「ポキッ」という音がした…生後1カ月の実子に骨折負わせた父、それでも妻が「執行猶予」を求めた理由
生まれて間もない実子に暴力をふるい、骨折などの重傷を負わせたとして傷害罪に問われた20代の男性被告人に対し、大津地裁は4月10日、拘禁刑3年(求刑:拘禁刑5年)、執行猶予5年の判決を言い渡した。
被害者は、生後わずか1カ月の乳児だった。それでも母親である妻は、法廷で「執行猶予」を求めた。なぜ被告人は我が子に手を上げたのか。裁判で明らかになった経緯を追った。(裁判ライター・普通)
●「ポキッ」という音がした
被告人は保釈中で、スーツ姿で法廷に現れた。落ち着いた様子にも見えたが、審理の途中では涙を流す一幕もあった。
起訴状などによると、事件は2度にわたって起きている。
1件目は、被害者の左腕をつかんでひねり、骨折させたというものだ。
さらに、その約2週間後、2件目の事件が起きる。
被告人は我が子を抱き上げ、そのままベッドに叩きつけた。マットレスが敷かれていたものの、隙間のスチール製の床板に頭部を強く打ち付け、全治不明(起訴時)の頭部骨折などの重大な傷害を負わせた。
いずれの事実も、被告人は認めている。
●育児のストレスとエスカレートする暴力
検察官の冒頭陳述などによると、被告人と妻(被害者の母親)は事件の約3年前に出会った。
交際は順調だったが、ケンカになると、被告人は壁を殴るような場面がみられるようになったという。
妻の出産後、被告人は約1カ月の育児休暇を取得した。当初は丁寧に育児に取り組んでいたが、次第に疲労とストレスが蓄積していった。
妻から育児の雑さを指摘されると、苛立ちはさらに強まった。
ミルクを早く飲ませるよう哺乳瓶を強く押し込んだり、妻の目を盗んで叩いたりと、暴力は徐々にエスカレートしていった。
そのたびに「また、やってしまった」と後悔はしていたという。
●被害者を頭上まで抱き上げて叩きつけた
決定的な暴力は、夜泣きの最中に起きた。
仕事に復帰した被告人は事件当日、深夜に帰宅した。寝ようとしたが、被害者の夜泣きが始まった。被告人は、必死にあやす妻から被害者を取り上げ、泣き疲れさせたいと考えて背中をつねるなどした。
さらに泣き止ませようと、胎内にいるような姿勢を取らせようとしたが、被害者に手を振り払われた。その瞬間、感情が爆発した。
「そっちにやりたいなら、やってやるよ」
そう言って、腕を振り払われた方向まで限界までじわじわと曲げていった。
そして、「ポキッ」という音がした。
一瞬泣き止み、目を見開いてじっと見つめてきた我が子。被告人は、その様子にギョッとしたという。被害者は再び激しく泣き始め、妻には「強く引っ張ってしまった」と嘘をついた。
●抱っこを禁じられた後も、再び手を上げた
この一件で、被告人は抱っこを禁じられた。
しかし妻が入浴中、仕事に行きたくないという憂うつな気分の中、「元気が欲しい」と再び被害者を抱き上げた。
ぐずり始めた被害者に焦り、さらに浴室からかかる妻の声にも苛立ちを募らせた。
最初はベッドの上に放り、バウンドする様子を見ていた。だが、それでも怒りは収まらなかった。被害者を頭上まで持ち上げ、そのまま叩きつけた。
「ゴッ」と鈍い音が響き、被害者はぐったりとした。被告人は「死なせてしまったのではないか」と恐れたが、命を取り留めたことに安堵したという。
●「すごく腹立つ」それでも「必要な存在」
法廷には、妻が情状証人として出廷した。
現在、被告人とは別居し、実母の支援を受けながら子育てを続けている。
幸いにも、腕の骨折や頭部のケガについて、現時点で後遺症は確認されていないが、定期的な検診で経過を観察する必要があるという。
妻は、被告人について「すごく腹立つ」と語る一方で、「それでも必要な存在」とも述べた。
しばらく同居する予定はなく、児童相談所と連携しながら今後の方針を決めていくという。ただ、妻自身も、初めての育児で心の余裕を持てなかったことに後悔があると話した。
事件が実名で報じられていることから、将来、子どもが父親の存在をどう受け止めるか。服役した場合の影響も含め、「社会の中で更生してほしい」と執行猶予を求めた。
●骨折をさせたあと「まず自分の心配をした」
被告人質問で、当時の心境を供述する。印象的なやり取りもあった。
弁護人:骨折をさせてどう思いましたか。
被告人:妻にどう言おうと…。
弁護人:子の心配は。
被告人:まず自分の心配をしてしまいました。
弁護人:事件の原因をどう思っていますか。
被告人:親としての自覚が欠けており、こんなにも家族に迷惑をかけると想像できませんでした。
被告人は現在、心療内科に通院している。事件の重大さを忘れないため日記をつけ、感情のコントロールを学んでいるという。
言葉を振り絞るように話していたが、再犯について問われると、「今の私では、自信が持てません」と答えた。
●骨折時の我が子の目が忘れられない
検察官は、腕の骨折に加えて、その後の頭部骨折についても重く指摘した。
被告人は、腕を骨折させた際の被害者の顔が「なんで、こんなことするの?」と訴えかけてくるようで、今も忘れられないという。
それでも、そのわずか2週間後に再び犯行に及んだ理由については、「保釈中も考えているのだが、わからない」と述べた。
裁判官は、被告人に過去を顧みさせた。被告人が怒りを向けるのは、妻や母、そして実子であり、男性である父にぶつけたことはないという。そういった内弁慶的な傾向を把握し、分析するよう強く促した。
また、泣き止まないことをきっかけとした犯行に、「なぜ、同じ目線を求めるのか」「わかってもらおうとするのが間違い」と、自分本位の視点を厳しく責めた。その語り口は、法律家というより、一人の人間としての進言のようであった。
●執行猶予判決の理由とは
判決は、拘禁刑3年、執行猶予5年。
裁判官は、起訴された2件以外にも継続的な暴行がうかがわれ、偶発的な犯行とはいえないと指摘。動機は身勝手であり、被害結果からも実父による事件としては相応に重い部類と厳しく非難した。
一方で、自身の特性を把握し、通院継続を予定している点や、公的支援が見込まれること、家族も実刑を望んでいないことなどを踏まえて「最良の家族関係が再建されることを願う」と執行猶予を付した。
被告人は涙を流しながら判決を聞いていた。その反省が、被害者の成長とともに続くことが問われている。
