ノルディックスキー・ジャンプで海外の現役ジャンパーが検査の形骸化を告発した(画像はイメージです)【写真:Getty Images】

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スイス紙「ブリック」が現役ジャンパーの告発記事を掲載

 ノルディックスキー・ジャンプで近年課題になっているスーツ問題について、海外の現役ジャンパーが不正の温床になっている検査の形骸化を告発した。スイス大衆紙「ブリック」が「現役選手が暴露 スキージャンパーはスーツ検査でこれほどのインチキをしているジャンプ界で用具問題への怒り! 現役選手が検査を簡単にパスする方法を明かす。大改革が求められる」とセンセーショナルな見出しで報じている。

 記事によると、年末年始に行われた伝統のジャンプ週間で数本のジャンプがスイスチームに不安を与えたと指摘。「ライバルたちが明らかに大きいスーツで飛距離を出していたのだ。インチキを非難する声は大きくなっている。ここ数週間、1平方センチメートルの布をめぐるマテリアル競争がエスカレートしている」と主張し、スイスのコーチが「(スーツの)数センチの余裕が伸ばす飛距離は10メートル近くになる」と証言したことも伝えた。

 そして、注目すべきは現役選手が匿名で告発した内容だ。「最近は用具検査を真剣に受け止めていない」と言い、検査が形骸化したことを暴露した。実際、最近のワールドカップ(W杯)オーストリア・クルム大会でサイズオーバーしたスーツで出場。しかし、スタート前の検査はパスし、競技後は検査を受けることなく通り過ぎたという。この選手の証言による不正の手法は「スーツを上に引っ張ると肩の部分に余裕が生まれる」というもの。スタート前の検査を受ける際の体勢で、4センチほどスーツが上体にずれ、浮力を受けやすい股下のむささび部分を規定内に収めるものとみられる。

 記事では「無作為に選手を呼び、より細かく行われる飛躍後の検査であれば、おそらく見つかってしまうだろう。彼はそのリスクも承知しているのだ」と指摘。しかし、本人が「実際、どの選手もインチキをしているから自分もやらなければならない。やらなかったらノーチャンスだ。もっと早くに手を打たなければならなかった。もう検査は意味をなしていない。そうでなければ半数の選手が失格になるはず」と語った談話も紹介している。

手作業の検査に限界、くまなく調べられるのは選手の半数程度

 こうした背景もあり、スイスの選手もスーツのサイズを規定ギリギリまで大きくするグレーゾーンのせめぎ合いに出ているという。記事によると、国際スキー連盟(FIS)検査責任者のクリスティアン・カトル氏は、手作業で行われる検査に「常に100%精確とはいかない」と改善の余地があることを認めたといい、将来的にはデジタルによる補助が導入される見込みだ。しかし、同紙が「さらなる問題」と指摘したのは、検査が不十分であること。

 スイス・スキー連盟のジャンプ部長のベルニ・シェトラーは抜け道に憤り、「選手の用具は飛び終えた後に徹底的に検査されるべき」と主張。しかし、これは配置できる検査官などの体制の問題から不可能といい、くまなく検査できるのは出場選手の半数程度が限界であると記事は否定的だった。さらに、同紙は「それゆえにスーツが作戦になってしまっているのだ」と記した。

 予防策として、前述のスイス人コーチは「規則を少なくして、その代わりしっかり検査する。ルールが色々あり過ぎて、検査官1人や2人ではカバーしきれない。さらにジャンプ台の上に大きな検査(スペース)を設置するのも一つの手だ」と提案。1月のW杯札幌大会では初めてこの案が実施され、反応は好意的だったが、他のジャンプ台ではスペースの問題もあり、課題が残るという。記事では「スキージャンプにおいて、用具検査は最大のミステリーであり続ける」と訴えた。

(THE ANSWER編集部)