進んでいると考えられます」と、ベバーは続ける。バナナ産業は極端に利益率が低いので、TR4への耐性があると思われる新たな品種の研究に投入される資金はかなり少ない。英国の過去十年間におけるバナナの消費者価格は、1kg当たり0.94ボンド(約122円)にとどまっている。それに比べて、英国の同じ時期におけるリンゴの消費者価格は1kg当たり1.51ポンド(約196円)から2.08ポンド(約270円)と、40パーセント近く上昇している。

数千マイルも離れた産地で栽培される極めて安価な果物の需要がとどまるところを知らないせいで、バナナ産業は単一品種の生産に専念せざるをえなくなった。その結果、より規格化され、より低額で済む農園経営と輸送手段が採用されるようになった。

しかし、ひとつの品種のバナナだけを栽培することには重大な欠点がある。「単一栽培を行っている農園は、病原菌の繁殖には絶好の場所です」と、ガーは語る。例えば、キャヴェンディッシュなどの特定の品種に感染する病原菌が侵入すると、感染の拡大を逃れる道はほとんどない。

遺伝子操作という希望

ラテンアメリカでの事態は先行きが暗いようだが、希望の兆しも少しはある。遺伝子編集技術のCRISPRを用いて、TR4に耐性のあるキャヴェンディッシュ・バナナをつくる取り組みがすでに始まっているのだ。

植物生物学者のジェームズ・ディールは2018年、CRISPRによってキャヴェンディッシュのゲノム変更が可能であることを実証した。英国企業のTropic Biosciences(トロピック・バイオサイエンシズ)もCRISPRによる遺伝子操作によって、TR4に耐性のあるバナナをつくろうとしている。ここまでくれば、TR4に耐性があるだけでなく、消費者に販売できるおいしいバナナの開発も視野に入れ、キャヴェンディッシュとほかの品種とをかけ合わせることも可能かもしれない。

とはいえ、こうした取り組みはすべて、期待できる結果を示すにはほど遠い段階にある。また、欧州司法裁判所は2018年7月に、遺伝子編集されたバナナの先行きを不透明にする判決を下した。同裁判所はCRISPRを用いて遺伝子編集を施した作物が、遺伝子組み換え生物の販売を制限する規制の対象になるとしたのである。

解決策が見つかるまで、ラテンアメリカでとりうる唯一の選択肢は、TR4の危機を乗り越えることだ。しかし、バナナ産業が直面する課題はTR4だけではないと、ベバーは指摘する。ラテンアメリカでは、真菌によるブラック・シガトカ病も流行している。これはバナナの葉の病害で、壊滅的な被害をもたらし、対策には莫大な費用がかかる。そのうえ、気候変動によって農園が干ばつに見舞われる恐れもあり、バナナの生育は困難になっている。

生産システム全体の見直しが必須に

だが、ほんのわずかな利益しか出せないバナナ産業を衰退に追いやる要因は、真菌や気候変動に加えて、大規模な単一栽培というもうひとつの問題もあるだろう。キャヴェンディッシュに代わる品種を探すのではなく、現在の大規模な単一栽培にはまったく持続可能性がないと認めることが、バナナ産業を救う唯一の長期的な解決策ではないだろうか。

「生産システム全体の見直しこそ、わたしたちがしなければならないことだと多くの人が指摘しています」と、ベバーは言う。「いまのような生産システムのままでは、わたしたちは困難な事態を自ら招いてしまうのです」