なぜ神戸市の水道光熱費は日本一安いのか

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■最高額の青森市は月平均で2.4万円

水道光熱費の年間平均は約21万円。ところが最安の神戸市は約13万円、最高の青森市は約29万円。毎月1万円以上も違う理由とは――。

給料が振り込まれ、通帳記入をする度に腹立たしい思いを禁じ得ないのが、毎月指定日に漏れなく引かれる電気・ガス・水道などの「水道光熱費」だ。全部足してみると案外な額になり、ただでさえ少ない手取り金額に追い討ちをかける。食費や飲み代は減らせても、生活のインフラとなる水道光熱費は生きていくための必要経費であり、節約には限度がある。
総務省は2月、2016年「家計調査報告(家計収支編)」速報値を公表した。それによると、総世帯の消費支出に占める水道光熱費の割合は7.4%を占める。

意外かもしれないが、その額は都市により大きな差がある。全国主要52都市(県庁所在地と政令指令都市)の中で、電気代・ガス代・上下水道料金に灯油代を加えた1年間の水道光熱費(全国平均21万4533円)について、一番高かったのは青森市の29万935円だった。単純に月割りにしてみると2万4244円になる。

上位から並べると、次いで秋田市26万5781円、盛岡市26万4438円、山形市25万922円、福島市24万3057円と続く。東北勢が顔を並べていることから、冬場の暖房費に金がかかるという推測が立つ。事実、灯油代支出のトップ5は水道光熱費のそれとほぼイコールで、特に青森市は年間6万1874円で頭一つ抜きん出ている。

青森市役所に問い合わせたところ、公式回答は得られなかったが、電話口に出た担当者の個人的見解として「冬場は融雪や凍結防止のため、家の前の駐車スペースにロードヒーティング(放熱帯)を設置する家が少なくない。燃料の大半は灯油だから、暖房費に加算されて光熱費を押しあげているのかも」というコメントがもらえた。やはり、寒い土地での暮らしはお金がかかるのだろう。

■日本一安い神戸市は月平均で1.1万円

一方、水道光熱費の支出がダントツに少なかったのは神戸市の13万5735円だった。こちらも月割りにすると1万1311円になる。青森市の実に半分以下で、比較すれば毎月1万3000円も少ない。2位以下は、千葉市16万1785円、川崎市16万5720円、名古屋市17万8058円、宮崎市17万8310円の順。こちらは地域や気候との関連はほとんどみられず、宮崎市を除けば政令指定都市が顔を揃える。詳しく数字をみるまでは「大都市は水道光熱費が高い」というイメージをもっていたが、それは根拠のない思い込みだった。実際に東京都区部は19万4505円、大阪市は18万6014円と、ともに全国平均の約21万円を下回っている。

では、なぜ神戸市は水道光熱費が日本一安いのか──。神戸市役所に問い合わせたところ、「電気料金、水道料金が他の都市に比べて低いからでは」(政策調整課)とのこと。確かに電気代(6万2505円)、上下水道代(3万818円)、さらに灯油代(1167円)の3部門において最低支出の座に君臨。野球でいえばヤクルトスワローズの山田哲人選手ばりのトリプルスリーを達成しているのである。

神戸市の場合、水道料金は20年間、下水道料金は30年間一度も値上げをしていません。加えて10立方メートルまでの使用量は固定料金(税込950円)に含むという、住民負担を軽減する制度設計にしているところに要因がある」(神戸市水道局計画調整課)と、関係者は行政努力を強調した。電気代については神戸市に電力供給する関西電力に問い合わせてみたが、「この件に関する特段の資料はない」(広報部)とのこと。

数字では測れないが忘れてならないのは、神戸市民一人ひとりの水や電気に対する特別な思いである。「あのとき消防の水がきていれば」「電話がふつうにつながったなら」……。阪神・淡路大震災の被災体験が強い節電・節水意識となって市民に定着し、電気・ガス・水道の使用量を無意識に抑えているという見方もある。

六甲、有馬温泉、ポートタワー、元町、神戸牛。観光で通り過ぎるだけが神戸じゃない。“日本一お金のかからない”都市・神戸。転勤するなら、住み替えするなら、「そうだ、神戸に行こう!」。

(フリーライター 平尾俊郎=文 大橋昭一=図版)