変貌する大阪・西成の今(前編)急激な多国籍化は「日本が数十年後に直面する未来」
大阪・西成地区における高齢化、空き家問題とそこへ流入する中国資本が絡んだ問題を「近い将来の日本の縮図」として捉えたMBSドキュメンタリー映像'26「西成と中国~共生か排除か~」(2026年3月15日放送)が大きな反響を呼んでいる。
”西成のドン”と言われる林伝竜氏による中華街構想。それに戸惑う住民の姿…。今後どう変わり、そして大阪府市はどう取り組むのか?
取材を担当した吉川元基ディレクター、樋江井亮カメラマンのインタビューを2回にわたってお届けする。その前編。(聞き手・山本智行 内外タイムス)
「西成がここまで変わっていたのか」
――放送から約4週間。いま注目されている外国人政策、移民政策を扱ったテーマだっただけに反響は大きかったのでは?
吉川 そうですね。西成は多くの日本人にとって「名前は知っているが、実態は見えない街」です。それだけに放送後は「西成がここまで変わっていたのか」という驚きの声が圧倒的でした。
「地域への誇りを失いつつある日本人側の責任」と「街を支える存在になりつつある中国人への複雑な感情」の間で、視聴された多くの方が揺さぶられたようです。正解のない問いだからこそ、これほど大きな反響をいただいたのだと感じています。
――吉川さんには「西成」を扱ったテーマが他にもあります。そもそも吉川さんが「西成」にこだわり続けるワケは?
吉川 西成は歴史的に「多様な人々」を常に受け入れてきた懐の深い街です。しかし今、ここで起きている少子高齢化、空き家問題、そして急激な多国籍化は、決して西成だけの問題ではありません。むしろ「日本が数十年後に直面する未来」を最前線で先取りしていると感じています。この街の変化を見つめることは日本の行方を見定めることと同義だと考えています。
――確かに西成地区はかつて、貧困、暴力。いまは高齢化、外国人問題など様々な問題を抱えている。今回のドキュメンタリーで着目した点は?
吉川 西成は「日本の縮図」です。衰退する地域に資本と外国人が入り込み、街の景色が塗り替えられていく。この現状を、他人事ではなく「自分事」として捉えてほしいという思いが強くあります。取材を通じて痛感したのは時代の波や資本の論理に流されるまま、街の未来を主体的に考えている人があまりにも少ないという危機感です。この作品が「自分たちの街を誰のために、どう残したいか」を問い直すきっかけになればと願っています。
開発の陰で家を追われた住民(毎日放送提供) ――今回に限らず、ドキュメンタリーを撮る際の役割分担はどんな感じでしょうか。また、やりがいを感じる瞬間は。
吉川 現場ではディレクターが主導権を握りますが、映像に関してはカメラマンを全面的に信頼し、細かな指示は出しません。ディレクターの目には映らない瞬間を、カメラマンの視線が捉えていることが多々あります。取材後の素材を見て「カメラマンは対象をこう見つめていたのか」とハッとさせられる瞬間が共同作業の醍醐味です。自分一人の視点を超え、複眼的な切り口が生まれるプロセスに、この仕事の無限の楽しさを感じています。
樋江井 ディレクターの吉川は容易に心を開かない取材相手であっても、粘り強くその懐に飛び込んでいきます。カメラを前に言葉を紡ぐことを躊躇する人物こそが、物語の鍵を握るキーマンであることは少なくない中で、彼はその高い壁を突破し、価値ある放送につなげる力があると思います。そこにカメラマンとしてどう立ち会うかというのがとても難しく、例えディレクターが信頼を勝ち取ったとしても、レンズを向ける私自身が対象者との関係を築けていなければ、真相に迫ることはできません。カメラマン自身もまた、一人の人間と向き合う努力を惜しんではならないと考えています。
――吉川さんと言えば西成。映像'22「93歳のゲイ」は評判になり、のちに映画化もされました。
吉川 主人公の長谷忠さんの人生を一本の映画として記録し、後世に残せたことに深い感謝を感じています。映画化によって長谷さんに新たな出会いが生まれ、彼自身が心から喜んでくれたこと。それが制作者として何より嬉しいことでした。「生きていれば、きっといいことがある」。その言葉を自らの人生で体現した長谷さんと伴走できた時間は、私にとってもかけがえのない幸せな経験でした。
――変貌する西成。実際、今回撮影していて感じたこと、危機感のようなものは。
吉川 西成の変貌のスピードには凄まじいものがあります。一時は民泊一色の街になりましたが、取材後半、日中関係の緊張が高まると同時にキャンセルが相次ぎ、早くも売りに出される物件が出始めました。街が国際情勢にこれほどまで翻弄される危うさ。民泊の次に何が来るのか。この街の変遷を記録し続けることは10年後、20年後に当時を振り返るための貴重な記録になると感じています。
樋江井 かつてはシャッター街だったところに、ネオンが華やかな「カラオケ居酒屋」が軒を連ね、カウンターに立つのは中国など外国にルーツがある女性ばかり。放送には地元で暮らす方の「中国に攻められているような陣地取り」という発言が出てきますが、カラオケ居酒屋の外から見る分には、まさに衰退する地域に外国資本が入り込むその現実を見ているのだという感覚がありました。
ただ、一歩店内に踏み込むと、カウンター越しに日本人客と中国人の店員が笑顔で酒を楽しむ光景がありました。高市総理の台湾有事発言によって日中関係が悪化する中でも、カラオケ居酒屋は草の根の交流が息づく、二か国の架け橋になっているようにも感じました。
変貌する大阪・西成の今(後編)黒壁の民泊が立ち並寂しさ募らせる住民たちに続く
《プロフィール》
吉川元基(きっかわ・げんき)1989年生まれ、京都府出身。2012年に毎日放送入社。報道記者として大阪府警や司法、行政のキャップを歴任後、2022年よりドキュメンタリー番組「映像」シリーズのディレクターを務める。2024年には映画「 94歳のゲイ 」を監督。「小児性犯罪~当事者たちの証言~」や「 13歳の声 」などで、ギャラクシー賞や坂田記念ジャーナリズム賞など受賞多数。
樋江井亮(ひえい・りょう)1990年生まれ、静岡県出身。2013年に毎日放送入社。報道カメラマンを担当。「 映像'22 ラジオにできること~FMひらかた閉局までの日々~」JNNネットワーク協議会賞〈地域・環境番組〉部門奨励賞「カメラマン企画それでも働きたい~重度障がい者の就労を阻む壁~」2025年度関西写真記者協会賞グランプリなど受賞多数。
