「中学受験全落ち→公立」は負け組ではない…私立を諦めた生徒が「日本一の進学校」開成高校に合格できたワケ
※本稿は、菊池洋匡『中学受験 親がやるべきサポート大全』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■“レベルの高い学校”に無理して行かなくてもいい
【×】少しでも高偏差値でレベルが高い学校に入ったほうがより上を見るようになる。子どもの目標も高くなり、モチベーションが上がるはずだ。ギリギリでも入れれば、そのあとはなんとかなるはず……。
→入った後、周囲の学力レベルについていけずに苦しむ。
【○】わが子が志望校にギリギリで入ることが適しているのか見極める。「合格すればそれでよい」わけではなく、入学してからのほうが大事であることを理解している。
→偏差値が低くても、その中学で上位にいたほうが頑張れる子は多い。逆にギリギリの合格でも、入学後も頑張り続ける姿勢があれば活躍できる。どこの中学に入ったとしても、入学後に頑張れるかが大事。
「少しでも偏差値が高く、レベルが上の中学に入ったほうがより上を見るようになる。子どもの目標も高くなり、モチベーションが上がるはずだ」という考え方を聞くことがあります。
確かにその通りです。私が通っていた開成は、誰もが自然と東大を目指す空気ができあがるので、東大受験を「自分には難しい雲の上のこと」とは思わなくなります。クラスメイトが作る、高い「当たり前の基準」に乗っていければ、良いペースで高い目標に向かっていけるでしょう。ただ、誰もがそううまくいくわけではありません。

■私もギャップに傷つき、やる気を失った
先ほど例に挙げた開成の話ですが、「東大を目指すのが普通の流れ」とはいいつつ、実際に合格して進学するのは、学年400人のうちの100人ちょっと。人数としては多いですが、全体の4分の1ですね。授業についていけない苦しい状態だと、周囲の高い「当たり前の基準」と自分とのギャップに傷つく日々が続きます。
かくいう私も、中学受験が終わって気がゆるみ勉強をサボったところ、中1の1学期でクラス最下位に近い成績を取ってしまいました。そして、勉強へのやる気をすっかり失いました。
人が物事に、前向きに取り組むためには「これならできる」という気持ち、自己効力感を持つことが必要です。環境が与えてくれる「当たり前の基準」に追いついていける自信を持てるかどうか、注意が必要です。100点満点のテストで、毎回70点くらいが取れる状況なら、これを100点にするための意欲も湧いてきますが、これが毎回20点とか30点といった状況から「やれるぞ!」「がんばりたい!」と奮起するのは辛く難しいものです。
■“ギリギリで合格”すると学力が伸びにくい
このとき話題になるのは、「比較的入りやすい学校に上位で合格する」のと「入るのが難しい学校に下位で合格する」のとどちらが良いかということです。「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言葉がありますが、教育経済学の研究によれば、この言葉は真実であることがデータで示されています。「小さな池の大魚効果」と呼ばれています。
ある学校の中で上位(鶏口)にいる子は、追い風を受けて学力が伸びやすくなります。その理由はすべてが解明されたわけではありませんが、どうやら自信を持てることが要因のひとつになっているそうです。気分良く勉強していくうちに、成績が伸びていくということです。
一方で、ギリギリで合格し、その学校の下位(牛後)に位置すると、向かい風にあい、学力が伸びにくくなります。鶏口の逆で、自信を喪失してしまうことが理由のひとつです。
もちろんこうしたことは平均的な傾向であって個人差はあります。上位で入学したはずなのに、どんどん成績が下がっていく子もいれば、ギリギリで合格したのにどんどん他の子を追い抜き、上位に駆け上がる子もいます。どちらのケースでも、入学後も勉強を続ける意欲や心のあり方が問われています。

■「難関校に入れれば、それでいい」は危険
「小学校6年間の成功を占うのは、中学入学時点での成績ではなく、中1最後の期末試験の成績」という言葉は、開成学園で校長をしていた柳沢幸雄先生(現・北鎌倉女子学園学園長)が語ってくださいました。中学に入った時点での成績より、最初の1年間で生活と学習のリズムをつかめているかどうかが大事ということですね。
第一志望の中学に入ったことに満足して歩みを止めてしまうわけでもなく、第一志望ではない中学に入ったことで絶望し、学びをやめてしまうわけでもなく、中学受験を経て身につけた学習習慣を、坦坦と維持できるかどうかが大事ということです。
ギリギリの合格でも、入った後に燃え尽きてしまうような合格か、ギリギリで入れたうれしさを胸に入学後も努力しようと心躍らせて入るような合格かで変わってくるということです。「難関校に入れればそれでいいから……!」と、親が頑張らせて無理をして入れると、苦しい環境の中で子どもが燃え尽きてしまいます。
逆に、本人が自分の全力で受験に臨み、なんとかつかみ取ったギリギリの合格で、「ここで頑張りたいんだ!」と燃えている状態で入学できれば、その後も活躍できます。事実、ギリギリの点数で合格したにもかかわらず、入学後、学校で積極的に活動し、学業でも学校生活でも大活躍している子の話を聞きます。そういう子は受験勉強を通じて、すでに中学校での生活の準備ができているのです。
■「入学後」のほうが大事
受験はゴールではありません。ここまで書いてきたとおり、入学後、どう過ごしていくかのほうがずっと大切です。「この合格が正解」「この不合格が不正解」と決まっているわけではありません。
むしろ、受験を通じてつかみ取ったものをどう正解にしていくかのほうが重要なのです。そして、中学受験を通じて手にしてほしい力というのは、この入学した学校、決まった進路を自分の力で正解にしていく力のほうなのです。
私が経営する伸学会は中学受験専門塾ですが、伸学会を創業する前に働いていた2社は両方、高校受験も中学受験も指導している塾でした。むしろ高校受験のほうがメインで、中学受験部門のほうが少数派。中学受験する子の割合は都内でも3割なので、部署として高校受験のほうが大きくなるのは当然かもしれませんね。
そうした会社で働いていたので、私は高校受験する中学生を指導した経験もあります。その生徒たちの中に、中学受験と高校受験の両方で教えた子たちが数名いました。その中で特に記憶に残っているのが、中学受験で2月の入試に全落ちして公立中学校に進学した子と、中学受験は合わないということで5年生のときに撤退し、公立中学校に進学した子です。

■“中学受験全落ち”でも、開成高校に合格
2月の入試で全落ちした子はもともと「中学受験がしたいから」ではなく、「勉強が好きだから、もっとおもしろい勉強がしたい」ということで中学受験を始めた子でした。そのため、本人もご家庭も「何が何でも私立の学校に進学」というつもりはなく、行きたいと思った学校を数校受けて、それでダメなら公立に進学と決めていました。
私は基本的にそういう受験プランはお勧めしていません。不合格が続くと不安で頭が働かなくなり、力が出せなくなってしまう子が多いためです。でも、その子の場合は、公立中学校に進学することに対してネガティブな気持ちはまったく持っていなかったし、1月に練習として受けた学校で合格も取って自信もつけていたので「それならば」と応援しました。
結果は残念ながら不合格。そして予定通り公立中学校に進学しました。中学受験が終わってからは、気持ちを切り替えてすぐに英語の勉強を始め、もともと得意だった算数・数学に加えて英語も武器にして、中学校3年間、優秀な成績を取り続けました。最終的には中学受験のリベンジを果たし、開成高校に進学しました。
■“公立中進学”も“撤退”も「負け」ではない
もう1人の子は、5年生で中学受験を撤退した子です。5年生だった当時はまだ精神的に幼い子でした。お兄ちゃんが中学受験をしていたので、ご家庭は弟もさせようと当初は考えていたのですが、この子には向いていないなと冷静に判断されました。無理にやらせようとしなかったのは、ご家庭のファインプレーだったと思います。
ご家庭も、本人に挫折感を与えないよう上手に対応して、気持ちを高校受験に切り替えさせました。そして、早々に英語の勉強を始めて、中学校に入るころには、かなり英語の学習が進んだ状態をつくることに成功しました。


この子も優秀な成績をキープして、高校受験では法政大学第二高校に進学しました。宿題をしっかりやることができなかった小学生時代とは打って変わって、中学生になってからは毎日のように塾に自習にやってきて、コツコツ勉強していたのが印象的でした。
どちらのケースにもいえることは、ご家庭の対応がとても上手だったことです。「不合格になったら負け」「中学受験撤退は負け」といった価値観を子どもに植え付けず、進路選択のひとつとしてフラットに公立中学校進学を位置づけていたため、子どもは挫折感を抱いたり、自信を喪失したりせずに済みました。そしてすみやかに方向転換して、次の目標である高校受験に向けたスタートを切れたのです。
「どこの学校に進学するかではなく、進学した後が大事。進学した学校を正解にするための行動をしよう」――この心構えをあらためて強調しておきたいと思います。
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菊池 洋匡(きくち・ひろただ)
中学受験専門塾 伸学会代表
開成中学・高校、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。10年間の塾講師歴を経て、2014年に伸学会を自由が丘に開校。現在は目黒校・中野校と合わせて3教室に加え、オンライン指導も展開。現在メルマガ・公式LINEは1万人超、YouTubeは10万人超の登録者がいる。主な著書に『小学生のタイパUP勉強法』『「やる気」を科学的に分析してわかった小学生の子が勉強にハマる方法』『「記憶」を科学的に分析してわかった小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』『「しつけ」を科学的に分析してわかった小学生の子の学力を「ほめる・叱る」で伸ばすコツ』(実務教育出版)などがある。
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(中学受験専門塾 伸学会代表 菊池 洋匡)
