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春は歓送迎会のシーズン。新入社員や若手にとって、お酒の席は「第一印象」を左右する重要な場でもある。

不本意な酩酊による“失敗”でキャリアに傷をつけないために、どんな備えが必要なのか。

国立精神・神経医療センター薬物依存研究部長で、精神科医の松本俊彦さんに聞いた。(ライター・渋井哲也)

●飲み会前の「下準備」:勝負は会場に行く前に決まる

新入社員にとって飲み会は、社内外のイメージが形成される場だ。しかし、アルコールに不慣れな「初心者」は自分の適量を把握できておらず、周囲のペースに流されやすい。

そこで重要になるのが、飲む前の「下準備」だ。

「まずは、空腹と口の渇きを避けましょう。空腹だとアルコールの吸収が早まり、血中濃度が急上昇して酔いが回りやすくなります。会場に行く前に牛丼などを食べ、ウーロン茶などで喉を潤しておくとよいでしょう」

さらに、アルコールの吸収を穏やかにする工夫があるという。

「牛乳も有効です。胃の粘膜を保護し、アルコールの吸収を遅らせます。肝機能補助薬に頼る前に、まずは急激な酩酊を防ぐことを優先しましょう。

また、喉が乾いていると最初の一杯を勢いよく飲みがちです。可能であれば、最初の一杯をノンアルコールにする、あるいは事前に一本ノンアルコールを飲んでおくと、その後のペースを保ちやすくなります。『最初の一杯』の戦略が重要です」

●飲み会中の「自己防衛」:緊張がピッチを早める

飲み会では、新しい職場や人間関係の中で緊張しやすく、無意識に飲むペースが速くなる。

「チェイサーを徹底しましょう。お酒と一緒に水やソフトドリンクを頼み、血中アルコール濃度を薄めることが大切です。また、飲み物の種類を変えないほうがいい。種類を変えると味覚がリセットされ、酔いが回っていても飲めてしまうからです。あえて同じ低アルコール飲料を飲み続け、『味に飽きる』状態にするのも安全策です」

そもそも無理に飲まないことも大事だ。

「お酒を断るのが難しい場面では、“うそ”も一つの手です。『肝臓の数値が悪くてドクターストップがかかっている』などと、外見からわからない理由を使えば、角を立てずに断りやすくなります」

●トラブル時の対応:命と身を守る判断

自分や同僚が急性アルコール中毒で倒れた場合、命に関わる対応が求められる。

「倒れた人は必ず横向き(回復体位)に寝かせてください。吐瀉物で気道が塞がれないようにするためです。ネクタイを外し、胸元を緩めて呼吸を楽にします」

また、酩酊者を自宅に送り届けるときにも一定の注意が必要だ。

「送り届ける場合は、セクシャルハラスメントなどのトラブルを防ぐため、同性が付き添うのが基本です」

●家族のケア:叱責よりも「心配」を伝える

家族が泥酔して帰ってきた場合、感情的に責めるのは逆効果だという。

「まずは安全確認です。深い酩酊状態か、呼吸に異常(変ないびき等)がないかを見てください。異常ないびきは、脳幹近くまで酔いが回っている危険なサインであり、枕を外して横向きに寝かせることが推奨されます」

そして、翌日に声をかけるとよい。

「本人が落ち込んでいるタイミングで話しましょう。その際、『あなたはダメだ』ではなく、『心配で眠れなかった』と自分の気持ちを伝えると、相手は受け止めやすくなります」

飲み方に不安がある場合は、専門機関への相談も選択肢だ。

「厚生労働省の治療拠点機関や依存症対策全国センター(NCASA)のサイトから、医療機関や精神保健福祉センターを探せます」

本人が治療に消極的な場合でも、対応はある。

「家族の関わり方を変えることで、本人の行動変容を促す『CRAFT(クラフト)』というプログラムがあります」

●無理に『陽キャ』を演じる必要はない

新入社員の最初の飲み会は、その後も長く語られることがある。

「無理に『陽キャ』を演じて伝説を作る必要はありません。たとえ『陰キャ』と言われても、安全に無難に過ごすことが、職業人としての人生を円滑にスタートさせるコツです。

この時期の失態は、職場の同僚や上司の間で長く語り継がれ、異動先でも影響する可能性があります。自分のキャリアや健康を守るためにも、最初は慎重に振る舞うことが賢明です」