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それは、月曜日の朝のこと。いつもの出勤ルートを歩いていたら、思わぬ光景が目に飛び込んできた。

【写真を見る】現場となった住宅街の路上付近

「えっ・・・」

心臓が跳ね上がった。住宅街の路上に、人がうつぶせの状態で倒れていたのだ。

男性は高齢で、動かず、反応もない。助けを求めようと周囲を見渡しても、他に通行人もいない・・・。

「とにかく救急車を呼ばなくちゃ」

熊本市のパート従業員・村井厚子さんは、とっさに119番通報をした。

その様子を一人の運転手が車窓から目撃していた。それが、男性の命を救った「リレー」の始まりだった。

同僚に「とりあえず来い!」

9月8日午前8時45分ごろ。勤務先の医療機器メーカーに車を停めた大山泰広さんは、出社早々、同僚2人に声をかけた。

「とりあえず来い!」

直前に、車から見かけた光景。倒れた男性の近くで通話する女性の姿に「ただ事ではない」「とにかく人手が必要」だと直感した。

3人で約200m離れた現場まで戻り、そこから村井さんとの連携が始まった。

村井さんは通話をスピーカーに変えて、消防指令員の指示を伝えた。

3人は「男性を仰向けにして欲しい」という指令員の指示を受けて体勢を変え、1人はAEDを取りに会社へ走り、1人は交通整理、もう1人は心臓マッサージにあたった。

そうして救急隊の到着を待つ間、もう一台の車が現場を通りかかった。

3人の同僚で、救急外来での勤務経験がある髙見昇吾さんだった。

「焦りはありませんでした」

髙見さんが駆け付けたことで、現場には5人が集まった。心臓マッサージは髙見さんが引き継いだ。

「焦りはありませんでした。ただ、昔の記憶をたどりながらマッサージを続けました」

やがてAEDや救急隊が到着し、男性は心肺停止の状態で病院に運ばれた。5人の連携は、いち段落した。

「あの男性は助かったのだろうか…」

その日以来、村井さんは通勤ルートを歩きながら考えていた。

2週間ほど経って、消防から電話があった。「男性は回復傾向にある」という。話を聞けば、ごみ捨ての途中で倒れたようだ。

そして村井さん達5人は、今回の人名救助で消防から表彰を受けることになった。

1か月半ぶり、笑顔の再会

10月28日の表彰で、村井さんは「男性たちが駆け付けてくれて助かった、私は電話をしただけ」と照れくさそうに笑った。

一方、大山さんたちはこう振り返った。

「村井さんがいたから『何かが起きている』と気づけました」

5人のように救急現場に居合わせた人のことを「バイスタンダー(bystander)」と呼び、現場では、バイスタンダーの通報や救急隊到着までの行動が重要となる。

それは傷病者の家族かもしれないし、同僚かもしれない。そして、偶然居合わせた赤の他人かもしれない。

熊本市東消防署の担当者は「村井さんが、命のリレーの第一走者になってくれた」と振り返る。

「一刻も速い119番通報が大切です。救命講習を受けていない方でも、こちらから通話で心臓マッサージなどの指示を出せます」

「今回の人命救助は、村井さんの行動から4人の会社員、救急隊まで、リレーが上手くつながった結果だと思います」