【だいまつ】わずか10年で80→1店舗まで激減、最後のテナントはまさかの「バナナ畑」に…世にも奇妙な「福岡の廃墟モール」の実像
福岡県遠賀郡水巻町。JR鹿児島本線・水巻駅から15分ほど歩いた国道沿いに、グランモールという大型商業施設がある。
開業翌年には80店舗が入居していたが、10年も経たずにテナントが相次いで撤退。建物内のほとんどはバリケードで閉鎖され、2階へは上がることすらできない。営業しているのは1階の片隅にあるスーパー「ラ・ムー」の1店舗という、いわゆる"デッド(廃墟)モール”と化している。
衰退の根本原因は立地と視認性の悪さだ。国道沿いでありながら片側からしか入れず、木々に阻まれて建物すら見えにくい。近隣の競合施設との争いにも敗れ、百均やフィットネスジムといった生き残りやすい業態のテナントさえ去った。
実は、この土地には複数の商業施設計画が頓挫してきた経緯があり、グランモールはようやく開業にこぎつけた施設だった。所有者が変わった現在、この施設はどこへ向かっているのか。
前編記事『「ここまでの大失敗は見たことがない」福岡の大型モールが開業たった10年で80→1店舗に激減…その異様な光景』より続く。
新オーナーは再生のために2つの施設を誘致
なお、豊田通商の売却後に取得した現在の所有者だが、決して手をこまねいていたわけではない。商業施設としての再生を目指すのではなく、別の用途で活用しようとした。そして、建物の中央・左側に2つの施設を誘致している。
ひとつは「北九州イノベーションセンター」だ。公式ホームページによれば、デジタル技術体験施設のREDEE、ゲーム・スポーツ体験施設のJOYPOLIS SPORTS、人材マッチング支援センター、テレワーク推進センター、フィールド型オフィスの5施設で構成される、産学官連携による産業DX・スタートアップ育成を推進する次世代型複合施設。なかでも人材マッチング支援センターとテレワーク推進センターは、内閣総理大臣から国家戦略特区特例の認定を受けている。
ちなみに、このJOYPOLIS SPORTSの入口から施設内に入ると、商業施設だった頃の名残があちこちに残っている。いつ更新されたか分からないフロアマップ、撤退した店舗名がそのまま残る看板……閑散とした商業施設が好きな人には、ぜひ足を運んでほしいスポットだ。
中核テナントは「バナナの苗工場」?
そして、もうひとつが「アグレボバイオテクノロジーセンター」だ。これが問題の核心である。
ここは一般人が立ち入ることはできないが、施設のど真ん中かつ大きな面積を占めており、実質グランモールの核テナントといっていい状態になっている。
この施設の実質的なオーナーは、不動産小口化商品「みんなで大家さん」を運営する都市綜研インベストメントファンドだ。そして実は、グランモールの建物自体もこの会社が所有している。
「みんなで大家さん」がどういった商品なのかを簡単に説明すると、不動産をファンド化・小口化して投資家に販売。購入者は、対象の物件から得た賃料収入を、持ち分に応じて配当金として受け取れるという仕組みだ。
「みんなで大家さん」のホームページを見ると、アグレボバイオテクノロジーセンターはバナナの苗を中心に育てている施設と記載されている。ここでは特殊な「アグレボ農法」により、通常24ヵ月かかるバナナの苗がわずか6ヵ月で収穫可能になるというのが謳い文句だった。大型商業施設の核テナントがまさかバナナの苗を作る施設になるとは、意外性のある話だ。
筆者が以前訪問した際、入口はビニールシートで覆われ人の気配は全くなく、立派な設備がある様子にはとても見えなかった。「怪しいな」とは思いつつ、当時は動画内での深追いを避けた。しかしその後、さまざまな問題が次々と浮上してきた。
配当停止に集団訴訟、そして固定資産税の滞納へ
当時はまだ大きな話題になっていなかった「みんなで大家さん」だが、成田空港周辺の商品などの資金回収ができず、配当の支払いが遅延。このあたりから投資家たちの不安が拡大し、ニュースでも取り上げられるようになった。
しかも本来は賃料収入から支払われるべき配当金を、投資家からの出資金で賄っていた疑いまでかかっている。アグレボバイオテクノロジーセンターもその例に漏れず、2025年7月を最後に配当支払いがストップ。現在、投資家たちは出資金返還を求める集団訴訟を起こしている。
さらに深刻な疑惑がある。そもそもアグレボバイオテクノロジーセンターは、バナナの苗を実際には生産していないのではないか--という疑いだ。衆議院の国土交通委員会での答弁で、福岡県にバナナ・バナナの苗の出荷実績がないことが明らかになったのだ。
これに対し、みんなで大家さん側は年間1万苗の生産を行っていると反論しているが、では一体どこに出荷しているのか。
市場やJA、直販で取引する場合など、通常の農産物出荷については農林水産省への報告義務はなく、真相は現時点では不明だ。本当のところはどうなのか分からないが、ただ実際に配当がストップしている以上、疑念が拭えないのは事実だろう。
そして2026年2月、決定的なニュースが入った。グランモールの固定資産税2200万円が滞納されていることが明らかになり、水巻町がみんなで大家さんの大阪府内の不動産を差し押さえたのだ。
配当リスクについてはホームページ上に記載があるとはいえ、税金すら納められない状況は看過できない。そして、成田空港周辺など他の資産でも別途差し押さえが始まっている。この先、新規投資家が現れる可能性はほぼゼロに等しく、みんなで大家さんが復活する見通しは非常に厳しい。
グランモールの敷地は水巻町と北九州市にまたがっている。今回差し押さえを行ったのは水巻町側だが、北九州市側でも税金の滞納がある可能性は高い。国家戦略特区特例を受けた北九州イノベーションセンターの存在が足枷になることも考えられ、今後の動向は不透明だ。
スーパー1店舗だけが細々と営業を続けるグランモール。ここが閉店すれば、商業施設として完全に終わってしまう。末永く続いてほしいとは思うが、建物全体を覆う閉塞感は拭えない。
バブル崩壊以来、幾度もの計画頓挫を経てようやく開業したこの施設が、今度は「みんなで大家さん」問題に飲み込まれている。その行方を引き続き見守っていきたい。
(写真はすべて筆者撮影)
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