盗難車 アメリカのサイトで堂々販売

text:Kumiko Kato(加藤久美子)

アメリカで販売されたJDMに関する大事件が発覚しつつある。

JDMとはJapanese Domestic Marketのことで直訳すると「日本国内市場」。オレンジ色のウィンカーやサイドバイザーやドアバイザー、水中花シフトノブや車検燃費基準ステッカー、カスタムスタイルに至るまで、日本にしかないクルマ関連のものの総称だ。

アメリカでは、人気の日本車が、車体のみならずパーツ単体でネット販売されている。    J-Spec Auto Sports Inc.

狭義では「25年ルール」(製造から25年経過した車両は各種の規制、米国保安基準に関わらず、米国で販売、登録が可能になる。)で解禁となった右ハンドルの日本車を指す。

その事件とは日本で盗難された80〜90年代の人気国産車(スープラ、スカイライン、インテグラ、インプレッサ、シルビア、RX-7、ランサー・エボリューションなど)が、ヴァージニア州にあるJ-Spec Auto SportsというJDM専門店で販売されている事例が多数明らかになってきたことだ。

この事件についてJ-Spec Auto Sports Inc.は公式に声明を出している。長い文章だがひとことで書くと以下の内容となる。

「わたしたちがクルマを盗んで、これらのクルマや部品を販売したのではないかという疑惑がありますが、わたしたちが違法な活動に参加することは絶対にありません。現在、日本の地方自治体と協力して適切な調査を進めています」

どんなものが販売されているのだろうか?

車体のほかバラバラになったパーツも

J-Spec Auto Sports Inc.は、車両本体からエンジンやフロントクリップ(ステアリング、ダッシュボード、左右フェンダーなどの部分)、エアロパーツや日本で使われていたナンバープレートまでを大量の在庫と共に販売している。

一例をあげてみよう。車体本体の販売例。    J-Spec Auto Sports Inc.

「Imported RHD Cars」(輸入右ハンドル車)として販売されているのはクルマ本体。

年式は1990年代前半に集中しており、最新のものでも1995年モデルのスカイラインR33となる。いわゆる「25年ルール」が適用されるからだ。

25年ルールとは右ハンドル車であっても、もろもろの規制、米国保安基準を受けることなく、ほぼそのままで一般ユーザーに販売、登録が可能になるルールだ。

製造月ベースとなるので、現在アメリカで完成車として登録できるのは1995年5月以前に製造されたモデルとなる。

パーツも単体でたくさんの車種のものが販売されている。

たとえばホンダ製エンジン。B型エンジン「B16A」は元祖VTECエンジンと呼ばれるエンジンでインテグラ(1989年)、シビック(1991年)などに搭載されてきた。

アメリカでの人気も非常に高い。

日本の盗難車をオーナー自らが発見!

ツイッターのアカウント名、てつごり(@AxRxPxUxS)さんのS15シルビアのフロントクリップ。ニスモのステッカーが照合ポイントとなった。

クルマ本体やエンジン、フロントクリップ、トランスミッションなどは同社のサイトやebayなどの海外オークションサイトで販売されている。てつごり(@AxRxPxUxS)さんのS15シルビア。盗難前(上)と、J-Specで販売されている写真(下)    @AxRxPxUxS

もちろん、世界中から誰もがアクセスできるし、購入もできる。

それゆえ、正規のオーナー(つまり盗難の被害者)が「日本で盗まれた自分のクルマが売られている!」と気づく例も出てくるのだ。

それがここ数日急増している。

2年前に青いS15シルビアを会社の駐車場で盗まれた、埼玉県在住の、てつごり(@AxRxPxUxS)さんも、J-Specのサイトで偶然自分のクルマを見つけた。

「実は今年の4月にもやはり同じ駐車場で80スープラを盗まれました。かなりセキュリティも強化していたのですが……」

「それで、今回J-Specで(盗まれた)スープラが出ていないか……何となくサイトを見ていたところ、なんと2年前に盗まれたシルビアを発見してしまったんです」

「すでにSOLD(完売)となっていましたが」

「決め手となったのは、フロントバンパーに貼られた『ニスモ』のステッカーです。これは、割れた部分を隠す為に貼ったのでよく覚えています」

それにしても、バラバラにされて売られている状態はあまりにも無残だ。

凄絶な怒りと悲しみの声がSNS上に響いている。

盗難→アメリカに密輸 どんな車種?

どんなクルマが狙われているのか。

日本損害保険協会などが発表する「盗難車ワースト10」などにおいては、ランドクルーザーやレクサス、ハイエース、プリウスなどが常連となっているが、今回のケースはそれとはかなり違っている。J-Specのサイト上で販売されるランドクルーザー80。2万8995ドル。    J-Spec Auto Sports Inc.

というのも、J-SpecはJDM専門店ゆえ、狙われるクルマも当然、25年ルールで合法的に輸入販売できる1995年以前の日本車となる。

もちろんJ-Specで販売されている大量の車両やパーツのすべてが日本からの盗難品ということはないだろうが。

以下に具体的な車種名をあげる。

日産

・スカイライン(R32・R33・R34)
・シルビア(S13・S14・S15)
・180SXなど

ホンダ

・インテグラ
・シビック
・CRXなど

トヨタ 

・80スープラ
・ランドクルーザー
・マーク2
・セルシオなど

マツダ

・RX-7
・ユーノス
・コスモなど

スバル

・インプレッサ
・アルシオーネなど

2座オープンカーのスズキ・カプチーノやホンダ・ビートなども人気がある。

そして注意すべきは、アメリカで販売されているモデルであっても、日本で盗難に遭うケースが続出しているということ。

スカイラインや軽自動車など一部の車種を除いて上記にあげた車種には左ハンドルの北米仕様が存在する。

しかし、熱狂的なJDMファンは「右ハンドルこそ真の日本車だ!」という思いがあるため、わざわざ25年ルールで解禁を待って入手したいと考えている人も少なくない。

盗まれたオーナー、当時の状況を語る

全国で最も車両盗難が多い茨城県在住のブルマグ(@BLUEMAGNA_RB)さんは、自宅の駐車場でわずか5分程度の間に愛車のR34を盗まれてしまった。

盗難されて2年が経過したがまだ見つかっていない。当時の状況を伺った。盗難後に残ったハンドルと鍵。鍵に付いているのがカーセキュリティのリモコン。    @BLUEMAGNA_RB

「盗難にあったのは2018年5月22日月曜日の午前1時20分頃です。門の無い自宅駐車場に後ろを道路側に向けて停めていました」

「ハンドルはクイックリリースボスで取り外し可能で、自宅駐車時はいつも外して玄関に置いていました」

「ドアロックはもちろんしていましたが、ハンドルがない事に慢心していて、中古購入時から付いていたカーセキュリティをオフにしていた事を非常に後悔しています」

「犯人はハンドルの無いクルマのエンジンを掛けて自走で逃走しました。同じクイックリリースボスのハンドルを用意したか、パイプレンチのような工具をハンドル替わりにしたと思われます」

「盗難された時間は自室で起きていたので、自宅から少し離れた所での排気音を聞いています。RB26は独特な音で聞き慣れていましたがこの時は、まさか自分のクルマの音だとは思いもしませんでした」

「車内に侵入してから手押しで離れた場所に移動して、エンジンを掛けて、盗難のために乗ってきたプリウスαと一緒に逃走したと思われます。(近所の防犯カメラにその時の様子が残っている)」

「盗難に気付いたのはその日の朝で、先に起きていた妻が雨戸を開けてクルマが無いと起こしに来て自分の目で見た時です」

「最初は盗難と認めたくなかったんだろうと思います。ほかの理由を探しました。が、直ぐにあの排気音は自分のクルマだったと気付きました」

盗難防止策 有効性が高まる方法は?

ブルマグ(@BLUEMAGNA_RB)さんいわく、100%絶対安全という対策はないのでは? ということだが有効性が高まる方法はあると考える。

ブルマグさんは、有効な盗難対策方法を以下の事だと考えている。ハンドルロックの例    shuttertock

「ハンドルロックだけではクルマの盗難対策として不十分です。それで盗まれた人は多いです。自分はハンドルがない状態でも盗まれましたから……」

現実的で効果が高いのは、

・誤報の少ないカーセキュリティをノウハウのある専門店で取り付ける

・時間稼ぎの物理ロックを複数取り付ける(時間が長くなればなるほど発見率が高まる)

・後付けGPSで盗難後も自分のクルマを追跡可能にする

・防犯カメラを設置して証拠を残す……

など。

「費用もそれなりに掛かりますが、これらを万全に行えば盗難に対してかなり有効な対策となるでしょう」

「もしかして盗難品を買ってしまった?」とアメリカのJDMオーナーたちの間でも大変な騒ぎとなり、自車の車体番号やパーツのシリアル番号などの情報提供も行われている。

アメリカでは今、空前のJDMブームだが、もちろんそのほとんどは正規に日本から輸入された車両で、盗難品はJ-Spec Auto Sportsなどが扱うごく一部に過ぎない。

AUTOCAR JAPANでは引き続き、J-Spec Auto Sportsで販売される盗難車のその後や最新の盗難車対策に関する情報をお届けしていく。