"セックスレス離婚"を綴るブロガーの末路
■リア充に発見されてしまった「ライター」という職業
【宮崎】前編では、SNSを見ていて感じるモヤモヤの話題から、インフルエンサー、顔出しして「共感」を拡散する読モライター(読者モデルのようなライター)たちに関する議論へと発展していきました。
中川さんのお話を聞いて思ったのが、SNSの登場によって、ライターという職業が「リア充」たちに発見されたのではないか、ということです。
僕も業界のことをつぶさに知っているわけではないので、正確な史観ではないかもしれませんが、僕が中・高生のころのイメージでは、たとえば青山正明さんであるとか、村崎百郎さんなどといった、ものすごい業を背負ってしまった仄暗いハズれ者たちがライターになっているという印象がありました。
彼らの仕事に対する評価はひとまず置いておくとして、少なくとも世の中に対してうまく折り合いがつけられないようなタイプの人たちが、雑誌などで活躍していたという記憶が残っている。ただ、今はそういうイメージは薄くなっているように感じます。まともな印象の人が増えたといえばそれまでですし、リア充の方たちにライターという職業が発見されたこと自体は、別に悪いことではないと思っていますが……。
【中川】今、ライターをやっているリア充は、昔ならイベント企画会社とかを立ち上げていたようなタイプの人たちですよね。それにしても、宮崎さんが作った言葉である「読モライター」が属する「芸能」のジャンルには、有吉弘行さんやマツコ・デラックスさんなど、Sランクにすごい人たちがいっぱいいるのに、なぜその厳しい世界で戦おうとするのか不思議でなりません。しかも自分より若くて、美人だったりイケメンだったりする読モライターが、後から続々と参入してくるような状況なのに。
■何も持っていないから「自分」のことしか書けない
【中川】こういう対談をすると、「宮崎は若いのに、中川みたいな年寄りに媚びやがって」と批判するヤツが絶対に出てくると思うんですけど、物書きは年を取っても筆力は伸びる可能性があるのだから、ライターを続けたいなら「芸能」路線ではなく「物書き」路線でいくほうが間違いなく堅実なんですよ。
【宮崎】インフルエンサーも読モライターも、ライフステージによってキャラクターを変えていけば、生き残っていけるかもしれません。でも、それってやはり「芸能」の仕事ですよね。たとえばですが、ママ読モライターにキャラ替えしたとしても、ママタレントと競合するわけで、その厳しさは変わらない。自分自身を売り物にするということは、そういうことなんだと思います。
あと、自覚的に自分自身を売っているならいいのですが、自分の専門分野や文化的背景、独特な切り口、または職人としての高度なスキルを持っていないから、結果、コンテンツを発信しようとすると「自分自身」のことを書くしかない、という事態に陥っているライターも散見されます。僕が懸念しているのは、昨今、読モライターのイメージがあまりにも前景化したため、それがライターの職業のすべてだと思い込み、リスクやデメリットを考慮せず、キラキラしたように見える彼らを無自覚に目指してしまう人が増えていく恐れがあるのではないか、ということなんです。
■自分を切り売りする手法の限界
【中川】恋愛系バラエティー「あいのり」(フジテレビ)に出演して注目され、人気ブロガーになった桃が、近ごろ新境地を切り開いています。彼女は最近、セックスレスを理由に離婚したと発表して話題を呼びました。要するに「セックスレス離婚」というポジションを取ったわけです。そして、おそらく次は「離婚した私が、どのように次の相手を見つけるか」ということを商品にしてくるはず。「バツイチ合コンブロガー」みたいな言葉を作って、売り出してくるかもしれない。
【宮崎】ありそうですね。
【中川】そして、仮に再婚がかなったとしたら、今度は「セックスレス離婚から立ち直り、幾多のバツイチ合コンを経て、ついに再婚を勝ち取った私のドキドキ妊活ライフ」みたいな記事を書くのではないかと。桃に限らず、承認欲求をギラつかせながら私生活をあけすけに垂れ流すような、ウェブのちょっとした有名人は数多い。読モライターは、そういう連中を相手にしなければいけない恐ろしさを、もっと自覚したほうがいい。桃なんて、整形願望を明かしたと思えば本当に整形をしてしまう! 「あいのり」時代の思い出に加え、当時の仲間との旅行やら結婚式なども含め、とにかくネタにする。おい、10年前のネタでまだ食うのかよ、スゲーな! と脱帽するほどの“怪物”が相手なんですよ。
【宮崎】もちろん、物書きとしてのライターも、そういうライフステージによる変化に対応していく必要はあります。それに、トークイベントやマスコミに出て存在感を高めなければ、なかなか本が売れないという現実もある。僕自身もそういう努力をしていますし、お話があれば喜んで出演します。だから、タレント化は表現を仕事にする者ならば、多かれ少なかれ意識しなければいけない。また、これは発信側だけの問題ではなくて、見る側も「他人の人生」を最高の娯楽として享受するようになってきた、という背景があるように思います。SNSが登場してから、よりその流れが加速しているように感じる。
【中川】何だかんだ言って、みんなゴシップネタが大好きなんですよ。政治や経済に関するビッグニュースがあっても、芸能人の不倫が発覚した瞬間に読者がそちらに流れて、思ったほどPVが伸びなかったりしますから。
■インフルエンサーや読モライターは批判に弱い
【宮崎】“プロの物書き”というジャンルに属すライターにも、自分の人生を切り売りする人は昔からいました。でも、それがすべてになってきてしまっている現状にはモヤモヤします。取材力や文章力、構成力を磨けば、たとえタレント性がなくてもライターにはなれるわけで、タレント的な読モライターが、ライターのすべてだと外から思われてしまうのにはとても抵抗がある。このままでは、それこそ就職活動の自己PRネタ集めと一緒で、ライターになるために「極貧で世界一周旅行」みたいな特殊な体験をわざわざ積もうとする人が出てくるかもしれない。もうすでに、出ているのかもしれませんけど。
【中川】紙媒体が主流だった時代は、掲載する枠に物理的な限界があったからこそ、文章のクオリティや長さ、取り扱う内容など、コンテンツに関して厳しく選別されていました。でも、今はネットメディアがあるから、少なくとも文字数についての制限はだいぶ緩くなっている。さらに、ネットメディアに載らなくても、自分でブログを書いたり、SNSを更新したりすることができるようになった。
【宮崎】おっしゃるとおりです。
【中川】加えて、俺が懸念するのは、インフルエンサーや読モライターの人たちは批判に弱いということなんです。本来、物を書いて発表するという行為はしんどいものじゃないですか。考えが違う人たちから批判がくるし、論争に巻き込まれたりもする。でも、インフルエンサーや読モライターは基本的にPR記事を含めた穏やかな文章を書いているので、批判されることが少ないんです。そういうタイプの書き手が、50歳、60歳まで仕事を続けられるかと考えると、難しいと思う。
【宮崎】そういえば、中川さんも一時期、ツイッターで読モライターを名乗っていましたよね。
【中川】そうそう、ネタとしてね。ツイッターのプロフィール欄に「ハイパー読モライターZ' TURBO」と書いていたんですけど、それ以外にも「自称・郷土史研究家」「自称・元課長代理補佐として様々なプロジェクトに携わり、いずれも成功に導く」など10個くらいの肩書きを名乗っていたので、サッカーワールドカップが始まったとき、「ブブゼラ大好き」を入れるために「ハイパー読モライターZ' TURBO」は外してしまいました。プロフィール欄の文字数制限がありますからね。
■クソリプへの対処法と「質問箱」
【宮崎】SNSのモヤモヤといえば、僕も本を出したことによって、こうしてメディアに出る機会が最近増えたのですが、その影響かフォロワーがそんなに多くないのに、いわゆる「クソリプ(揚げ足取りのような愚にも付かないリプライ)」がくるようになったんです。どうすればいいんでしょうか?
【中川】クソリプにはテンプレの反応を作っておいて、さらすのが一番。俺は「うんこ食ってろ」と言って突き放してますよ。
【宮崎】なるほど。この前、はあちゅうさんがアンチに対して、「うるせぇな、自分の人生生きてろ」って返していて、さすがだなあと思いました。
【中川】それいいですね。宮崎さんも早くテンプレを作ったほうがいい。
【宮崎】何がいいですかね?
【中川】「みじめな貴殿を産んだご両親がお気の毒でなりません」とかはどうですか?
【宮崎】余計に敵を作りそうですね。
【中川】大丈夫ですよ、それくらい。俺なんて「うんこ食ってろ」ですから。
【宮崎】「お気の毒でなりません」は、一応、敬語ですしね(笑)。
■無名な人の意見まで、価値があるように錯覚
【宮崎】話は変わりますが、ちょっと前にツイッターで流行った「質問箱」についてはどうですか? SNS上でフォロワーや友達から質問を匿名で受け付けて、自分がそれに答える、というもの。質問や回答は自動でSNSに投稿される……といったサービスなのですが。
【中川】あれね。同じようなサービスが定期的に流行っていますよね。
【宮崎】人間の承認欲求の根深さが感じられます。
【中川】あれをやる人は、自意識が強すぎる。本来、人から質問されたり、意見を求められたりする人って、選ばれし者だったと思うんです。「質問箱」だけの問題ではなく、ウェブの出現によって、以前であれば公的な場での発言に価値がないと判断されていた無名の人の意見まで、価値があると錯覚されるようになってしまった。それが、SNSのモヤモヤの原点だと思っています。俺はあんなの絶対にできない。
【宮崎】なるほど。みんな自分のことを言及されるのが好きですからね。そういう僕もエゴサーチの鬼ですけど。
■子どもの肖像権が親によって侵害されている
【中川】あと、俺がSNSでモヤモヤしているのは、子どもの写真や動画を掲載しまくることなんです。なぜかと言うと、仮にその子どもが将来、犯罪者か被害者になった場合、容易に過去をさかのぼられてしまう可能性があるから。
これまでであれば、何か事件が発生した場合、メディアはこぞって容疑者・被害者の卒業アルバムを手に入れようとしてきたけど、今後はSNSを調べたら、それこそ生まれた瞬間の写真まで入手できたりするかもしれない。あと、子どもが芸能人になったとして、幼少期の写真をSNSでチェックされ、「あれ? いまと顔が違うぞ」なんてところから整形手術したことがバレてしまうかもしれない。問題は、子どもは親に自分の写真や動画をアップする許可を与えていない、ということなんです。
【宮崎】たしかに、高校デビューなんてこともできなくなるかもしれませんね。それによって、スクールカーストの固定化が進むかも。僕はSNSのなかで一番、インスタグラムを見ているのですが、子どもの写真や動画をアップしている親は、自分の顔を隠したり、写していなかったりしているケースが多いんです。
【中川】そう、自分のプライバシーはちゃんと守っているんですよね。親に肖像権を侵害され、実害を被る人たちが、これから出てくるのではないでしょうか。
■寝る前は「殺伐としたツイッター」よりも「平和なインスタ」
【宮崎】実際、僕がインスタグラムで一番見ているのは、他人の赤ちゃんと犬の写真、動画なんですよ。一消費者としては、中川さんの言う「ウェブはバカと暇人のもの」を実践しているわけです。で、インスタでは何がおこなわれているのかというと、赤ちゃんの写真、動画にタグ付けして投稿すると、アルファインスタグラマーみたいな人がその写真や動画を拾って、自分のインスタのアカウントで拡散してくれたりするんです。それが親たちにはうれしい。
【中川】それってどうなんだろう。心配にならないのかなぁ。
【宮崎】僕がインスタを見ながらよくやっているのは、そのかわいい赤ちゃんの写真をあげているお母さんやお父さんのアカウントに飛んで、産まれた瞬間までさかのぼるということなんです。「こんなムチムチでかわいい赤ちゃんが、はじめはもっと小さくてしわくちゃな新生児だったんだ」と、生命の神秘に触れながら感動する。寝る前にツイッターとフェイスブックを見ちゃうと、殺伐とした気持ちになって寝付けなくなってしまうから、平和なインスタを見るんですよ。
僕は、そういうことを無邪気な気持ちでやっていたつもりでしたけど、中川さんのお話を聞くと、結構ヤバいヤツですよね。赤ちゃんからしてみたら、親に無断でアップされたものであるわけですし。
【中川】ある程度成長したら、本人に尋ねてもよいのでは。「これまで、お前の写真を勝手にSNSに上げてきたけど、どうする? イヤなら削除するけど」くらいの配慮は必要かもしれない。“過去に親がSNSに上げた写真”が子どもにとってモヤモヤの種になるとしたら、不幸なことですよ。
【宮崎】それにしても、今回はSNSのモヤモヤから、ライター業界のモヤモヤまで、いろいろ深い話ができたと思います。モヤモヤがすっきり晴れることはないのかもしれませんが、これからモヤモヤしながら考えを深めていきたいです。本当にありがとうございました。
----------
ライター
1982年生まれ、東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経て、フリーライターに。カルチャー、男女問題についてのコラムのほか、日常生活における違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。ラジオなどのメディアやイベント出演も多数。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
----------
(ライター 宮崎 智之、ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)
