今回の箱根駅伝は1区で17位と出遅れ、2区終了時点では19位。その2区では一時最下位の20位を走るシーンもあった東洋大。酒井俊幸監督は「20位で走って、全選手通過を知らせるうしろの放送を聞いたのも初めての経験で。沿道から『もっと頑張れ』など叱咤激励の声援を選手も監督も受け取るわけですから、3年ぶりの有観客の声が本当に胸に響きました」と話す。


t佐藤真優から襷(たすき)をつなぎ、8区では区間賞の走りを見せた木本大地(右)

 終わってみれば、10位でシード権は確保と底力を見せた。それでも酒井監督の振り返る言葉は厳しいものだ。

「シード権獲得という最低限のノルマは果たせてよかったですが、2020年に2区の相澤晃と5区の宮下隼人が区間新で区間賞を獲りながらも総合10位になった時とは、違う雰囲気の10位でした。当時は、6区で区間2位だった副将の今西駿介を含め、4年生たちが終わったあとに悔しがり、『11年連続3位以内の伝統を壊してしまった』と、ボロボロ涙を流していました。それに比べると今回の10位はチーム内に安堵感があったので、私としては危機感を持っています」

 春シーズンは好調で、5月の関東インカレでは1500mからハーフマラソンまでの4種目で入賞者を出し、特に1万mとハーフマラソンは3名全員入賞で東洋大1部トラック優勝に大きく貢献。さらに6月の全日本大学駅伝関東地区選考会でも2位通過と力を発揮した。

 ところが2年連続で2区を走り、前回は区間5位、さらに2月の全日本実業団ハーフでは1時間00分43秒を出して、4月には1万mで28分42秒17の自己新を出していた松山和希(3年)が、ケガで出雲と全日本を回避。結局箱根も16人のエントリーメンバーからも外れた。

「エース格の松山の不在は大きかったですが、夏以降の駅伝シーズンに入るところからチーム全体の調子が『おかしいな』と感じるようになりました。11月くらいからこれまでなかったコロナやインフルエンザの感染者が出てきて、箱根直前には疲労骨折も出てしまいました。特に熊崎貴哉(3年)は秋シーズンには好調だったので、箱根でも起用する予定でしたが、最後の1週間のタイミングで大事を取って気になっているところを検査したら、疲労骨折が判明して。結局、万が一を考えて回避しました」

 ほかにも2年連続で6区を走り、全日本では5区を区間5位で走っていた九嶋恵舜(3年)も起用できなかった。松山抜きでもチームエントリー時点では区間ひと桁順位で走る選手を揃えて戦える実感を持っていたが、結局、起用したかった選手のうち4〜5人が走れない状況に。酒井監督は「これまでで一番手応えのない箱根になってしまった」と話す。

「エース抜きで苦しい布陣になるのは覚悟していましたが、ここまで起用できないとなるとチームマネジメントが課題になると思います。ただ1区は出雲と全日本でも出遅れていたので、箱根はなんとしてもそういう流れにはしたくなくて。1区の児玉悠輔(4年)に関しては練習もすごく好調で、チームで一番いいくらいの状態だったので『スローペースでもハイペースになっても対応できるのは彼しかいない』と自信を持って起用しました。

ただ、チームが苦しい状態のなかで複雑な心境もあったと思うけれど、そこで出遅れたのは痛手でした。2区の石田洸介(2年)も調子は非常に悪かったけど、ほかに起用できる選手がいなかったことと、彼自身が2区への覚悟ができていたので起用しましたが、2区終了時点までは厳しい展開になるかと予想していました」

 それでも、3区から上げていけばシード権のチャンスは十分にあると考えていたという。

「今回、下から上がっていって感じたのは、15位くらいまではスーッと上がって行けるけど、そこからシード圏内に行くには、やはりきちんとした手応えがある区間が出てこないと上がれないということでした。3区の小林亮太(2年)は、よくあの(前が見えない)位置から16位まで上げてくれたなと思います」

 4区の柏優吾(4年)が区間13位ながらも総合順位を14位まで上げ、5区の前田義弘(4年)が区間5位の走りで11位まで上げてシード権が見えてきた。酒井監督は、前田の5区は勝負をかける起用だったという。

「5区は往路で一番稼げる区間だと考えていました。身長190cm(の選手)の登りは普通セオリーではないけど、彼は1年の時から登りの練習はけっこう強かったので。彼の場合、12月になってフィジカルもしっかりしてコンディションも出雲や全日本より上げてきて、9区で区間5位になって調子のよかった前回の箱根の時くらいに噛み合ってきたので、彼を5区にして思いきって勝負しようと思いました。8区で区間賞を獲った木本大地(4年)も候補のひとりでしたが、木本よりトータルで見れば調子がいいくらいでした」

 7区から箱根経験者を並べた復路は、当初から『そこからしっかり上げていこう』と自信を持っていた。特に8〜10区は、関東インカレの1部ハーフマラソンで自己新を出して2位と5位になっていた梅崎蓮(2年)と木本がいて、2年連続で10区を走り、前回は区間2位だった清野太雅(4年)を置くことができた。その3区間は選手を信じ抜いた上での起用。8区の木本の区間賞獲得に続き、9区の梅崎は区間4位。10区清野は区間9位ながら、東京国際大を抜いて10位を死守と、シード権獲得の力になった。

「4年目でやっと区間賞を獲った木本や、マラソンと両立をした柏や清野の4年生が最後の箱根をしっかり走ってくれました。練習や食育、フィジカルの向上に真摯に向き合い、努力のできる姿勢を下級生に見せてくれたと思います」

 結果は10位だが、3位の青学大とは4分01秒差。酒井監督は「10番のチームが何言っていると言われるかもしれないけど......」と苦笑しながらこう続ける。

「今回は9区で3〜8位があれだけ大混戦になったので、3位とのタイム差を考えればチームマネジメントがうまくいけば十分に狙えたし、他大学もそう思っていると思います。近年は実力が拮抗しているので、主力が1枚欠け、2枚欠けになってしまい、さらに区間2桁が思わぬアクシデントとして出てしまったら、一気にシード権争いとかその圏外に落ちてしまう可能性があります。ただ、以前優勝争いをしている時は、2位でも今回の10位より悔しさを前面に出す選手も多かったです。その時は悪くても3位と思っていたので、やっぱり優勝を狙えるくらいにならないと、3番には入れないと思います」

 それでも次を考えれば、今回体調不良で使えなかった選手はすべて3年以下。再び3位以上を目指すチームを作ることができると酒井監督は言う。

「松山の復活がなければ成し遂げられないことだと思いますが、入るべき選手がしっかりエントリーできるようになることと、あとは何より本来の鉄紺のチームを作っていくことだと思います。その点では、次は必ず上位争いに加わることが必要。再びシード権争いという形になってしまって10位が2年続けば、それが当たり前の景色になってしまうから、それを早く本来の景色に戻さなければいけない。今回3区の小林がこれを機に伸びてくれれば次も往路でいけると思うし、今回9区の梅崎も往路でも復路でも行ける選手。ふたりともまだ2年で伸び盛りだから、これから1年かけて1段も2段もステップアップして、次期エースを目指す石田とともに区間賞を狙える位置に行ってほしいですね」

 救いは、全日本も箱根も予選会なしと言う酒井監督は、「100回大会へ向けてじっくりやっていきたいと思います」と決意を口にする。