佐々木文俊被告(左)と殺害された山中健司氏(右)

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「午後6時37分でした。子どもに食事をさせていると、夫から電話があって“刺された”って……。“どこなの?”と場所を聞いても教えてくれず“ごめんな”と言ったのが、夫との最後の会話でした」

【写真】夫を殺害された“極道の美人妻”、組長と被告の“親密”写真など多数

極道の妻が殺害犯の証言を否定「“側近”であり“親友”だった」

 そう告白するのは“極道の妻”。

 今は夫を亡くし、ひとりの子どもを育てる被害者遺族だ。その転機となる事件は、今年の夏にあった。

「7月21日、秋葉原の路上で6代目山口組傘下の暴力団組長であった山中健司氏(当時34)が、刃物でわき腹を刺され殺害されました。

 犯行に及んだのは、キャバクラやガールズバーなどのコンサルタント業を営む佐々木文俊(ふみとし)被告(35)。犯行後に都内の警察署へ自首して、22日に殺人容疑で逮捕されました。東京地検は8月、殺人罪などで佐々木被告を起訴しています」(全国紙社会部記者)

 “一般人”である佐々木被告が、暴力団組長を殺害する異様な事件だったが、その背景には“金銭的なタカり”があったとされている。

「2人は2013年ごろに居酒屋で知り合い、親密になったとようです。その中で、山中組長から“もう少し都心に店を出してはどうか”というアドバイスを受けて、佐々木被告は新橋駅近くにキャバクラ店をオープンしたといいます」(同・社会部記者)

 2017年に山中組長が傷害事件を起こして逮捕され、2018年には有罪判決が下されている。2人の関係に変化が訪れたのは、このあたりから。

「逮捕を機に、佐々木被告は山中組長が暴力団員であることを知った。傷害事件で執行猶予付きの有罪判決を受けて釈放されてから、山中組長は人が変わり“俺のことをボスと呼べ”と強要させていたと佐々木被告は供述しています。

 さらにはキャバクラ店の売り上げを“みかじめ料”として要求するだけでなく、飲食代や“車を買う金をよこせ”“家賃を払え”などと、再三にわたって金銭の支払いをさせていたそうです。佐々木被告は妻や親族にも金を借り、2018年夏ごろから総額8000万円を山中組長に支払ったとされます」(同・社会部記者)

 山中組長は、結婚して子どもがいた佐々木被告の家族にも危害を及ぼすなどと脅すようなことを言っていたとされる。

 だが、冒頭で話す山中組長の妻・ユキさん(仮名、30代)は、これらの内容について、

「まったく事実と違います。佐々木は一般人でしたが、夫の“側近”であり、“親友”でした。夫が彼を追い詰めるようなことをするはずがないんです」

 と訴える。

「ボスの力になりたいんです!」組長に寄せていた“信頼”

 ユキさんが山中組長と出会ったのは5年ほど前。都内のカウンターバーでユキさんが働いているところに、山中組長が訪れたという。

「佐々木と飲みに来た夫が、私のことを気に入ってくれたんです。そのころ2人はすでに仲がよく、夫は私のことを“かわいいだろ?”などと佐々木に話していたみたい。

 佐々木は、夫と私の関係を見守っていてくれた“キューピッド”のような存在でもある。私たちが夫婦ゲンカすれば、夫も私もまっさきに電話して相談するのが佐々木だったんです」(ユキさん、以下同)

 ユキさんは山中組長が暴力団関係者だと知りつつも、ほどなく深い関係になった。

「飲んだり遊んだりするのは、いつも3人一緒でした。佐々木は夫が逮捕されたときに、夫が暴力団関係者だと知ったとされていますが、夫と交際前の私ですら知っていたのですから、彼が知らなかったはずがありません」

 佐々木被告は山中組長が東京拘置所に収監された2017年夏ごろに、東京・新橋でキャバクラ店をオープンさせたが、

「それについても、夫の仕事場が錦糸町から新橋に移ることになったと聞いて“ボスが新橋に行くなら、俺も新橋で店を開きます!”とか“ボスの力になりたいんです!”と言っていたんです」

 表面上は別人物をオーナーに据えていたが、資金を出して実質的にお店を経営していたのは佐々木被告だった。

「当初は佐々木の名義で店を経営していましたが、佐々木が風営法違反で逮捕されてから、トラブルを避けるため別にオーナーを置くようになったんです。

 夫は、そのガールズバーのオーナーを佐々木に紹介したり、新店舗の内装などについてアドバイスしたり、キャストとなる女の子集めの方法など、さまざまな助言をしていました。そのコンサルタント料は確かに佐々木から支払われていました」

「オレの親友を悪く言うな」

 この“コンサルタント料”が、つまるところ“みかじめ料”になるのでは?

「佐々木を脅して無理やりお金を支払わせたのではなく、彼も了承したうえでのビジネスパートナーでした。佐々木に子どもが生まれたとき、夫はすごく喜んでいました。お互いの子どもの将来について話すぐらい。

 ただ、佐々木の自宅は神奈川の相模原で、週に1回しか家に帰っていなかった。なので、夫は“家の近くに店を出して、もう少し帰ってあげな”と話していたんです。すると佐々木は“ボスの管轄以外で店を出しても、ボスのためになりません”と言っていました」

 つまり、佐々木被告は山中組長が暴力団員であると知ったうえで協力したいと話していた、という。東京都が定める暴力団排除条例では、一般の事業者が暴力団に利益供与することを禁止している。

「夫は佐々木を本当に信頼していました。私がちょっとした佐々木の不満を言うと“オレの親友を悪く言うな”と怒るぐらい。昨年末から2回ほど、佐々木が行方をくらましたことがありました。

 夫は“あいつ、飛んだ(※編集部注:行方をくらますこと)よ”って、悲しそうな顔で話していました。でも、佐々木はすぐに戻ってきたんです。本当に夫との付き合いが苦痛なのだったら、そのままいなくなればよかったのに……」

常連店の店員も被告の証言に困惑

 ただ、ユキさんが見ていない場面で、山中組長が佐々木被告を追い詰めていたのかもしれない。2人がよく通っていたという居酒屋の従業員に話を聞くと、

「えっ? 佐々木さんが、山中さんを刺したんですか? というか、暴力団員だったんですか? そんなバカな……」

 と絶句する。そして、2人のこんな様子を証言する。

「うちにはよく来てくれていましたが、必ず2人は一緒でした。最初は仕事の話でピリッとした空気が漂うのですが、その後は楽しそうに飲んでいましたよ。学生時代のことや、お互いの子どものことを話してね。

 詳しいことはわかりませんが、会話の端々から感じたのは問題を抱える佐々木さんを山中さんが守っているような印象でした。お会計は山中さんが払うこともありましたし、割り勘のことも。常に佐々木さんが払うなんてことはなかった」(居酒屋の従業員)

 別の飲食店の店員も、

「必ず2人で来て、仲よく飲んでいましたよ。2人が何の仕事をしている人なのかは知りませんでしたが、お会計はいつも山中さんが払っていた印象です」

 と、証言した。

被告とは家族ぐるみの付き合い、プレゼントも

 ユキさんによると、事件の少し前にも、2人で仲よく飲み歩いていたという。

「事件の10日前には、私や子どもたちも一緒に食事をしましたが、佐々木は食欲もあって、思い悩んでいる様子は微塵も感じなくて……。

 佐々木は、夫が“俺のことはボスと呼べ”強要したと話しているようですが、佐々木自身が周囲に夫のことを“ボスと呼んでください”と言っていましたし、飲みの席で“お前の態度はボスに失礼じゃないか”と、佐々木は常に夫を立てようとしていたんです」(ユキさん、以下同)

 金銭的に困窮したような様子も見受けられなかった。

「キャバクラ店などの売り上げはそれなりにあって、佐々木は潤っていたはず。なにより佐々木の家族も気にかける夫が、そこまで追い詰めるわけがないんです。家族ぐるみの付き合いで、私たちの自宅に招き、食事をする関係でした。

 逮捕されて連行される姿がテレビで報じられましたが、そのとき佐々木がかけている白フレームの眼鏡は、夫からのプレゼント。殺したいほど憎む相手からもらったものを、身につけますか?」

凶行なぜ?事件の直前に喫茶店でも「普通の会話」

 佐々木被告のSNSには、

《ボスの器にいつもながら感服》

《ボスがお前は一人じゃないと言ってくれた事がある》

《ここまで尊敬出来る方に出会えた事が自分の幸運》

 など、“ボス”こと山中組長を称賛する投稿が並ぶ。

 ユキさんの話を聞く限りでは、佐々木被告が凶行へ至った理由が見つからない。

「事件直前の喫茶店でも、夫と運転手と佐々木の3人でごく普通に話していたそう。会話は、ツイッターのフォロワー数についての話題もあったようだと警察からは聞きました。それがまさか、佐々木に刺されるなんて、夫も思ってなかったと思います」

 そこで佐々木被告の両親に話を聞こうと、神奈川県にある実家を訪ねて、インターホンを押したが応答はなかった。

 近隣住民に話を聞くと、

「事件があった次の日から、佐々木さんの家は誰もいません。事件前は、ごく普通で、問題を抱えていた感じはまったくなかった。お父さんとお母さんは教師で、とてもいい人。家庭に何の問題もなかったはず。最近は見かけなかったけど、文俊くんも明るくいい子だったんだけどね……」

 と、肩を落とす。

自分の罪を軽くしようとしている被告を許せない

 極道でありながら、山中組長も家に帰れば父親だった。

「子どもたちはパパが買ってくれたブロックやパズルを大事にして遊んでいます。事件が起こってから“なんでパパはいないの?”と言っていましたが、子どもなりに私を気遣っているのか、最近は聞いてこなくなりました。私から夫を奪い、子どもたちから父親を奪い、家庭を壊した佐々木には、被害者遺族として極刑を望みます」(前出・ユキさん、以下同)

 そして、こう続ける。

「佐々木は検察の取り調べに対して“復讐が怖い”と話しているそうです。それはつまり、刑務所に入っても、すぐに出所することを考えているということ。確かに、夫は一般人ではありませんし、社会から受け入れられない存在だったことは、私も理解しています。

 ただ、夫に脅されたとウソの証言をして、自分の罪を軽くしようとしている佐々木を許すことはできません。いったい、なぜ夫は殺されなければならなかったのか。裁判で事実を明らかにして、適正な裁きを下してほしいと思います」

 真実はどこにあるのか――。