「そのネイルはダメよ」ベテラン女性社員が繰り返し指摘、ときには嫌味も…身だしなみ指導はどこまで許される?
会社のベテラン女性社員からネイルについて指摘された──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談によると、採用面接の際には「パーツのないシンプルなネイルなら問題ない」と口頭で説明を受け、具体的な色やデザインの指定はなかったといいます。
ところが事務職として入社後、ベテランの先輩社員から「その色はダメ」と繰り返し指摘され、理由も明確に示されないままネイルの付け替えを求められたそうです。就業規則にはネイルや服装に関する制限はありません。
さらに、先輩社員は「(ネイルの付け替えで)お金がかかって大変だね」と嫌味を言ったり、他の同僚に「このネイル、ダメだよね?」とわざと意見を求めたりしました。そのため、相談者は「屈辱的な思いをさせられました」とうったえます。
その後になって初めて「来客対応があるから」という理由を告げられ、ネイルを理由に仕事を制限するような発言もあったといいます。しかし、実際には来客対応はほとんどなく、ネイルを理由にクレームを受けたこともないとのことです。
相談者は「業務や常識の範囲での身だしなみを、個人の価値観で制限されるのは納得できない」と感じています。
このような指導は許されるのでしょうか。それとも、パワーハラスメントにあたる可能性はあるのでしょうか。小野山静弁護士に聞きました。
●パワハラにあたるのか?
──就業規則にネイルや服装の具体的な制限がなく、業務上でも来客対応がない場合でも、ネイルの付け替えを求めることは認められるのでしょうか。
厚生労働省のパワハラ防止指針では、パワハラについて次の3つの要素を満たすものと整理されています。
(1)優越的な関係を背景とした言動であること
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
(3)労働者の就業環境が害されること
こうした枠組みに照らして、職場での指導が行き過ぎたものかどうかが判断されることになります。
一般的に見て、業務の遂行に支障が生じるほどのネイルの長さや装飾があるときには、先輩社員がネイルについて指導すること自体は、業務上必要かつ相当な範囲を超えるものとはいえず、パワハラにあたる可能性は低いでしょう。
他方で、来客対応もなく、実際にネイルを理由にクレームを受けたこともないにもかかわらず、先輩社員の個人的な判断で、色だけを理由にネイルの付け替えを求める場合は、業務上必要かつ相当な範囲を超えているといえ、パワハラにあたる可能性が高いでしょう。
●「個人的な判断」による注意はパワハラの可能性
──では、ネイルについて注意する際に、先輩社員が個人的な判断で、理由を十分に説明しないまま嫌味を言ったり、他の同僚に見せて評価させたりする行為は、パワハラに該当する可能性がありますか。
ネイルについて注意する際の方法も問題になります。
理由を十分に説明しないまま嫌味を言ったり、他の同僚に見せて評価させたりする行為は、先輩社員という優越的な関係を背景としたものといえます。
このような注意の方法も、業務上必要かつ相当な範囲を超えており、「精神的な攻撃」といったパワハラにあたりうるものと考えられます。
●職場で相談ができなかったらどうする?
──もし職場でハラスメントの相談ができなかったり、相談しても解決できなかった場合、相談者はどうすればよいのでしょうか。
職場におけるパワハラに関して、企業には相談体制を整える義務があります。
労働施策総合推進法(※)は、事業主に対し、職場におけるパワハラを防止するための措置を講じるよう義務づけています。
もし職場の相談窓口が機能していなかったり、相談しても解決が難しい場合には、ひとりでも加入できるユニオン(労働組合)に相談したり、弁護士に相談することも検討するとよいでしょう。
(※)労働施策総合推進法30条の2第1項
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
【取材協力弁護士】
小野山 静(おのやま・しずか)弁護士
1982年生まれ。弁護士。旬報法律事務所所属(http://junpo.org/)。ブラック企業被害対策弁護団、労災保険男女差別違憲訴訟弁護団などに所属。労働事件、民事事件一般、家事事件などを手がける。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/labor
