ニューヨーク・タイムズが昨年9月に配信した記事では「インタビューに応じたすし職人、マーケティング担当者、研究者、卸売業者はみな、コロナのパンデミックがアメリカ人のすし需要を予想外の、そして驚異的な急増に導いたという点で一致している」と分析している。

◆アメリカの「すし」ブームを牽引するのはZ世代

コロナ後もスーパーのすしは一段と販売数を伸ばした。サプライチェーンの混乱によるインフレによって物価が急上昇し、そのまま高止まりしたからだ。一般家庭では外食を控える傾向が強まり、家庭で食べるすしが「小さな楽しみ」になった。

このブームをけん引しているのは若い世代だ。思春期のころなどにコロナを経験し、ソーシャルメディアで素早く情報交換する10代半ばから20代の「Z世代」は健康志向が強いとされる。脂ぎった肉よりもさっぱりした魚介類を好み、深夜に飲食することを嫌う。スーパーのすしは「Z世代」の心に刺さり、消費量はアメリカの平均的な世帯の2倍にのぼるという。専門家は「小売業者が若い消費者を獲得したいなら、すしは成長させるべき重要なカテゴリーだ」と指摘する。

日本人がほとんど知らない間に、すしは大衆化してアメリカ人社会に浸透している。トランプ関税やイラン攻撃などでアメリカの物価はさらに上昇しており、消費者も小売業者もスーパーのすしへの期待は高まるばかりで、アメリカのスーパーの担当者は「アメリカのすしは高級品からコンビニエンスなフードに変わりつつある」と話している。

江戸時代、すしは屋台でさっとつまんで小腹を満たす食べ物だった。海外で「超高級化」に走る日本人のすしより、アメリカのスーパーに並ぶすしの方が、よっぽどすしの伝統に近付いている。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。