【飯野 守男】小腸が壊死して、黒く変色…「3食フライドポテト」を食べ続けて亡くなった少年「衝撃の死因」
夜間の救急病院を受診し「便秘」と診断された少女は、なぜ翌朝に命を落としたのか。最新の死後CTでも見抜けない「エアコン部品」の誤飲や、貧困ゆえにフライドポテトを食べ続けた少年の孤独な死。日常に潜む危険が死を招いた3つの事例を紹介する。〈本記事は飯野守男著『法医学教授が教えている 死体の授業』(飛鳥新社)の内容を再編集したものです〉
Case. 1「便秘で死ぬ」
Case. 1「便秘で死ぬ」
「お腹が痛い」「吐きたい」と訴えて、深夜に救急病院を受診した小学校低学年の女の子。すぐにCT撮影し、直腸にたくさん便が詰まっていたことから医師は「原因は便秘」と診断します。緊急性が高いケースではないため、そのまま痛み止めだけ行って入院させ、翌日に処置をしましょうという話で落ち着いたのですが、翌朝早くに女児は死亡。医療ミスが疑われて解剖にもち込まれました。
まだ小学生だった女児の痛ましい事例です。
解剖で小腸と大腸を切り開いたところ、大量の硬い便が出てきました。便秘という診断自体は正しかったといえます。
ただ、CT写真をみると、大量の便詰まりによる腸閉塞が起きていたであろうことがわかりました。
肛門の出口付近には相当に硬い便が大量にあり、それが排便を妨げていたのでしょう。死体検案書に記した死因は「便秘による宿便性腸閉塞」、つまり便が腸内に長期滞留したため、腸管が塞がって消化物やガスが腸を通過できない腸閉塞の一種です。
突然の愛娘の死を前に、ご両親が深い悲しみに暮れるのは当然です。死の直後にご遺族は、「病院側が適切な医療行為をしていれば娘は助かったはずだ」と主張して、民事裁判を起こすと話されていましたが、その後の続報が聞こえてこなかったことを考えると示談になったのかもしれません。
では、少女を救える分岐点はどこだったのか。
便秘に対する適切な医療行為、この場合は摘便していれば防げた死だったはずです。摘便とは、医療従事者が指を使って、肛門付近に詰まっている便を直接取り除くケアのこと。指を入れて、硬い便をビュッと取るだけの簡単な処置ですから、便秘と診断した時点で医師が指示すればすぐにできたはずです。
それをしなかった理由は、おそらく深夜の受診だったからではないでしょうか。
深夜の救急医療の基本は、「よほど重症でない限りは朝までもたせる」です。翌朝になれば専門医が出勤する。それならば、積極的な治療はせずに安静にさせてしのごう。
深夜の当直医師がそう考えてしまうのも無理はありません。
しかし、「よくある便秘だから」と甘くみた判断ミスが、悲劇を招くこともあることを医療従事者は心しておくべきでしょう。
Case. 2「誤飲で死ぬ」
Case. 2「誤飲で死ぬ」
知的障害をもつ40代男性の事例です。
男性はショートステイでいつもの施設に出かけ、帰宅したその日の夜に突然発熱します。嘔吐の症状もあり、便も黒くなっていることから、ただごとではないと判断した父親が救急車を呼びますが、わずか1時間半後に男性は病院で亡くなりました。
知的障害をもつ中年男性が急死。死にいたるまでの時間が非常に短かったこと、また男性には知的障害があったため、死因の背景が一切不明だったことから、解剖となりました。
解剖前に男性の死体をCT撮影したところ、胃の中に層状のなにかが重なっているのがみえました。CT検査では、あまりみない内容物です。さらに小腸をみると、なんらかのゴロゴロと大きな内容物がある。消化途中の食べ物にしては、通常よりもかなり大きいようだ。ただし、ほかにCTでわかる異常は発見されませんでした。
そこで実際に胃を開くと、ぎっしりと層状に重なるように詰まっていたものの正体は通常の食べ物(主に野菜や果物)だったことが判明します。普通でなかったのは、どの食べ物もほとんど噛まれた跡がなかったこと。つまり男性はそしゃくせず、食卓に出されたままの状態で飲み込むクセがあったことがここでわかりました。
とはいえ、胃と小腸の内容物はすべて「噛まれなかった食べ物」であり、「食べてはいけない物」はやはり見当たりません。
さらに解剖を続行していくと、小腸の一部が赤く腫れ上がっている異常がみつかりました。その部分を切り開いたところ、数センチほどのプラスチック製の物体を発見。
その時点ではそれが何かはわかりませんでしたが、おそらく死の原因を引き起こしたものです。しかし、その物体はCTには写っていませんでした。
結局は切り開かなければわからないことがある
では、死亡した男性は、その小さなプラスチック製品をどこで、なぜ飲み込んだのか。警察が調べた結果、小腸から発見されたプラスチック製品は、その形状からエアコンのルーバーらしきことがわかりました。
ルーバーはエアコンの吹出口についている、風向きを調整する部品です。とはいえ、誤飲してしまう小さなサイズのルーバーですから、室内用のエアコンではなく、車のエアコンのルーバーだろうと推測。
死亡した男性が死の直前に車に乗る機会があったのかを調べたところ、ショートステイの送迎に使われているマイクロバスに乗っていたことがわかりました。
そして、男性が座った席の真上にある天井のエアコンのルーバーがなくなっていた。おそらくは重度知的障害をもつ男性が移動中に外し、飲み込んでしまったのだと考えられます。
最終的に男性の死因は、「異物誤飲に基づく腸閉塞に起因する吐物誤嚥による窒息死」と判断しました。
誤飲した異物(ルーバー)が小腸を塞ぎ、そのあとに食べた物が通過できない状態になった。その結果、胃に食べ物がパンパンに詰まり、出口を求めて嘔吐しようとするも吐物が気管に詰まり、窒息死となってしまったのでしょう。
CTでルーバーの存在が検出できなかったのは、プラスチック製品はそもそも写りにくい性質があるからです。入れ歯と同じく、プラスチック製品はX線をとおしやすいため、CTでスキャンしてもそもそもほとんど写りません。
とくに、食べ物と混ざった状態だとほぼ境目が区別できない。
昨今日本では、死後CTスキャン(Ai)が有用なツールとして知られていますが、「死後CTスキャンさえできれば、解剖はしなくていい」と考えてしまうのは短絡的です。
Aiは非常に有用なツールですが、CTに写らない材質も少なくありません。法的に十分な証拠を探し出すためには、やはり解剖は必要不可欠な作業です。このことは大学で解剖医を目指す学生たちにも、普段から注意喚起しています。
Case. 3「3食フライドポテトで死ぬ」
Case. 3「3食フライドポテトで死ぬ」
「嘔吐が止まらない」と訴える中学生の男子が病院へかけ込みました。お腹の調子が悪いのだろうとの判断から整腸剤を処方され、帰宅しましたがその直後に少年は死亡。解剖によって判明した死因は、「ハンバーガーチェーン店のフライドポテト」によるものでした。
子どもの死は原因がなにであっても痛ましいものですが、とりわけ個人的に印象に残っているのが「ハンバーガーチェーン店のポテトが原因で死にいたった少年」のケースです。
嘔吐で病院にかけ込み、整腸剤を処方されたけれども、死亡してしまった中学生男子。若く既往歴もない少年の突然死の原因を明らかにするため、解剖を行ったところ、衝撃的な事実が明らかになりました。
少年の死体を解剖して胃を切り開いたところ、まず胃全体が異常に大きくなっていました。さらに拡大した胃が腸を圧迫し、骨盤の狭い空間に小腸の一部がググッと入り込んだ結果、小腸が壊死して黒く変色していたのです。
小腸は通常、食べ物を消化して通過させるトンネルのような役割を果たす器官ですが、この腸が穴にはまり込んだ結果、トンネルが狭くなり、食べたものが通過できなくなります。食欲低下、お腹の張り、吐き気、嘔吐などの症状を引き起こすこの状態は医学的に「腸閉塞」と呼ばれています。
では、なぜ少年は腸閉塞を起こしてしまったのか?
原因は生前の彼の家庭環境にありました。
少年は父子家庭の一人っ子であり、毎日の食事は父親から渡される500円で、すべて賄っていたことが死後明らかになりました。
「500円で調理の必要がなく、たくさん食べられてお腹が膨らむものを」と考えて思い浮かんだのが、子どもでも気軽に立ち寄れるハンバーガーチェーン店のフライドポテトだったのでしょう。
毎食フライドポテトだけの食生活、そして少年の腰椎は人より1個多かった
少年は、ほぼ毎日、油の多いフライドポテトだけを食べ続け、腸閉塞を起こして苦しみながら死にいたりました。栄養バランスが極端に偏った生活が原因だったことは間違いありませんが、もうひとつ不確定ながらも、この少年固有の事情もありました。
人間の腰椎(腰あたりにある背骨)は通常、5個あります。ところが、CTで腹部を撮影したところ、少年には6個の腰椎がありました。
まれに腰椎が6個ある人はいますが、骨が1本多いということは、腹部のスペースが標準より広い可能性があったと考えられます。
要するに、普通の人よりもお腹がちょっと広い。けれども、小腸の長さは標準だったため、消化の悪いフライドポテトの過剰摂取で胃にガスがたまって膨らみ、余っている腹部の空間に小腸の端が入り込んで壊死した可能性もあります。
CTと解剖だけでは、食生活と腰椎の因果関係を明言することまではできませんでしたが、私はおそらく無関係ではなかっただろうと考えています。
死亡診断書に病名の「腸閉塞」としか書くことはできませんでしたが、背景には1人親家庭の貧困や、福祉制度の取りこぼしが関係していることは明らかです。
少年に手を差し伸べられる大人が1人でも身近にいれば、と心から残念に思わずにはいられない解剖でした。
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